コラム

    • エボラ、拡大の一途、国際緊急事態宣言をWHOに専門家達が要求

    • 2019年03月19日2019:03:19:05:44:42
      • 外岡立人
        • 医学博士、前小樽市保健所長

2018年7月末以来、流行が継続しているコンゴでのエボラウイルス感染症(エボラ)は、歴史上2番目の大流行となっている。
 
コンゴ当局、WHO、NGOが懸命な努力を続けているが、流行はさらに拡大し、制御からはほど遠い。地域的、さらには世界的に、長期間流行が続くリスクが兆しはじめた。
 
流行地域では武装勢力による戦闘が続き、複合する人道的危機に直面している。このような状況下、2月4日、国際的専門家達十数人が著明な英国医学誌のランセット誌上に、「WHO事務局長はWHO緊急委員会(EC)を招集し、国際公衆衛生緊急事態宣言(PHEIC)を発令すべき」とのアピール文を掲載した。
 
本稿ではランセット掲載のアピール文の内容を中心に、現状のコンゴにおけるエボラの問題について解説する。
 
 

◆第1回WHO緊急委員会(EC)の指摘とこれまでの状況

 
WHOのエボラに関する一回目のECは、2018年10月17日に開かれた。そこでは対応強化の必要性と、深刻な脅威となる恐れが指摘されていたが、PHEICの結論は得られなかった。PHEICは発令されると、国際的に各種の制限が生じるからである。
 
その後、第一回目のECの指摘は現実味を帯びてきた。すなわちエボラ患者は当初の3倍以上に増え、流行地域は拡大の一途を辿り、コンゴから周辺国へと拡大する懸念がでてきたのである。それは世界への拡大の第一歩となる。
 
効果的対策のためには個々の感染者の特定が必要である。しかし発病者との接触者リストによると、感染者の20%も特定されていないようだ。この状況は、接触者調査、感染疑い者隔離、発病者の治療、そして安全な埋葬指導(死者からの感染は最も重要な感染ルートとなっている:死者から出てきている体液などに触れることで感染する例が多い)を困難とする。
 
WHOは現在行っている "発病者との接触者、そしてさらにその接触者に接触した人々へのワクチン接種(リング・ワクチン接種 [ring vaccination]と言われる )" から、"感染地域全体に住む人々へのワクチン接種" へ切り替える必要があると考えているが、それだけ大量のワクチンの手配は極めて困難である(現在はメルコ社から実験段階にあるワクチンが提供されている)。
 
現在、国境を越えて、ウガンダ、ルワンダ、および南スーダンへとウイルスが拡大する危険性が高い。コンゴの人々は毎日売買や家族訪問、葬儀などで数万人が国境を越える。ウガンダとルワンダは厳しい監視体制を敷き、国境を越えて感染が拡大してくることに備えている。
 
 

◆周辺国への拡大のリスク

 

ウガンダでは、第一線の保健医療従事者に既にワクチン接種している。さらに、ウガンダの国際空港であるエンテベ空港では、全ての旅行客のスクリーニングをしているという。それでも感染者の見落としは起きうる。
 
コンゴ北側に接する南スーダンは世界で最も公衆衛生学的に脆弱な国の一つである。同国へのエボラ拡大は、地域の状況を不安定化し、一時的に訪れている平和も破壊しかねない。そこに持続している暴力と飢饉が追い打ちをかける最悪の事態が懸念される。
 
PHEICの公的基準は決められている。国連の国際保健規則(IHR)はWHO事務局長にPHEICの発令権限を委ねている。
 
PHEICは、他の国々に公衆衛生的危険が及ぶ危険性があり、その対策に国際的共同作業が必要な緊急事態が発生していることを意味する。事務局長はまた発令に際して健康危機のレベル、国際的拡大速度、ECガイダンスなどを参考にする必要がある。
 
2018年10月に招集された第一回目のECでは、当時の状況は必ずしもPHEICの条件には合致していない、と否定まではしていなかった。
 
現在、国境を越えてエボラが拡大する危険性は明らかであり、周辺国が協力し合ってその拡大を抑えている状況である。
 
コンゴでのエボラ流行は地域紛争地の中で広がっている。そこでは武装勢力が戦闘しており、医療従事者への攻撃があり、新たな感染者の増加につながっている。
 
 

◆アピール文 著者らの主張

 

アピール文著者らの主張は、以下の通りである。
 
我々著者らはWHO事務局長にECを再招集し、PHEICの発令について論議することを要求する。
 
事務局長は加盟国、国連、そしてNGOに参加を要請し、現在起きている事実の提示を求めるべきである。
 
参加すべき組織は、コンゴ民主共和国の国連安定派遣団(Stabilization Mission)、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)、国連難民機関、およびNPOを中心とする市民社会である。
 
 
 
【参照資料】
 
(1)Ebola in the Democratic Republic of the Congo: time to sound a global alert? The Lancet.(「コンゴ民主共和国のエボラ流行:国際公衆衛生非常事態宣言考慮の時期」『ランセット』2019年2月16日)
 
(2)The facts about Congo’s frightening Ebola epidemic. Washington Post.(「コンゴ民主共和国における脅威のエボラ流行の実態」『ワシントンポスト』2019年2月2日)
 
 
 
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外岡立人(医学博士、前小樽市保健所長)

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