コラム

    • "75歳以上の1人暮らし"が500万人超という異常社会

    • 2019年05月20日2019:05:20:01:10:18
      • 河合雅司
        • ジャーナリスト

令和時代がスタートした。古(いにしえ)より、改元は社会の空気を一新するものとされてきた。日本を取り巻く様々な課題が解消し、希望に満ち溢れた時代の到来を期待する国民は少なくない。
 
とはいえ、現実は厳しく、平成からの〝宿題〟も多い。その筆頭格が少子高齢化だろう。平成を「少子化が進んだ時代」と位置づけるならば、令和は「高齢化対策に追われる時代」だ。「令和24年」たる2042年に、団塊ジュニア世代がすべて65歳以上となり、高齢者人口がピークを迎えるからである。
 
国立社会保障・人口問題研究所(社人研)の「日本の世帯数の将来推計」が2040年の世帯状況を描き出しているが、65歳以上の高齢世帯は2015年より324万増え、2,242万世帯となる。世帯総数に占める割合は36.0%から44.2%へと上昇する。大雑把に言って、2軒に1軒は「高齢者が暮らしている家庭」という社会の到来だ。
 
都道府県別では、秋田県が57.1%になるのをはじめ、青森県53.6%、山梨県51.9%など計10県で50%を超す。
 
高齢世帯の増加傾向において注目したいのは、75歳以上の動向である。世帯主が75歳以上の世帯は1,217万に上り、世帯総数の24.0%を占める。
 
世帯主が75歳以上となる世帯を都道府県別にみると、秋田県(35.2%)や鹿児島県(31.7%)などでは3割を超える。同一県内での人口の偏在を踏まえて考えるならば、これらの県だけでなく、住民の大多数が75歳以上という〝超高齢地域〟が各地に登場することだろう。
 
75歳以上の世帯において特筆すべきは1人暮らしの増加だ。2015年の337万人から、2040年には512万人を越える見通しである。これは極めて異常な社会だ。
 
なぜ、75歳以上の1人暮らしが増え続けるのであろうか。大きな要因の1つは、長寿が進むことだ。社人研の「日本の将来推計人口」によれば、2040年の80歳以上は国民の7人に1人にあたる1,578万人だ。90歳以上に限定しても532万人となり、総人口の5%近くを占める。
 
ここまで「高齢化した高齢者」が増えてくると、配偶者と死別するケースも多くなろう。子供が巣立ち、あるいは子供がいなければ1人となるわけだが、平均寿命の延びで死別後に1人で居る時間が長くなっているのである。
 
もう1つの理由は、生涯未婚者や、離婚や若くして死別した後にシングルで過ごす人が珍しくなくなったことだ。若い頃は年老いた親と同居をしている人もいるが、老親が亡くなると1人暮らしとなる。こうした人たちが老齢期を迎えと、1人暮らしの高齢者数を押し上げることとなる。
 
75歳以上の1人暮らしを都道府県別にみると、世帯総数に占める割合は鹿児島県14.8%、高知県13.9%など29道府県で10%を超える。ただ、若い世代が減る道府県ほど高めの数値が出やすい。そこで実数について調べ直してみたところ、トップは58万8千人を数える東京都であった。続いて大阪府41万人、神奈川県37万4千人、北海道、埼玉県、愛知県が同数で26万2千人の順である。総人口が多い大都市部で増えるということだ。
 
大都市部の中でも、高齢者が激増するのは中心市街地である。年老いてからの1人暮らしに備えて、体が動く年齢のうちになるべく利便性が高いところに住み替えておこうと考える人が少なくないためだ。
 
若い世代も含めて、今後、人々が日本列島上をどのように移動するのかについては筆者の新刊『未来の地図帳』(講談社現代新書、6月発売予定)に詳しいのでそちらを参考にしていただきたいが、75歳の1人暮らしも大都市の中心部に集中してくることが想定される。
 
75歳以上の1人暮らしが増えると、懸念されるのが「社会的な孤立」だ。人口が激減していく自治体では、こうした1人暮らしの高齢者が点在するエリアが広がるだろう。一方で勤労世代は減るため、地域の支え手は不在となりがちだ。総務省の推計によれば、2040年頃になると職員数を十分確保できない自治体も登場する見込みで、税収不足や人手不足による行政サービスの停滞も懸念される。
 
人口が激減する地域では、今後、民間事業者でも撤退や廃業するところが増えるだろう。こうなると、医療をはじめ〝買い溜め出来ないサービス〟が困る。遠方の店舗まで足を運ぶのが難しくなる75歳以上の1人暮らしの増加は、地域の過疎化に拍車をかけることだろう。
 
1人暮らしの高齢者に対する支援体制の脆弱さは、人口が密集する大都市部も例外ではない。大都市部はこれまでビジネス優先、若者中心の町づくりをしてきており、駅などには階段や段差のあるところが少なくない。都会特融の人間関係の希薄さもあり、近所づきあいが活発ではないエリアも多い。しかも、住宅用地が乏しいこともあって郊外の丘陵地にまで住宅街が広がっている。〝買い物難民〟や〝通院難民〟は、地方だけでなく大都市部においても社会問題化しよう。
 
懸念されるのは「社会的な孤立」だけではない。1人暮らしの高齢者の増加は生活困窮者の増加につながりかねない。
 
年齢にかかわらず、1人暮らしの場合には電気やガス、水道などの使用料が、家族数の多い世帯に比べて割高になりがちであるが、これだけでも実質的な可処分所得は目減りするようなものだ。しかも、75歳以上になると大きな病を患いやすくなり、手術や入院など思わぬ出費がかさむ場面も増える。障害が残り、生活の質が低下するようにでもなれば、それを補うサービスの多くは民間に委ねることとなり、ますます手持ち資金を乏しくする。
 
2040年ごろに75歳となる人というのは、現在「50代半ば」といった世代である。「50代半ば」といえば、就職時こそ〝氷河期〟ではなかったものの、長期にわたる日本経済の低迷の中で、それまでの世代が当たり前のように受け止めてきた「終身雇用」が崩れ始めた時期を過ごした世代でもある。リストラに遭ったり、勤務先が倒産したりして十分な退職金を受け取れず、老後資金を貯めきれていない人も少なくない。年金保険料をしっかり納めていなければ低年金となる。
 
〝買い物難民〟〝通院難民〟を含め生活困窮者への対策を公的資金で賄おうとすれば、莫大な費用を要する。勤労世代の減少によって歳入や社会保険料の納付総額も減ることが見込まれる中で、国の財政状況の厳しさを考えれば個々への支援を手厚くすることは現実的ではない。
 
こうした状況を打開するには、まずは1人暮らしの高齢者同士が助け合う仕組みを整えることだ。さらに、1人暮らしの高齢者が集まり住み、自治体職員の人数が減ったり、民間事業者の一部が撤退したりしても、行政サービスを含めた生活支援サービスに簡単にアクセスできるようにすることである。
 
「高齢化した高齢者」の1人暮らし世帯が激増してしまう前に、高齢者コミュニティーの整備が急がれる。
 
 
 
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河合雅司(ジャーナリスト)

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