コラム

    • 新材料開発

    • 2019年10月22日2019:10:22:05:03:32
      • 岡光序治
        • 会社経営、元厚生省勤務

1.半導体技術の進化のため、新しい材料素材の開発の必要

 
例えば、エアコンや冷蔵庫などの電力変換ユニットのインバーターを作るとき、電力の損失が少ない変換効率の高い装置が要求される。交流から直流へ、直流から交流に変換するためには、電流をオン・オフするスイッチの役割をする半導体デバイスが必要となる。そのデバイスには電力損失が小さくスイッチ速度が速く、大きな電圧でも壊れない性能が要求される。
 
これまでその半導体としてシリコンが使われてきたが、最近、シリコン材料の限界が見えてきたといわれている。そこでシリコンの10倍の絶縁破壊電圧を持つ半導体材料として、炭化シリコン(SiC:シリコンカーバイト)が注目されている。
 
半導体技術の進化のためには、微細加工技術の向上によるさらなる高集積化や高性能化はもとより、新しい材料素材の発見や応用による革新的な用途開発などが不可欠となっている。
 
 

2.MI研究の必要

 

MI(マテリアルズ・インフォマティクス)にははっきりした定義はないが、田中功・京都大学教授によれば、材料研究・開発・生産(設計・探索、創製、解析・評価、製造過程など)すべてに、先端的な計算機、記憶装置やネットワークなどのハードウエア、計算技術のソフトウエア、その仕組みを通して蓄積されるビッグデータを活用する方法と考えてよさそうである。
 
この方式では、ビックデータに基づき、人工知能やデータ科学を駆使して新材料を探す。新材料候補の対象は飛躍的に増えるにもかかわらず、探索に費やす時間は大幅に単しく短縮できる、という。コンピューターとデータ科学で新材料を予測しながら探索。予測することで実験や計算を上手に計画するともいえる。
 
行き当たりばったりにいろいろなものを混ぜたり試めしたりというのではなく、理論的背景のもと、原子レベルで設計することによって、新たな機能を持たせた材料を合成する時代に入ったといえよう。
 
「化学×数学」という異業種間連携が進まなければなるまい。人間による実験をコンピューターのシミュレーションに置き換える動きは当たり前のこととなっていくであろう。そういう意味では、発想の転換が必要だろう。「こんな化合物や材料を作ろう」という新機軸に関するアイデア、構想、戦略をいくつも用意することが肝要となろう。
 
MIを導入するのに必要なことは、これまで個別グループにとどまっていた実験や計算データを共有化し、あるいは生産ラインなどにセンサーを多く取り付け、成功データだけでなく失敗データも全て集めて解析できる体制を作ることだと考える。
 
MIの活用は始まったばかりで、正解となる方法論は未知である。大事なのは、MIの素養と意欲を持つ材料研究・開発者の育成と連携である。
 
 

3.MIを進めるときの理念としてのSDGs

 

SDGs(持続可能な開発目標)は、「誰一人取り残さない」社会の実現を目指し、経済・社会・環境をめぐる広範な課題に統合的に取り組むため、2030年に向け、世界全体がともに取り組むべき普遍的な目標として、2015年9月に国連で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に掲げられたものである。
 
SDGsにおける重要なキーワードは、「地球規模」「バックキャスト」「誰一人取り残さない」の3つだと理解する。
 
「地球規模」とは、自分の国や自分の地域だけの利害にとどまらず地球の他地域で同様の課題を抱えている人たちの役に立つ取組みへと発展させていく、という考えである。
 
「バックキャスト」とは、理想の未来を描いた上で今やるべきことを考えていく方法である。いろいろな面で地球は限界が見え始めていることを考えると、現状の延長からは持続可能な社会の実現は望めない。目に付く取組みから始めるのと、目標を最初に考えて一番重要な取組みから始めるのとでは、優先順位の決め方が全く異なる。人々の行動は大きく変わるはずである。
 
「誰一人取り残さない」は、英語では、No one will be left behind と表現される。これまで、社会的課題を解決しようとする際、設定された定量的な目標に対し、効果が出やすいところから課題解決が進められた。結果、目標上の数値は達成されても、課題が深刻なところほど取組みが不十分であったり、他の課題が発生したり、根本的な解決にならないことが生じた。そのため、SDGs時代にあっては、取り残され、置き去りにされる人たちを新たに生じさせない仕組みを作る必要がある、と考えられたのである。表面的で目立つ問題、解決しやすい問題に惑わされることなく、本質的な問題をとらえ、トレードオフ構造ー何かを選ぶ際にほかの何かを犠牲にしてしまう構造―の解決を目指そうというのである。
 
科学技術イノベーション(STI)は、人類史上、自然と向き合い、経済・社会を発展させ、生活を豊かにする努力の中で大きな役割を果たしてきた。STIは、SDGsに係る諸課題の解決に有限のリソースを最適化し拡大を図る「切り札」であり、不可欠な横断的要素として、期待されている。
 
MIの方法論が未確立なこの間に、SDGsの基本的な考え方をMIにかかる基本的な理念として据え付けることについて検討してみる必要があると思う。
 
 
 
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岡光序治(会社経営、元厚生省勤務)

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