コラム

    • 永年ドライバーへの奨め(最終回)"高齢運転は危険"からの脱皮

    • 2019年10月01日2019:10:01:02:55:54
      • 大久保力
        • 自動車ジャーナリスト
        • 元レーシングドライバー、レジェンド レーシングドライバーズ クラブ 会長、日本自動車ジャーナリスト協会&日本外国特派員協会 所属

第5回からの続き)
 

◆高齢者はクルマ社会ユーザーの第一世代

 

日本がモータリゼーション社会の扉を開いてから僅か半世紀ほどしか経っていませんが、私自身、よもや、これほどの自動車社会になるとは予想もしませんでした。
 
今や産業就労者の一割近くが自動車関連産業に従事するほど世界有数の自動車産業国になり、今後、自動車がどのように進化し、どのような位置づけになって行くのか新たな課題への時代に入ります。ですが、個人の自由な移動を目的に発明され進化してきた自動車の本質は変りません。
 
その〝自由な移動〟への憧れが非常に強い国民性に自動車はうってつけであったことも短期間でモータリゼーションを普及させました。マイカーをとり込んだ機動性高い生活内容や個人の活動範囲が拡大したバイタリティーが戦争後の荒廃社会を建て直し、高度経済成長を支えてきたのが、今、高齢者と呼ばれる方々であります。
 
しかし、経済成長の裏には物質万能主義、公害、教育etc修正しなければならない多くの課題、負の遺産も生みました。近年、それへの改善・投資への気運が芽生え始め〝より高い質への社会転換〟をこの国の大目標にしなければならないと断言しますが、さて、夢想でしょうか…。
 
それはさておき、この国に未曾有なモータリゼーションが現れ、その勢いとともに今日の社会造りの中心となった方々の多くが車と無関係でない現役生活を過ごされたのですが、中でも業務に生活に自らハンドルを握った運転経験者も多いことと存じます。
 
その年代を見ますと、今60歳末から80歳初めくらいになりますが、日本のクルマ社会を牽引したユーザーの第一世代ということになります。
 
その年代が、昨今何かと高齢運転者、高齢、コウレイ、やかましく呼ばれるターゲットになるわけです。更に、先に述べましたように65才以上の免許所有者は全所有者の20%を越えますから統計上も事故数は多くなりますが、高齢運転は危ないアブナイの近視眼的世論ばかりが目立ちます。
 
本文(第1回、第2回、第3回、第4回、第5回)では、そうであるならば〝高齢者の運転の仕方が安全への見本〟と言わせるよう運転の一般教本にはないテクニックやマインド面に触れてみましたが、高齢者だからこそ気をつけたい・知っておきたい事柄をもう幾つか記して見ましょう。
 
 

◆自覚と車種選び

 

本来、分別わきまえた年代ですから運転には年輩者の方が適している筈ですが……そこがクルマというパワーに助けられ、つい元気になってしまうのも車の持つ魔力です。まずは『分別ある年代を自負した運転』を心がけることです。
 
そういった精神上の運転注意事項は長年運転した経験を思い起こせば直ぐに習得出来るのですが、近年は、定年近くなって運転から遠ざかり、退職した余暇で現役復帰の運転気分なってしまう事が多いようです。
 
それには『現役復帰の誤認に惑わされない』ことが肝心です。この誤認に伴なった事故原因が、加齢による体力面で、現役のつもりと身体能力のバランスが取れなくなっているのです。
 
一番多いのは、やはり視力ですが、遠くまで見える見えないは二の次で、問題は左右の視野が狭まり車の両側状況に気が回らない事故です。それと、早朝夕刻の薄暗がり、それに雨天が重なれば高齢者には辛いですね。できれば運転しない方が良いのでしょうが、眼鏡使用者の場合、日常生活での眼鏡が運転には不向きのケースが多いですから『運転に適した眼鏡』を選ぶことです。
 
視力のみならず身体能力全般から言えるのは、加齢に伴ない事故無く快適な運転には車の種類も関係してきます。即ち、現役当時は家族全員が乗れるボックスカーや大型セダンなど家族構成と、家族の変化で何台も乗り換える例も普通になりました、そこで高齢者の一人二人ならば、乗りやすいこれで充分だ、の目線で車を乗り換えることです。
 
必然的にターゲット車種は小型になりますが、基本的に車高が高い、幅広い車は身体能力低下の高齢者には不向きです。「なに言ってんだっ!俺は何十年も乗ってて慣れてんだ」と言う方も居られるでしょうが、一般的には扱いやすい小型車が無難です。仮に従来乗っていた車の幅より10cm狭い車種になりますと格段に扱いやすくなるものです。
 
ただ、今の車は空気抵抗軽減のデザイン始め性能が重視され運転席から車体前部が見えにくい、丸っきり見えないのが多いですから、可能な限り車体の前後左右が見やすい車種がお薦めで『年令体力に応じた車種選び』ということになります。
 
そして、既に述べました運転者のうっかりや咄嗟の障害物に対応の衝突軽減ブレーキAEB始め運転支援技術は進み、車間距離保持、ドライブレコーダーなどは標準装備になるでしょうから、車を購入するならば、これらが装備の車種を選んだ方が得策です。
 
しかし、これで安全ということではなく〝気休め〟程度の頼り『運転支援装備を過信しない』としておいた方が無難です、運転者はあくまでも人間なのですから。
 
やがては運転者の健康状態チェックや悪質なドライバーからの防犯設備など、えっ、こんなものまで!と、びっくりな装備付き自動車も間近となり、現状の運転支援技術に代表されるメカニズム主動へ進化していきます。それは運転者である人間の介在が少なくなり楽な乗り物になっていくのでしょうが、新たな課題の始まりでもあります。
 
 まあ昨今、自動運転という言葉がやたらと出てきますから自動車全部が、人間が運転することなく走り回るように思われています。五十年百年先はいざ知らず、また高速道路のような限定エリアなら、そういったシステムも可能でしょうが、生活道路、地方道路、峠道、あらゆる道に通用する自動運転車など滑稽な話です。
 
人間自ら運転の〝クルマ〟はいつの世にも存在し、車を使う人の用途、使われ方、嗜好などを考慮して進化していく乗り物です。
 
日本の自動車もモータリゼーションの入口から普及へ他国に見られない早さの進化を遂げてきましたが、それは正に経済成長と併せてモータリゼーション普及の中心的ユーザーであった年代の方々のマイカー生活に見る車の在り方が大きな参考になって今の自動車国に成長したのです。
 
車造りはユーザーの使い方、要望をどう製品に反映させるかが重要です。
 
日本のみならず高齢化社会が広がる国においても高齢運転者に適した車への探求が起こるでしょうから、現に高齢運転者の立場にある方はクルマユーザーの第一世代の経験と知識を活かして頂き、車の仕様のみならず高齢者にも判りやすい道路標識や交通制度等への提言、要望をどしどし出して頂きたいのです。そういったパワーを表面化させることで、高齢者にも車が有効な乗り物である再認識が生まれてくるのです。
 
今の環境では〝高齢者の運転免許証返納〟ばかりが叫ばれ、それに応じるのが美徳であるような雰囲気で、高齢というだけで家族も友人にも口煩い返納論者が増えるばかりです。確かに、高齢運転者講習で免許証更新不適や健康上の問題があれば返納が当然ですが、運転に支障ない者にまで返納を促す人の人格を疑わざるを得ません。
 
私の周囲にも、子どもや孫に煩く言われ返納してしまった友人達が目立ちます。彼らは未だ問題なく運転出来る立場ですのに、免許証の返納で〝これまで生きてきた履歴書をもぎとられた思い〟〝しょっちゅう運転するわけではないから返納したけれど、自分の行動範囲が急に狭くなったようで情け無い〟〝遠出もしないから世間話に疎くなって友人付き合いが減った〟など日常生活の変化、精神的落胆も大きいようです。多分、遠い昔、免許試験に受かり免許証を手にした感激が返納で甦り免許証の効果を改めて知ったのでしょう。
 
『運転免許証があるという自信』『運転免許証は元気印の証明書』ですから、先ず免許更新が出来る健康状態を維持され、永年ドライバーを目指されますよう祈念申し上げまして、本稿の締め括りとさせて頂きます。
 
 
 
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大久保 力(自動車ジャーナリスト)
 
元レーシング ドライバー
レジェンド レーシングドライバーズ クラブ会長
日本自動車ジャーナリスト協会&日本外国特派員協会 所属

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