コラム

    • 「特養離れ」は本当か?

    • 2019年08月20日2019:08:20:05:26:32
      • 楢原多計志
        • 福祉ジャーナリスト

一時、「入所待機者52万人」と発表された特別養護老人ホーム(特養)に空床が目立ち始めている。
 
過疎化が続いている地方の話でなく、人口流入が続いている東京圏での話だ。「特養離れ」を指摘する有識者もいる。待機者は減る理由は?
 
 

▼厚労省とマスコミに踊らされた

 
中部圏から東京に進出した特養の若い施設長は憤りを露わにした。今年3月、全個室の2割弱を空き室にしたままオープンせざるを得なかったからだ。
 
介護職員の確保に手間取った上に、入所予定者からキャンセルが続いた。「厚生労働省のデータとマスコミ報道に踊らされてしまった」と自戒を込めて言い放った。
 
厚労省は2013年4月1日時点の待機者を約52万4千人と発表した。マスコミが実態を自社調査もせず、過熱気味に垂れ流した。前述の経営者は「東京進出のチャンス」と踏んだ。手づるを使って都内に用地を確保し、18年秋のオープンを目指した。
 
ところが、後日、この約52万人には1人の入所希望者が複数の特養を希望したり、直前に辞退したりしているものまで加えた「水増し」だったことが判明し、杜撰な集計が問題となった。
 
最近、厚労省は2016年4月1日時点で「待機者約36万6千人」と再発表した。3割ほど減った計算だ。それでも52万人から「水増し分」を差し引いても待機者が減ったことは確か。どこへ行ったのか。
 
 

▼特養がだめなら…

 

厚労省の「高齢者向け住まい・施設の件数」(18年10月1日時点)によると、全国にある特養は1万326施設(定員数61万人)。一方、有料老人ホームは1万3,354施設(51万4,017人)、「サ高住」が7,107施設(23万4,971人)。
 
有料老人ホームとサ高住を合わせると、施設数、定員数とも特養を抜き去り、差を広げつつある。
 
特養待機者が減っている理由は「特養の入所要件が厳しくなったから」だけではないようだ。首都圏で20余のサ高住を展開している経営者は「最近、ハナから特養を考えず、うちのような介護付きの民間施設の希望者が増えている」と話す。
 
民間施設の利点について、入所者にとって ①待たずに入所できる ②家族が交通アクセスの良さを希望している ③個室に入れる ④入所費用に幅があり、選択肢が広い──などを挙げる。
 
また施設側にとっては ①特養と比べ小規模なので建設費が安価で済む ②介護サービスを外付けできる有料老人ホームの整備が可能 ③需要の多い首都圏に絞って整備できる──などを列記する。最近、大都市に住む厚生年金受給者に絞って営業している施設が増えているという。
 
しかし、問題も山積している。例えば、住宅型の有料老人ホームには介護保険サービスが組まれていないため併設または外部の介護サービスの費用が別途かかる。
 
有料老人ホームの利用経験者は「サービス実績のある特養の方が介護の質が高いように思う」「虐待や介護事故が見逃されやすい」などの指摘もある。
 
行政の監査・指導が徹底されていないことも課題の1つ。利用料も介護の質も千差万別。選択肢が増えたのは朗報かもしれないが、選択を誤ると、一生後悔に繋がりかねない。
 
 
 
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楢原多計志(福祉ジャーナリスト)

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