コラム

    • 一億総ポイント社会

    • 2019年10月29日2019:10:29:14:43:48
      • 中村十念
        • (株)日本医療総合研究所
        • 取締役社長

はじめに

 

消費増税不況回避策として、ポイント還元策に多額の国費が使われている。
 
それを機に、一億総活躍社会構想は、一億総ポイント社会構想 に変わってしまったかに見える。この問題を概観してみたい。
 
 

1.キャッシュレス・ポイント・ビジネスのスキーム

 

(1)政府が乗ったのは、キャッシュレス・ポイント・ビジネスである。そのスキームは次のようなものある。
①まずキャッシュレス・ポイント運営会社(以下、運営会社)は、キャッシュレス・サービスを利用する加盟店を募集し、決済額に応じて支払う決済手数料率等を契約する。(手数料率は運営会社によって違うが概ね2~3%)
②加盟店はレジ等の投資を行い、実行環境を整える。
③キャッシュレス・ユーザー(以下、ユーザー)は、スマホやカードを通じて申込手続きを行い、購入金額を運営会社にキャッシュレス払いする。
④滞留日数をおいて、運営会社は加盟店に決済手数料を差し引いた購入金額を振り込む。
⑤運営会社は決済手数料の中からポイント還元を行う(還元条件は運営会社による。通常シーリング [上限] がある)。
⑥ユーザーは、後日買物を行う際ポイントを使うことが出来る。
 
(2)上記ビジネス・スキームの特徴は次の通りである。
①加盟店の決裁手数料がなければ成り立たないビジネスである。決済手数料は店からすれば値引きと同じ。値引き率としてはチラシやD.M.などのマーケティングコストと比較しても決して小さくない。現金取引ではないので、加盟店のキャッシュフローは悪くなる。
②加盟店は実行環境を整えるのに、レジ投資等が必要となる。(扱う運営会社が増えるに従い、レジ投資等は数万円単位で増える。)メインテナンス料などもバカにならず、固定費は上昇する。
③ユーザーにつくポイントの原資は自分のお金である。誰かが払ってくれている訳ではない。
④ユーザーが使えるポイントは、シーリングがあるので店頭での宣伝ほど実際は大きくない。ポイントで金持ちになった人はいない。
⑤ユーザーは、知らず知らずのうちに、自分の買い物情報を収集されている。
⑥追記:政府が行うポイント還元についての留意点は、次の通り。
政府がユーザーにポイント還元するのではない。ただし運営会社は、2019年10月から2020年6月まで、自社分とは別に政府仕様のポイント制度を特別に設けることになる。政府は特別制度で発生する上記(1)-⑥で述べた後刻のポイント買物に使われる運営会社の支出を補填しているだけ。つまり運営会社への補助金である。(特別制度のポイントは全て使い切られる前提。未消化ポイントが発生すれば、その分運営会社は濡れ手で粟となる。)
 
 

2.ビジネススキームの市場性

 

次にキャッシュレス・ポイント・ビジネスの市場性を検討してみる。
 
(1)市場収益性の前提となるのは市場の成長である。スマホ決済市場は2019年の0.6兆円から2025年度には8兆円になると日本能率協会が予測した。その論拠の拠りどころは、我が国のキャッシュレス比率の急上昇予測である。現状の約20%が数年後には40%になるという。この予測を宛にして20社を超えるキャッシュレス運営会社が参入している。
 
(2)決済手数料の平均を2%と考えて、予測が全て当たるとしても数年後の業界全体の売上は1,600億円である。
 
(3)決済にかかる費用をザッと見てみる。システム構築にかかる減価償却費が相当大きい。控えめに見ても1社当たり年に100億円はかかるだろう。費用やセキュリティコスト・保険料や人件費などの固定費が減価償却費と同程度は必要かもしれない。
 
(4)それに加盟店囲い込みの費用が相当かかっている。加盟店手数料や銀行振り込みを0にするなどの過当競争が代理店を巻き込んで繰り広げられている。ポイント還元の費用もかかってくる。変動費が売上の3~4割はかかるのではなかろうか。
そうなると、1,600億円の市場規模で生き残れる会社は極わずか。多くの会社が潰れることになる。
 
 

3.裏の出口

 

(1)上記以外に考えられるべき費用に、サイバーセキュリティ事故が発生した場合の損害賠償関係費用がある。
①7月1日にセブンペイ事件が発生した。これまでのところ、キャッシュレス・ポイント・ビジネスでの唯一のサイバーセキュリティ事故である。その全貌は、今なお明らかではないが、セブンイレブンはたちどころにキャッシュレス・ポイント・ビジネスからの撤退を決め、復帰の気配はない。
②その原因のひとつは、サイバーセキュリティ被害に伴う損害賠償金を含めた損害処理費用の膨大さにあったのではないかと私は推察している。
③そのリスクをセブンイレブン経営陣は素早く冷静に判断し、即座に行動したのではないかと思える。
④セブンイレブンは、今は謗りを免れていないが、将来は先見の明を讃えられるかもしれない。
 
(2)しかし、キャッシュレス・ポイント・ビジネスへの参入者は後を絶たないという。それは次のような裏出口があるからであろう。
①上記1-(2)-⑤で述べたように、私たちはポイントをもらうために個人情報をタダどころか「自分のお金を使って」、運営会社に渡している。
②運営会社は、ビッグデータと称して、情報をいとも容易に収集・加工し、リスト化できる。勝手格付も簡単。
③そして、この情報はどこかの人材ビジネス会社が証明したように、売れる。そのような裏のビジネススキームもあると考えておくべきではないだろうか。
④キャッシュレス・ポイント・ビジネスで失敗した経営者は、このスキームを活用し、投資を回収して裏口からソッと消えるのである。
 
 

4.政策評価のススメ

 

(1)消費増税による国税の増収効果は概念的には次の算式で表される。
①増収税額=税抜き購入単価×購入数量×税率上げ幅
②加盟店の多くは、キャッシュレスのあおりによる競争激化への警戒感から、売値を下げる傾向にあるようだ。それに軽減税率の8%に合わせる動きが重なって、購入単価は若干ながら下がる傾向となろう。
③購入数量は、キャッシュレスの増加分だけ現金での購入が減る、と見るのが妥当であり、横這いである。ポイント誘導買いも現金買いを減らすだけであろう。
④つまり税率上げ幅(後述するように1.5%)より単価が下がらなければ、その差分が税収増となる。逆なら税収減。
 
(2)キャッシュレス・ポイント政策は景気にプラスに働くか。
①ポイント政策は加盟店手数料の発生による売上減、レジ投資の増加による固定費増という「ポイント負荷」を中小企業に背負わせることになる。
②これは私の私見であるが、国費が絡む割には仕組みが緩い。不正受給が横行する可能性がある。
以上から、景気にプラスに働くという観測は持ちづらい。
 
(3)今回の政府のポイント介入で恐らく数千億円の国費が投入される。この政策評価のための数字は次の通りである。
①消費税には、国税分と地方税分があり、今回の増税の国税の取り分は1.5%である。
②2019年度は国税として、半年分1.7兆円の消費増税が目論まれている。
③追記:2020年度には消費税は22兆円程度、所得税は20兆円程度となり、初めて消費税が所得税を上回る。
 
 

終わりに

 

今やポイントは単なる「おまけ」ではなく、勝手格付けを通して、国民そのものも数値化・定量化されかねない。一億総ポイント化が懸念されるようになった。
 
冗談のような話ではあるが、マイナンバーカードすらポイントカード化しようとする動きもある。わが国の目指すべき方向とは違う気がする。
 
官僚はなかなか自分の非を認めない。しかし、このポイント化の動きは監視と検証を通じて、自分の頭で考えた政策評価が必要だ。
 
 
 
---
中村十念(日本医療総合研究所 取締役社長)

コラムニスト一覧
月別アーカイブ