コラム

    • 永年ドライバーへの奨め(第5回/全6回)

    • 2019年09月03日2019:09:03:03:51:05
      • 大久保力
        • 自動車ジャーナリスト
        • 元レーシングドライバー、レジェンド レーシングドライバーズ クラブ 会長、日本自動車ジャーナリスト協会&日本外国特派員協会 所属

第4回からの続き)
 

◆日本式AT運転操作の問題点

 

車が歩行者列に突っ込んだ、歩道を走ってしまった、店に飛び込んだなどの事故原因が『アクセルとブレーキの踏み間違い』であるのが目立ちます。
 
それは何も高齢者に限らない課題ですのに、どうも高齢者に多いような報道への疑問もありますが……それは省略して、現在、アクセル&ブレーキ誤操作防止の改良メカニズムも進んではいます。しかし、完全な安全構造且つ全車装着の時代には未だ時間がかかります。
 
元々自動車というものは、エンジンの出力を必要な速度に変える(変速)時に、運転者自らがギヤチェンジと呼ぶ作業をするのが当然の構造でした。その変速機構を手動変速(Manual Transmission)MTと呼び、運転席の足元には、右からアクセル・ブレーキ・クラッチ、三個のペダルがあります。
 
それに対し通称AT(Automatic Transmission)と呼ぶ自動変速機の車には、アクセルとブレーキの二つだけで、MT車の左端にあって左足で操作するクラッチペダルがありません。
 
MT車のクラッチペダルは運転者が速度を変える(変速)時、動輪を動かすエンジンの回転力を切り離し、その合間に望みのギヤに入れ替える役目をします。したがって、右足はアクセルとブレーキ、左はクラッチ、と、自動車の運転は結構厄介なものだったのです。
 
これを運転者が面倒なギヤチェンジなしで走れる車になったら、という願望は自動車が普及し始めた時代からあり、欧米では第二次世界大戦前から一部実用化もありました。
 
自動車先進国の米国では1950年代初めにはAT自動車が普及し始め、さらに、それまでは方向転換や駐車、停車時に物凄く重かったハンドル回転がパワーステアリング(通称パワーハンドル)と呼ぶ装置でクルクル回せる軽さになったことで自動車は一気に大衆化、世界一の自動車大国になっていきました。
 
日本はどうかとなれば、1958年にミカサという600ccエンジンのAT付き小型車や1959年にトヨグライドという二段自動変速機を付けたトヨペットが市販されましたが、まだ自動車そのものが特別な時代であったことやAT自体の性能も悪く、MT自動車が普遍的存在でした。
 
日本のモータリゼーション社会が本格的になりましたのは1960年代末辺りからですが、MT自動車が当たり前に普及していきました。
 
その後、AT車の市販が多くなったのは1980年代半ばで、MT50%、AT50%に普及し、今では乗用車の98%はATになっています。これはメーカーのAT技術が進んだことと、AT車限定の運転免許が1991年に施行されたことも影響しています。
 
AT自動車普及の概要は以上の如くですが、問題なのは操作手順の課題です。
 
MT車は先ず ①エンジンを始動する前にサイドブレーキをかけ、ギヤチェンジレバーを前後左右に動かしてギヤがどこにも入っていない(N:ニュートラル)を確かめ ②エンジンがかかったら左足でクラッチペダルを踏み、ギヤをロー(1速)に入れ、サイドブレーキを解除し、右足のアクセルペダルを少し踏んでエンジン回転を上げながら左足で踏んでいるクラッチの足を少しずつ放しながら右足のアクセルを踏み込んでいき発進する。
 
車を停めるには、①アクセルの右足を放して真ん中のブレーキを踏んで制動し ②停まると同時にブレーキを踏んでいる右足はそのままで、左足でクラッチを踏み、ギヤをNにする、厄介ですね。でも、高齢と言われる多くの人は、このような車で練習し免許を取得したのですが、AT免許の時代になっても運転教習の基本は60年以上前から全く同じで変っていません。
 
一方のAT運転は ①サイドブレーキをかけ、ATギヤレバーのNを確かめエンジンを始動する ②エンジンがかかったらギヤをDに入れ、サイドブレーキを解除、右足でアクセルを踏み込み、発進。停止するには①右足のアクセルを放し、②右足でブレーキを踏んで停止し、ギヤをPに入れる。簡単です、遊園地の子ども自動車並みです。
 
この簡単な操作ゆえにAT全盛になったのですが、その運転操作の基本は数十年続くMT車の運転教習の“ブレーキは右足!”のままの教え方なのです。
 
AT車の二つのペダルを有効且つ合理的に使うには【右足はアクセルペダル・左足はブレーキペダル】が安全なのです。AT車が世に出始めた頃の米国でもアクセル、ブレーキの踏み間違い事故があったようですが、その防止に右アクセル/左ブレーキ、AT車特有の運転操作を数十年前から導入し、今では当たり前の運転方法なのです。それ故に、日本に輸入される欧米AT車のブレーキペダルはMT車のペダルよりかなり大きく、左足で踏みやすい位置にあります。
 
しかし、日本での免許取得は自動車教習所に通うのが一般的で、AT限定のカリキュラムでもMTマニュアル車用の教え方を踏襲した右足ブレーキのままなことも影響しているのでしょう、日本車には、そのペダルがどっちつかずのに位置にあるのが多いようです。
 
その理由に、AT限定からMTも乗れる免許を取得する場合の支障になる、など訳の解らないこと言う指導員もいましたが…。国会でもペダル踏み違い事故について某議員が教習改正への質問をしていますように、踏み違い防止メカニズムの開発より運転操作の改善で解決できる課題であります。
 
 

◆踏み間違えを解消する方法

 

それならば、すっかり日本式AT運転に慣らされてしまった今、どうすれば良いのか。それは教習所のAT運転教習の抜本的見直しを行政指導するべき課題であると私は断言するものであります。
 
しかし、既に旧弊AT運転を覚えこまされてしまった今どうするのか、となりますが、その運転方法でも問題ない運転者は別として、改善したいと望むなら色々な方法があります。その幾つかの例を示して見ましょう。
 
先ず前後左右安全な場所で、それも低速で、MTでは働きATでは用無し扱いの左足でブレーキペダルを踏む練習があります。
 
①最初はアクセルから放れた右足を、いつものようにブレーキペダルに載せてブレーキングしますが、その時、左足を右足の甲なりペダルの左端なりに添え左右両足でブレーキングしてみます、怖くも危険でもありません、いつもの右足がメインで働いていますから、左足は添え物でしかありません。
 
②もっと簡単なのは、信号待ちで、Dギヤにいれたままブレーキペダルを踏んでいる時がありますが、その際、上記に同じくブレーキペダルを踏んでいる右足に左足を沿え、左足を働かせる訓練と意識を高めるのです。これも危険ではありません、停まっているのですから。こう述べますと、手には右利き左利きがあるように、左足操作は不得手と思っている方もいらっしゃるでしょうし、サッカー選手なら尚更ですが、日常の動作で左右の足には、利き手はどっち? ほどの違いは無いものなのです。
 
③そのような、ちょっとした左足操作を心がけることで意外と気づかない内に左足ブレーキになっているものなのです。何れにしましても左右の足が合理的な働きをするようになりますと、咄嗟のブレーキへの対応も楽になり、うっかりアクセルペダルを踏んでしまった、踏みすぎたなどの誤操作に自然と左足がブレーキをかけるようになるものです。
 
アクセルとブレーキの踏み間違いによる事故はAT車特有のものになってしまったようですが、どのような時、また運転者のどのような操作が事故につながるのか?代表的な例を示して見ましょう。いずれも、その原因は誤操作以外の何物でもないのですが。
 
正常な走行中には、まず起こりえない事故と言えますが、△最も多いのは駐車しようとする時・徐行中・停止状態から走り出す時などに見られます。即ち、ノロノロ超低速で車が動いている時、誤ってアクセルペダルを踏みすぎ、急な加速にブレーキを踏んだ積りがアクセルを更に踏んでしまい、慌ててブレーキを踏もうと思ってもパニックに陥り、アクセルの足は硬直状態、ノンブレーキのまま突っ込んでしまうケースが殆どです。
 
また、△駐車したり駐車状態から走り出す時、うっかりアクセルを踏みすぎてしまった、ブレーキを踏んでいた右足が何かの拍子に滑ってアクセルペダルを踏んでしまいパニックに陥った、何階建てかの駐車場ビルで出庫の際、踏んでいたブレーキペダルの足が滑りアクセルを踏みすぎ車止めを乗り越え階下に転落など、アクセル・ブレーキ右足操作の事故は非常に多いのです。
 
一方において、手動変速のMT車には上記のような誤操作が無いのか?となれば、皆無とは言えませんが、右足はアクセルとブレーキ、左足はクラッチ、ギヤは手動ですから、停止から発進にはアクセル、ブレーキの踏み違いが起きにくい、むしろ敢えて失敗を演じて見せようにも構造上難しいと言えます。
 
ただ、アクセルの踏み加減とギヤを入れたクラッチペダルの足を放す(戻す)バランス(タイミング)を誤って急発進させパニックの例もありますが、MT車は先ず無難に発進(スタート)させる運転をとことん教え込まれますからAT車とMT車は全く異なる運転技術と言うことになります。
 
以上の如くAT車のペダル踏み間違い事故は運転者のミスそのものですが、少しでも楽な運転を目標に技術開発された構造でも、それを使いこなせない人間が増える以上、例えもっと上の事故防止技術が現れても新たな誤操作、事故は無くならないでしょう。
 
自動車を始め、生活周辺の科学工業製品は使いやすさとともに事故防止技術も進化しますが、それに依存するのではなく人間力を高めるスベ術が疎かになりつつあるのではないでしょうか。
 
次回(最終回)は、“高齢運転は危険”からの脱皮に向けた具体的提言です。
 
 
 
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大久保 力(自動車ジャーナリスト)
 
元レーシング ドライバー
レジェンド レーシングドライバーズ クラブ会長
日本自動車ジャーナリスト協会&日本外国特派員協会 所属

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