コラム

    • 制度疲労と審議劣化

    • 2019年01月22日2019:01:22:04:20:54
      • 楢原多計志
        • 福祉ジャーナリスト

◆沈黙の世界 

 
いつまで続ける気なのか。
 
財務省はもとより、おひざ元の厚労省内からも懸念されている介護職員の処遇改善策。平成21年度の月額平均2万4千円改善から始まり、24年度6千円、27年度1万3千円、29年度1万4千円、そして31年度は1万2千円相当に加え、リーダー的な介護職員にはさらなる上積みが・・・。
 
税金と保険料を投じる処遇改善について「まったく効果がない」とは言わないが、「カネで解決できる」は誤りだ。
 
深刻な介護人材不足。「遂に」と言うべきか、入管難民法を改正し、ことし4月から外国人労働者の受け入れを開始する。
 
無期限の在留も可能となり、「限りなく移民解禁に近い」と当初、あれほど声を荒げていた自民党ベテラン議員の抵抗は自然消滅したのか、反対の声がサッパリ聞こえなくなった。政治の世界では沈黙は敗北を意味する。
 
 

◆大盤振る舞い

 

閣議決定された31年度厚生労働省予算案によると、処遇改善は介護報酬加算の2本立て。
 
(1)「社会保障と税一体改革による社会保障充実分による平成27年度介護報酬改定における消費税財源の活用分」から1人あたり月額1万2千円相当の処遇改善費893億円(国と地方分の合計)
 
(2)安倍政権が掲げる「新しい経済政策パッケージ」からリーダー級の介護職員への「さらなる処遇改善」として月額平均8万円相当(過去給付分含む)または全産業平均年収(440万円程度)同等の賃金水準引き上げ費用421億円(同)。
 
他産業からみれば、「羨ましいほどの大盤振る舞い」(観光ホテル旅館業団体役員)と映る。
 
 

◆丸投げという「ばらまき」

 
取材者の立場から言えば、後者のリーダー級職員に対する処遇優遇は理解に苦しむ。昨年暮れ、社会保障審議会介護給付費分科会が審議報告書をとりまとめたが、その間、厚労省の説明や委員の議論を聴いていて、正直、納得ができないことが多々あった。
 
例えば、加算の対象となる「リーダー級の介護職員」の定義。当初、厚労省は「経験・技能ある職員」とし、具体的に「経験10年以上の介護福祉士」と説明していたが、審議途中から「介護職として通算経験10年以上」と後退し、最後は「勤続10年以上の介護福祉士を基本とし、介護福祉士の資格を有することを要件としつつ、勤続10年の考え方は事業所の裁量で設定して構わない」で折り合った。
 
何のことはない、基本は基本として事業所の判断に任せるというのだ。こうした手法を世間では「丸投げ」という。
 
また処遇改善の目標も同様だ。リーダー級介護職員の賃金水準について「月額8万円または役職者を除く全産業平均賃金水準の年収440万円以上とする」とし、最低でも1施設に1人以上配置するとした。
 
年収440万円は全産業の平均賃金を単純に割って出しただけの数字に近い。子ども算数だ。介護業務の勤務実態や特性などは考慮されていない。
 
「全産業と同等にすれば、人が集まる」とでも言いたいのか。労働実態の把握という介護行政の基本、根幹がなっていない。責任の欠片も見えない。
 
リーダー級以外の職員への配分を可能にしたのも、介護団体からの強い要請があったらから。しかし、これも「事業所の裁量で良い」とした。肝心なところを事業者に丸投げしておいて「柔軟な運用」と言い換える強心臓は見上げたもの。世間は「詭弁」と呼ぶ。
 
優秀な厚労省職員が、リーダー級介護職員の賃金引き上げておけば、介護離職に歯止めがかかり、高水準の離職率を下げられ、介護のイメージアップにも繋がる─と本気で考えているわけではないだろう。
 
政権にすり寄った「急場しのぎ」や「ばらまき」は、制度をゆがめ、介護当事者(介護事業者と従事者)の意識をマヒさせ、いつか破たんする。審議を聴く限り、2000年(度)介護保険スタート時の意気込みや熱気は消え失せ、制度の疲労と審議の劣化を強く感じた。
 
 
 
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楢原多計志(福祉ジャーナリスト)

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