コラム

    • 気候非常事態(Climate Emergency)

    • 2019年12月24日2019:12:24:06:10:31
      • 清宮美稚子
        • 編集者・『世界』前編集長

21世紀に入って、地球温暖化・気候変動問題はますます深刻さを増している。世界気象機関(WMO)によると、2018年の世界の平均気温は観測史上4番目に高かった。実は、2016年、15年、17年、18年の順で、ここ数年の世界の平均気温の高さは特筆すべきものだったのだ。
 
スウェーデンの15歳の少女、グレタ・トゥンベリさんが、学校に行かずにスウェーデンの国会前でたったひとり座り込みを始めたのは2018年8月20日のことだった。グレタさんの訴えはSNSで瞬く間に広がり、世界中で若者たちの「気候ストライキ」が繰り広げられている。
 
それより少し遡るが、オーストラリアのデアビン市が世界に先駆けて「気候非常事態宣言」(Climate Emergency Declaration=CED)を行ったのは2016年12月5日のことだった。2015年のCOP21で採択された「パリ協定」(2020年に本格始動する)からの離脱を2017年6月1日に米トランプ大統領が表明したことで世界に衝撃が走り、またグレタさんたちの活動に背中を押されて、デアビン市から始まったノンステート・アクターの動きは大きく広がっている。2019年12月までに世界の1000を超える自治体がCEDを行った。それに続くかのように国レベルでもイギリス、ポルトガル、カナダ、フランス、アルゼンチン、イタリアなどがすでに宣言をしている。
 
若者たちの気候ストライキと「気候非常事態宣言」――2018~19年にかけての「革命」とも言える動きの背景にあるのは、以下のような事柄であろう。上述したように2015~8年が観測史上最も暑い4年間だったこと、大規模なハリケーンや豪雨の一方で干ばつや山火事も深刻化していること、氷河や南極海・北極海の氷が解け海面上昇が加速していること、地球温暖化の主原因が人間活動由来の温暖化ガスであるのは科学的に間違いないという見解で科学者がほぼ一致していること、国連などで特別報告書が相次いで発表され警鐘が鳴らされていること、しかしながら事実に背を向ける大国がいくつもあり、今後10年が勝負といわれる根本的対策が進まないことへの危機感……。
 
2018~19年にかけて発表された気候と環境に関する報告書の主なものとして、以下の5つがある。
 
1.IPCCの1.5℃特別報告書(2018.10)
2.『ランセット』カウントダウン報告書(2018.11)
3.IPBES生物多様性報告書(2019.5)
4.IPCC気候変動と土地特別報告書(2019.8)
5.IPCC気候変動と海洋、雪氷圏特別報告書(2019.9)
 
このうち1.5℃特別報告書では、「パリ協定」の2℃目標(世界の平均気温の上昇を工業化以前と比較して2℃未満に抑える)を1.5℃へとより厳しくすべきであるとの指摘がされている。そのためには温暖化ガス排出を大幅削減するための社会の大転換が必要である。しかも、世界の平均気温はすでに工業化以前から1℃上昇している。グレタさんたちの危機感は、2018年のCOP24でも19年のCOP25でも、この報告書がアメリカ、サウジアラビアなどの反対できちんと位置づけられなかったことからさらに高まっている。
 
一方、気候が非常事態にあるという認識の広がりは、世界のメディアの報道に影響を与えている。2019年5月、英『ガーディアン』紙はClimate Change(気候変動)をClimate Emergency(気候非常事態)、Climate Crisis(気候危機)、Climate Breakdown(気候崩壊)へ、Global Warming(地球温暖化)をGlobal Heating(地球過熱化)へと用語変更すると発表した。また、従来Climate Sceptic(温暖化懐疑論者)と呼んでいたのを今後はClimate Science Denier(温暖化科学否定論者)に変更するとのことである。なお、「オックスフォード英語辞典」は2019年の「今年の言葉」に Climate Emergency を選んだ。
 
日本では2019年の台風15号、19号で多くの人命が失われ、大きな被害が生じた。2018年夏の猛暑や西日本豪雨も大きな爪痕を残した。2019年12月、ドイツの環境NGOは、2018年に世界で異常気象による被害が最も深刻だったのは日本だとする分析を発表した。個々の極端気象に地球温暖化がどのように関与しているかを評価する「イベント・アトリビューション」の研究が進んでおり、極端気象の発生確率、強度などが増加している事例がいくつも示されている。2018年の西日本豪雨では、温暖化で総雨量が約7%増えた可能性を指摘する研究がある。
 
地球温暖化・気候変動問題に関心が薄い日本社会であるが、極端気象の頻発、さらに2018~19年にかけての上述した二つの動きを受けて、事態に呼応した活動が始まっている。「気候非常事態宣言」については、2019年9月に長崎県壱岐市が日本で初めて行い、神奈川県鎌倉市、長野県白馬村、長野県、福岡県大木町がそれに続いた。2020年には全国の自治体にこの動きが広がるものと思われる。また、9月19日には日本学術会議会長による事実上のCEDともいうべき緊急メッセージが発表され、大学や学会などでもCEDを行う動きが出ている。
 
ここで注目すべきは、英医学誌『ランセット』のカウントダウン報告書であろう。熱波を含む異常気象による健康被害の甚大さを指摘し、温暖化・気候変動は公衆衛生上の緊急事態であると述べている。日本の医師、医学関係者にとっても無視できない警告であろう。日本医師会も、他の団体に先駆けて「気候非常事態宣言」を行うことを検討してはどうだろうか。
 
 
 
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清宮美稚子(編集者・『世界』前編集長)

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