コラム

    • 社福の理念と意地

    • 2019年11月26日2019:11:26:05:37:18
      • 楢原多計志
        • 福祉ジャーナリスト

 
社会福祉法人(社福)の在り方が再び問われている。
 
政府や経済団体は「生産性が低い」「地域貢献が不十分」などとして合併や事業譲渡による規模拡大を迫り、社福は「個々の理念に基づいて運営している」と強く反発。
 
厚生労働省は打開策として、複数の社福が自主的に地域連携する非営利の「社会福祉連携法人」(仮称)の創設を打ち出した。だが、この連携法人案、「中身がない」と双方から批判され、一向に盛り上がらない。
 
 

◆合併・譲渡は断固拒否

 

厚労省が社会保障審議会福祉部会の検討会に提案した社会福祉連携法人のイメージ(筆者の加筆あり)はこうだ。
 
【目 的】良質な福祉サービスの提供と社福の経営基盤の強化など
【社 員】社会福祉事業を行っている法人が2つ以上(うち1以上が社福であることが必須)
【業務・活動区域】地域共生社会の実現、災害の連携対応、社員である社福への資金貸付、活動区域を規定する
【その他】1社員1議決権、連携法人の合併は認めない──など。
 
厚労省は、連携法人のメリットとして、
(1)地域の期待や役割に有効な手段となる
(2)自主運営と合併・事業譲渡の中間的な選択肢となり得る
(3)災害時の体制整備に資する制度になる
(4)国内人材や外国人人材の確保で連携が可能となる──などをアピール。
連携法人で先行する医療法人の事例を示して同意の取り付けに懸命。次の通常国会へ社会福祉法改正案など提案する考えだ。
 
注目したいのは、厚労省が社福側に特に理解を求めているのが、「合併や事業譲渡ではなく、中間的な選択肢となる」とのアピールであることだ。
 
検討会の公益委員は「もし、連携法人まで拒めば、政府や経済団体が強く迫っている合併や事業譲渡に追い込まれる恐れがある──と厚労省が社福に譲歩を促している」と背景を説明する。
 
 

◆内向き法人

 
しかし、北九州で複数の特養や在宅介護サービス事業を展開している社福の理事長は「メリットは連携法人から貸付が受けられることぐらい」と突き放す。
 
現行の社会福祉制度では社福は収入・収益を法人外への持ち出しが禁じられている。理事長は「これだけは前進だ」と歓迎している。それより問題なのは連携法人創設の話が進んでいること自体、知らない社福の役員が実に多いことだ。
 
一方、政府の経済財政諮問会議の民間議員は「連携で社福の生産性が上がるとは思えない。国や地方自治体の補助や支援に寄りかかった経営が続いてしまう」と全く評価していない。そして「合併や経営譲渡によって大規模化して効率性、生産性を上げることこそ解決策だ」と言い切る。
 
日本の社会福祉法人は世界でも珍しい法人形態と言われる。今も家族や親族が経営権を握り、チェック機能である評議会も名ばかりになっている社福が少なくない。日本通の米国医療介護用品販売業者は「社会から見えない内向きの法人」と揶揄する。
 
一時期、特養の「内部留保」が問題となり、2017年度の改正社会福祉法施行に繋がった。経営組織のガバナンス強化(一定規模以上は会計監査人の設置義務など)や財務規律の強化(役員報酬基準の公表や役員などへの特別な利益供与禁止など)や余剰資金による社会貢献などが決まったが、全国市長会役員は「ホームページに決算や報酬などの情報が載っているが、相変わらず社福の実像が見えにくい」と漏らす。
 
社福を取り巻く経営環境は厳しさを増している。介護や保育、福祉は慢性的な人材不足に見舞われ、老朽化した施設の改修資金の確保が問題化しつつある。介護については介護保険財源(税と保険料)を投じて報酬加算による処遇改善がはかられているが、公的支援がいつまでも続くわけではない。
 
合併、事業譲渡のよる大規模化・生産性向上が最善策とは思えない。経営の安定化は必要だが、一般企業と違い、大規模化より、地域に根ざした経営が求められるからだ。
 
それにしても社福は反省が足りない。地域で生き残りたいなら、共生や災害対策における連携や協力は当たり前ではないか。従業員の賃金まで補助され、挙句、国から「連携の在り方」にまで口出しされ、情けなくないのか。理念が泣く。意地を見せたらどうか。
 
 
 
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楢原多計志(福祉ジャーナリスト)

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