コラム

    • 10年ぶりの英国訪問とインドネシア10年

    • 2019年04月16日2019:04:16:05:04:48
      • 森宏一郎
        • 滋賀大学 経済学系 教授

昨年度末、約10年ぶりに英国を訪問し、母校の英国ヨーク大学を訪れた。また、同じ時期にインドネシアにも訪問した。インドネシアは、これまでに継続的に訪れたのだが、最初に訪れてから約10年が経過した。
 
一方は先進国であり、もう一方は新興国である。加えて、10年ぶりと10年経過では、全く異なる文脈の10年でもある。したがって、厳密に何かを比較できるわけではないことは分かっている。
 
それを分かったうえで、今回のコラムでは、なんとなくの区切りとして、ゆるい比較をしてみたい。ゆるい比較を通して、それぞれについて筆者の感慨・気づきを書き記してみたいと思う。
 
 

◆データで見る10年

 

筆者の主観的な話を披露する前に、客観的なデータを確認しておきたい。図表1は1人当たりGDPを比較したものである(注1)。日本と英国の水準はほぼ同じである一方、インドネシアは日英の4分の1程度である。だが、インドネシアは1万ドルを超える水準に到達した。
 
【図表1】1人当たりGDP (2011年基準の購買力平価為替レート換算の米国ドル)
資料:World Bank, World Development Indicators
 
現在価格基準で見ても、インドネシアの1人当たりGDPは1万ドルを超えた(12,284 USD, 2017)。明確な先進国基準は無いが、一昔前には、1万ドルを超えると先進国と言われていた時代がある。少なくとも、1万ドルを超えるようになるとそれなりに豊かになったとは言えそうである。
 
このデータは筆者の実感に合っている。日本で取るランチと同等のランチを英国で取ろうとすると、消費税を無視すれば、だいたい同じような価格水準に直面する。他方、インドネシアではだいたい4分の1から3分の1ぐらいという感覚を持つ。
 
ただし、インドネシアで、日本と全く同じものを食べようとすると、価格水準はほとんど変わらない。たとえば、丸亀うどん、大戸屋、すき家、日本のラーメン店など。ここでは、あくまでも、現地基準で日本と同等の感覚で食事を取ろうとすると、どれぐらいの価格帯になるかを考えている。
 
次に、図表2は最近10年間の平均の1年当たりGDP成長率を示している。インドネシアの1年当たりの平均成長率は5.46%で、日英とは大きな差がある。特に、我々の実感のとおり、日本の成長率は0.54%と低くなっている。あとで述べるように、インドネシアはこの10年で激変した。
 
【図表2】2008~2017年の1年当たりGDP成長率の単純平均
資料:World Bank, World Development Indicators
 
図表3はジニ指数である。ここでは、0~100の値を取るように計算されており、数値が高いほど所得格差が大きいことを示す。データ取得可能年に違いがあるものの、インドネシアの格差が一番大きくなっている。
 
【図表3】ジニ指数
資料:インドネシアのデータはWorld Bank, World Development Indicators。日本と英国のデータはOECD Statistics
 
ジニ指数は世帯所得で計算しているため、世帯構成が変化したりすると、所得分配の状況が何も変化していなくても、ジニ指数が上昇・下降することがある(注2)。ここでは、この種のテクニカルな考察をしないが、ジニ指数の数値も概ね実感に合う。
 
ただ、ジャカルタにおける世帯アンケート調査の中で聞き取った所得データでは、ゼロが7・8個異なるような世帯所得の格差が観察されたことがある。この点では、インドネシアのジニ指数38.1という数値は低く出ているようにも感じる。
 
ジャカルタ都市圏では、スラムがある一方、超高層ビル群が存在する。おそらく、インドネシア全体の所得格差よりも、スラムと高層ビルが共存するジャカルタの所得格差の方が大きいということなのだろう。
 
 

◆大きく変化したインドネシアとさほど変化のない英国

 
約10年前、ジャカルタを訪れたときは大変だった。あくまでも個人的感想だが、ジャカルタ空港に降り立った瞬間から、汚い・くさいと感じた。当時は、タクシーの移動中、車内でもマスクをしていないと、息苦しい感じがあった。
 
また、これまでは毎度のように入国ビザ購入と入国審査に2時間ぐらいかかり、預けた荷物がターンテーブルを回っているのを見たことがなかった。ようやく入国審査を終えて出ていくと、両替の呼び込みでごった返した。そこを過ぎると、今度は次から次へとタクシーの呼び込みがやってきた。
 
タクシーの呼び込みと同時に荷物運び人も寄ってきた。荷物をしっかり持っていないと、すぐに誰かが運ぼうとしてしまう始末である。タクシーの置いてある場所と荷物の移動先がバラバラになってしまうようなリスクもあった。
 
今回、空港がリニューアルしていた。先進国をはじめとする他の空港と同様に美しいし清潔である。そして、もう入国に時間はかからず、ターンテーブル前で自分の荷物を待つこともできる。
 
笑い話のようだが、何度もジャカルタを訪れてきたが、ターンテーブルから自分の荷物を取ったのは今回が初めてだった。どこか感動的でもあった。さらに、空港からジャカルタ中心部まで鉄道が通ったのである。もう煩わしいタクシー呼び込みを相手にしなくてよいのである。
 
鉄道チケットを購入する自動販売機のところでは、英語で案内してくれる人がいた。同行したインドネシア通の研究者も驚きを隠さなかった。その後、3月中旬には念願の地下鉄がジャカルタで開通したようである。
 
今回からというわけではないが、調査のために雇っている運転手付きレンタカーはトヨタ車で、もう車内でマスクをしなければならないような状況にはない。加えて、科学的に測定していないが、ジャカルタの大気汚染の程度は明らかに改善してきたと感じる。
 
超高級スーパーに該当するようなショッピングモール内のスーパーマーケットを訪れると、驚いたことがある。以前は割と閑散としていて、外国人用に存在しているように見えた。しかし、現在は現地インドネシア人たちで、ごった返しているのである。
 
日本のスーパーマーケットにあるようなハウス栽培のトマトが冷蔵保管されていたり、カット野菜やカットフルーツも冷蔵販売されていたりしている。価格帯も日本と変わらない。しかし、所得階層は高いのだろうが、現地の人たちで賑わっているのである。飲食店ゾーンでも同様である。
 
他方、英国では、これといった大きな変化はなかった。おかげで留学先のヨークの町では懐かしさを感じることができた。実は、ヨークの最大の変化は母校の英国ヨーク大学のキャンパスが2倍になったことである。初めて訪れる新キャンパスはただただ広く、寂しい感じがした。
 
ただ、町に全く変化がなかったわけではない。いわゆる町の中心部に利便性の高さを売りにしたマンションが多く建設されていたことが目に留まった。
 
どの先進国でも同じだが、英国も高齢化の波が押し寄せ、町から離れたところの一戸建てよりも、利便性の高い都市中心部のマンション暮らしの方がよいと考える傾向があるようである。地方都市におけるコンパクトシティ化の推進は、日本をはじめ多くの先進国で見られる共通した現象である。
 
 

◆共通する関心事項

 
立て続けにインドネシアと英国に訪れたのだが、やはり世界はつながっていると言うべきなのだろう。関心事項に共通点があった。もちろん、それらは最新の人気話題(hot issues)である。
 
インドネシアのボゴール農科大学に訪問したときに聞いた話は、農業産業4.0(Agroindustry 4.0)とか称し、AIや自律型ドローンの農業応用研究を中心とした農業イノベーションであった。
 
この話がすごいところは、いくつかの村を村丸ごと実験場にしていることである。利害関係者との調整がうまくいっているのだろうかと気になったが、実験を進めている研究者たちによると、うまくいっているという。
 
他方、英国では、同様にランカスター大学で自律型ドローンのコンピュータープログラムを開発する研究者と出会った。想定する応用先を聞いてみると、完全に一致しているとまでは言わないが、多くの部分で関心トピックが共通していた。
 
もう一つの共通関心事項はサステイナビリティ問題への対処である。地球環境問題を含む問題なので、地域や発展段階が異なっても共有しなければならない問題ではあるが、いずこでも高い関心を集めていると言ってよい。
 
ボゴール農科大学でも、英国ヨーク大学でも、先方のリクエストに対応して、都市のサステイナビリティに関する講演を実施したが、それぞれ関心は高かった。説明するまでもなく、いずれの地域もサステイナビリティ研究に熱心である。
 
また、英国のブライトン大学の経済学の講義に顔を出したとき、単にメインストリームの経済学を教えるのではなく、経済・社会面の最低要件を満たすことと同時に、地球環境の制約条件を守ることの重要性が強調されていた。その中で、新しい経済学としてドーナツ経済学が紹介されていた。
 
実は、私の講義内でも昨年度からドーナツ経済学を紹介している。そのため、ブライトン大学の講義担当講師と意気投合した。
 
彼は、ドーナツ内に入る(全ての条件を満たす)方法が不明だと不満を述べていた。他方、私はそもそもドーナツが細くなっていたり(全ての条件を満たすのが困難な状況)、ドーナツそのものが無かったり(全ての条件を満たすのが不可能)するのではないかと話し、彼は関心を示してくれた。
 
 

◆おわりに

 
さて、前回のコラム(リンク)で、イノベーションのカギとして相対化・融合化・多様化を議論した。今回のコラムは非常にゆるいものだが、英国とインドネシアを訪れてきたことは、私にとっては、多様なものに触れることによって相対化と融合化を促すものだろうと思う。
 
今後も調査研究や教育活動を進めるうえで、機会があれば多様な地域に出ていきたい。そのプロセスを通じて、積極的に自分の頭の中で相対化・融合化を進めて、自分らの活動がイノベーティブ(革新的)になるように努めていきたい。
 
 
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注1.ここ10年の変化を見るために、2011年基準価格で固定した実質ベースのデータを使用。
注2.大竹文雄(2005)『日本の不平等:格差社会の幻想と未来』日本経済新聞社(リンク)を参照。
 
 
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森宏一郎(滋賀大学 経済学系 教授)

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