コラム

    • マテリアルズ インフォマティクス

    • 2019年01月29日2019:01:29:05:55:15
      • 岡光序治
        • 会社経営、元厚生省勤務

「材料」とは、「物質のうち、人間の生活に直接役立つもの」と定義されている。物質は1億を超えて知られているが、「直接役に立つもの」はほんの一握りと言われている。
 
材料は、原料が手に入りやすいこと、量産ができること、加工がしやすいこと、人体に被害がないこと、環境負荷が低いことなど様々な要件を満たすものであるべきと考えられている。
 
 

◆コンピューターと材料

 
人類の歴史を振り返りと、文明を次のステージへ飛躍させるカギの一つは、一つの新しい材料の登場であろう。
 
コンピューターをめぐる変化・発展を見ればよく分かる。人類史上初めてのコンピューターは、1945年に作り出された「ENIAC」であり、1万8千本の真空管、7万個の抵抗器、1万個のコンデンサなどからなる幅30m、高さ2.4m、奥行0.9m、重量27tというものであった。1948年、トランジスタ登場。これは、今日まで続く半導体産業の幕明けとなった。使われた材料は、ゲルマニュウム。しかし、ゲルマニュウムトランジスタは熱に弱く、60℃くらいになると動作不良になった。そして、ついにシリコン(ケイ素)が現れた。1984年1月、アップル社の初代マッキントッシュが発売された。
 
ケイ素は、電気を通す性質を持った金属と電気を通さない非金属の中間、いわゆる半導体としての性質を持つことはつとに知られていたが、ケイ素の純粋な分離が難事業であった。
 
純粋なケイ素の結晶はほとんど電気を通さない。そこへ他の元素を不純物として少し混ぜる「ドーピング」を行うと、例えばホウ素の場合、ホウ素はケイ素に比べ電子の持ち合わせが少ないので、そこだけ電子が足りない「電子の孔」が空いた状態になる。電圧がかかると、手近にいる電子が孔に向かって移動し、そこで空いた孔に別の電子が入り込むという過程を繰り返し電気が流れることになる。また、ケイ素より電子をひとつ余計に持つリンをドープしても、電流を流すことができる。ドープする元素の種類や量を調整することで様々な性質のものを作り出せることになった。
 
さらにこれらの半導体を組合せ、一方からやってくる電流だけを通すダイオードや、情報を記録する半導体メモリなどが作られた。シリコン半導体は驚異的なペースで進歩し、今日のシリコンチップは、多数のトランジスタをケイ素の半導体上に集積させたものだ。
 
 

◆材料探索

 
材料探索とは、既知物質の既知特性に対し、別の物質で同等ないしそれを超える特性を実現することを言う。別の物質とは、構造的に新しい物質だけでなく、良く知られた物質でも特定の特性について注目されていない場合に、その構成元素や組成を探索し目指す特性を実現することを含む。
 
これまでは、研究者の勘と経験に基づいて物質を合成して特性評価することが行われてきた。構造や特性などの実験データを様々な因子で整理し、その相関性をもとに機能発見のメカニズムを推定、理論モデルを構築するという手法は材料探索に大きく貢献した。
 
 

◆マテリアル インフォマティクス

 
今やAIが材料を創る時代に入ろうとしている。過去に作り出された材料の各種データをコンピューターに「学習」させることで、新たな性質を持った材料を予測しようという動きである。「マテリアルズ インフォマティクス」と呼ばれる手法で、ビッグデータの高速解析と深層学習を行うものである。
 
ところで、日常、我々が観測する化学現象―光吸収や発光、電気伝導性や熱伝導性、機械的強度などは、その根源をたどれば、物質の中の電子の振る舞いによって決まっていると言われている。だから、この電子の振る舞い(=電子状態)を調べることができれば、すべての物性を理解できることになる。しかし、電子を2つ以上含む原子や複数の原子を含む分子についてその電子状態をきちんと数式で解くことはできない。(いわゆる多体問題と呼ばれている。)どうしても解こうとすると、近似的な手法をとるしかない。手法としては、実験的に得られたパラメーターを使用せず計算する第一原理計算がポピュラーになっている。
 
第一原理計算では実験によるデータを必要としないため、人間の想像力から生み出した物質がどのような物性を持つかということを調べる、仮想実験を行うことも可能となる。
 
マテリアルズ・インフォマテックスにおいては、したがって、網羅的実験データに合わせ第一原理計算に基づいた材料機能の推定データでデータベースを構築し、情報量の飛躍的増大を図るとともに情報の均質化も可能となってきている。
 
しかし、データベースの構築だけでは、材料探索としては不十分である。3つ以上の元素を含む多元系の化合物は大変な量に及びすべてをカバーするデータベースの構築は困難な上、多くの材料機能が物質の一次情報から直接的に演繹されるものではないからである。
 
未知である材料機能を合理的に推定し、それに基づいて物質のスクリーニングを行うなど探索方法を絞り込む手法の開発が必要と思われる。
 
 
 
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岡光序治(会社経営、元厚生省勤務)

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