コラム

    • コンゴ民主共和国のエボラ拡大

    • 2018年12月04日2018:12:04:05:19:13
      • 外岡立人
        • 医学博士、前小樽市保健所長

コンゴ民主共和国北東部の北キヴ州とチュリ州。武装ゲリラグループ達が戦闘を行っている地域である。
 
本年7月末にエボラ流行がこの地で確認されて以来、発病者数と死者数の増加が続いている。
 
11月末の段階で発病者数が421人、そのうち241人が死亡している。
 
戦闘地域のために正確な情報がとれてないことから、実際の数はさらに多いと考えられている。
 
8月から感染者周辺に実験的ワクチンの接種が史上初めて行われているが、対象となる感染者や、その接触者はゲリラ達を恐れて、姿を消してしまう例も多くワクチン戦略は完璧に行うことが困難となっている。しかし医療担当者達の予防には効果を発揮しているようだ。
 
流行地域近くの大都市ベニでは、河川を通じた輸出入が盛んであることから、隣国や遠方の国。すなわちアフリカ外にウイルスが拡大することが懸念されている。
 
人に感染して、体内でウイルスが増加する間にウイルスが変異する危険性がある。早期に流行を根絶しなければ変異エボラウイルスが出てくる。空気感染を起こす変異が一番怖い。
 
エボラウイルスは感染すると体液を介して、体内のどの臓器にも潜む。一番の問題は、免疫的に作用が及びにくい脳、睾丸、卵巣等への感染である。免疫学的聖域と呼ばれる。
 
自然、または実験的治療薬で治癒した後も、ウイルスが免疫学的聖域に潜み続けることがある。こうした臓器に残存したウイルスは不活化された状態で、いわば冬眠状態となっており、全身に広がることがない。しかし免疫が低下してくると、すなわち宿主体内のウイルスに対する抗体量が減少してくると、ウイルスは活性化してきて感染力を取り戻してくる。
 
エボラ既往歴を持つ女性は特に危険である。妊娠により免疫が低下して、ウイルスが活性化する危険性があるからである。治癒1年後に妊娠をきっかけとして再発した事例も知られている。また男性では精液中にウイルス遺伝子が1年以上も検出されたり、実際、性行為で相手がエボラを発症したりする例も知られている。
 
エボラ治療薬の開発は進み、現在5種類が実験的段階ではあるが、WHOが使用を承認している。臨床試験では早期から使用すれば効果は期待できる。しかし感染者の発見、さらに発病者の発見が十分行うことが出来ない現在の紛争地域では、ワクチンや治療薬が入手出来ていても、ウイルスの根絶は困難となっている。
 
エボラ治癒後に再び発病する例がいる事実は怖い。
 
性行為、妊娠などで免疫低下状態にある場合、ステロイド等の免疫を低下させる薬剤を服用している場合等、エボラが再発する危険性がある。
 
エボラ感染者がさらに増えて、治療薬で多くが治癒したとしても、体内にウイルスが不活化した状態で残存しているかの判断は出来ない。
 
治癒した患者達が感染地域から海外に出てきた場合、既往にエボラ感染があることを医療機関で把握出来ていないと、そこで再び感染が広がる可能性がある。すなわち再発して初期の内に医療機関を受診しても、単なる発熱だけでは、早期のエボラであることを見逃す可能性が高い。
 
患者が感染力を取り戻したエボラ患者であることを、早期に誰が診断出来るか。難しい話である。
 
東京都のど真ん中の大病院でも診断まで数日はかかるだろう。発病してから診断、そして隔離されるまで10日間は要する。
 
空気感染するような変異をしているなら、その間に、数百人の感染者が出る可能性が高い。致死率7割である。完全隔離ベッド、さらには火葬場、葬儀場は間に合わない。
 
21世紀のスペイン風邪となるのだろうか?
 
しかし空気感染を起こすようになったエボラは、致死率2%のスペイン風邪を遙かに凌ぐ、一桁上の恐怖の感染症である。
 
 
 
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外岡立人(医学博士、前小樽市保健所長)

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