コラム

    • 韓国診療所訪問記

    • 2019年03月12日2019:03:12:08:46:53
      • 片桐由喜
        • 小樽商科大学商学部 教授

◆はじめに

 

医療保障制度・医療保険制度を研究する大学教員らで構成されたグループで、各国の病院、介護施設に関する本を出版予定である。私は韓国担当となり、過日、訪韓して2つの診療所を見学してきた。出版に先立ち、本コラムで診療所訪問記である。
 
訪問先の1つは首都ソウルから電車で1時間のインチョン市にある外科医院、もう1つはソウル市郊外にある小児科・青少年科医院である。
 
 

◆外科医院-シンプル病室-

 
最初に訪問したA外科医院は肛門科を主として標榜する。場所はインチョン市内の交通の便の良いところにある。ちなみに、インチョン市は2018年現在、人口295万人でソウル、プサンに次ぐ第3の都市、同市には韓国が誇るハブ空港、仁川国際空港がある。
 
A医院は5階建てビルの2階と3階部分を使い、2階は受付と診察室、手術室、処置室、3階に1人部屋4つ、3人部屋2つの病室がある。スタッフは医師2名、看護師4名である。
 
このA医院の特徴を2つ、あげたい。1つは、小規模医院でありながら、医師2名体制である点である。ホームページを見ると以下のような診療体制である。外来を担当しない時間帯に各医師が手術、施術をするということであった。
 
 
院長(50代、男性)にこの規模の医院で医師2人体制について聞くと、にっこり笑って、「自分の時間を確保するため」、つまり、趣味や家族に費やす時間、そして、勉強の時間を確保したいと言う。このような例は多いのかと尋ねると、これまた、にっこり笑って、非常に少ないだろうとのことである。
 
もう1つの特徴は、日本人の私の目から見て院内がシンプル、率直に言うと簡素である。日本で最近、新築のクリニックへ行くと、どこもとても「おしゃれ」である。家具やインテリアに凝っているし、中にはガラス張りの外観を呈するところもある。それに比べ、ここの医院は本体機能以外にはあまり経費をかけないという印象を受けた。
 
写真1はA医院の病室(1人部屋)である。写っている以外の家具備品はない。平均在院日数が2泊3日ということもあるだろう。それでも、the simpleである。
 
【写真1】
 

◆小児・青少年科医院

 
次に訪問したのはソウル市カンナム区にあるB小児・青少年科医院である(以下、B医院)。韓国も従来は「小児科」が用いられてきたが、2007年、医療法を改正し(同年施行)、小児科を小児青少年科と改称することを定めた。
 
カンナム区はソウル市内を東西に流れる漢江の南側に位置し、大きなショッピングモールが立ち並び、かつ高級住宅街として知られた地域である。B医院はやや交通の便が悪いけれども、医院の入るビルの地下に広い駐車場が完備されており、アクセス環境は悪くない。
 
ここは医師1名(40代、女性)と看護師2名である。B医院を訪問して、これは韓国の医院規模の特徴ではないかと思ったことがある。それは看護師が受付を兼ねていることである。上記A医院もB医院もいずれも、そうであった。だからなのかは、わからないけれども、診察室に看護師はいない。
 
看護師は受付業務をできるけれども、看護師資格のない者が受付をしながら看護師業務をすることができない。それで、人件費節減のため、さらにいえば、そうすることで、看護師の給料を上積みして、定着を図っているのか。これは次回、訪問時に尋ねてみようと思う。
 
写真2はB医院の待合室風景である。2月の寒い時期なので、風邪をひいた子供たちで混んでいるかと思いきや、ご覧のとおり、空いている。そこで、医師に予約制なのかと尋ねると、「予約制ではないのだけれど、待つことを嫌う若いお母さんたちの要望で、受付後、保護者と子供がいったん、外へ出てカフェなどで時間を過ごし、診察室へ入る順番が3番目くらいに回ってきたときにカカオ(日本でいうラインと同じ)メッセージを送る」のだという。 
 
そうすることで、患者たちの待ち時間は減り、院内が込み合うこともない。患者のニーズに素早く対応するところに、フットワークの軽さを見た。
 
【写真2】
 

◆似て非なる医院事情

 

「似て非なる」は日韓両国を比べて言うときに使われる常套句である。ほとんど同じ、全く違うという現象より、似て非なること・ものが多いからである。医院事情もしかりであった。
 
もっとも、たった2つを見てすべてを知った風なことをいうのも、おこがましい。読者におかれては眉に唾をたっぷりつけて、読まれたい。
 
 
 
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片桐由喜(小樽商科大学商学部 教授)

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