コラム

    • マイナンバーカードの健康保険証としての利用について

    • 2020年01月21日2020:01:21:05:53:01
      • 平岡敦
        • 弁護士

1 マイナンバーカードの健康保険証としての利用

 

2019年5月15日,健康保険法が改正され,2021年3月から,マイナンバーカードを健康保険証として利用することが可能となった。もう少し正確に言うと,医療機関が,マイナンバーカードのICチップに含まれる利用者証明用電子証明書を読み取って,オンラインで被保険者としての資格確認を行うことができるようになった。
 
なお,このような医療分野におけるマイナンバーやマイナンバーカードの利用については,医療等分野における番号制度の活用等に関する研究会が,平成27年12月10日に報告書を出している。そこでは,今回改正がなされたマイナンバーカードを健康保険証として利用することのほかに,医療等分野の個人情報の連携に用いる識別子(ID)を設けること及びその体系や内容の提案もなされている。
 
 

2 反対論

 
しかし,この法改正には,反対論がある。日本医師会などは声明を発表して,反対の意思を明らかにしている。それらの反対論では,①医療等分野の個人情報の連携に用いるIDとしてマイナンバーとは異なる医療等IDを設けるべき,②医療情報を保護するための法整備の必要性,③医療情報の二次利用・突合の制限,④マイナンバーの医療分野での利用への反対,⑤マイナンバーカードを健康保険証として利用することへの反対,などが述べられている。
 
 

3 マイナンバーによる無制限な紐付けの危険

 
確かに,プライバシー,忘れられる権利等の観点からは,安易に医療情報が紐付け・突合されて,個人の医療情報が丸裸にされるのは避けるべきである。情報コントロール権の観点から見ても,どの病歴を第三者からの照会の対象にするのかを個々人が決定できることは,憲法13条に根拠づけられる自己決定権のひとつとして容認されるのではないだろうか。
 
しかし,情報の紐付け・突合の危険は,マイナンバーを利用しなくても,医療等IDでも生じうる。マイナンバーは,その利用範囲が法律で制限されており,法律を改正するためには,法制審,委員会そして衆参両院での議論を経ることが必要で,そう容易なことではない。また,マイナンバーの照会は,法律により仕様やアクセス権限が制限された情報提供ネットワークシステムを経由してしかできない。これに対し,医療等IDはその中身やアクセス制限は未知数である。
 
また,今次の健康保険法改正は,マイナンバーと医療情報の紐付けとは関係がない。今次の改正は,あくまでマイナンバーカードを利用するものである。この辺りについて,マイナンバーに対する危惧との混同した議論が一般的に見られるので,整理をしておきたい。
 
 

4 マイナンバーとマイナンバーカードは違う

 
番号法を根拠とするマイナンバーは,正確な所得把握に基づく適正・公正な課税,適切で確実な社会保障給付等を行うための情報基盤として導入された。
 
マイナンバーは,マイナンバーカードの裏面に記載がされており,マイナンバーを通知する際の最も簡易な方法は,マイナンバーカードを提示することである。したがって,マイナンバーカードは,マイナンバーのためにあると思われがちである。しかし,マイナンバーカードは,マイナンバーとは切り離された独自の機能を持っている。
 
 

5 マイナンバーカードの機能

 
(1)マイナンバー取得
例えば,企業が従業員からマイナンバーを取得する際,通知カードと運転免許証等の本人確認書類の提示を求める方法もあるが,従業員のマイナンバーカードを示してもらえば,それだけでマイナンバーと本人確認を併せて行うことができる。これがマイナンバーカードの基礎的な機能である。
 
(2)公的身分証明書
マイナンバーカードの券面には,基本4情報に加えて,顔写真が表示されている。そして,マイナンバー作成時には厳格な本人確認がなされている。その結果,マイナンバーカードは,公的な身分証明書として機能する。
 
(3)公的個人認証サービスの署名用電子証明書
マイナンバーカードのICチップには,公的個人認証サービスで利用できる電子証明書が2つ格納されている。その1つが,署名用電子証明書である。署名用電子証明書とは,マイナンバーカードを保有する者が作成した電子文書にそれを付加(PCを操作して付加できる。)することで,その電子文書が保有者により作成されたものであり,改ざんされていないことを,証明するための仕組みである。
 
これを利用してe-Taxにおける電子税務申告書に電子証明を付与したりすることができるほか,民間にも利用が開放されているので,将来的には電子契約書の電子証明に利用することも考えられる。電子契約書は,建築や不動産賃貸の分野で利用が急速に広がっている。
 
(4)公的個人認証サービスの利用者証明用電子証明書
マイナンバーカードのICチップに格納されているもう1つの電子証明書は,利用者証明用電子証明書である。利用者証明用電子証明書とは,なんらかのアクセス制限がされているサイトにアクセスする際にIDとパスワードに代えて,又は,それらに加えて,利用者が本人であることを証明するための電子証明書である。
 
具体的な使い道としては,公的なサイトにログインする際に厳格に本人を確認するニーズに応えるほか,民間にも開放されているので,本人確認が必要な商用サイトで,本人確認のプロセスを経ることなく,マイナンバーカードを利用してログインする人の真正さを確認できるというメリットがある。
 
ちなみに,マイナンバーカードのICチップには,上記の2つの電子証明書が入っているだけで,実はマイナンバーそのものの情報は格納されていない。マイナンバーは,あくまで裏面に不鮮明な灰色の文字で記載がされているのみである。
 
 

6 健康保険証としての利用で用いられる機能

 
今次の健康保険法改正によって,マイナンバーカードを健康保険証として利用する際,使用されるのは上記の4つの機能のうち,4番目の利用者証明用電子証明書としての機能である。マイナンバーを利用するわけではない。したがって,マイナンバーの危険性を理由に,マイナンバーカードの健康保険証としての利用を非難するのは筋が違うということになる。
 
 

7 券面にマイナンバーがあることの危険性

 
しかし,マイナンバーカードのICチップの中の情報だけを利用し,券面に記載されたマイナンバーは利用しないと言っても,券面に記載されている以上,第三者の目に触れるリスクがあり,結果として,医療機関によってマイナンバーが利用されてしまうのではないか,との危惧が語られている。確かに,裏面でわかりにくい文字で書かれているとはいえ,表示されていることは確かなので,マイナンバーが取得されてしまうリスクは払拭できない。
 
しかし,マイナンバーを取得したとして,どのように濫用する危険があるのだろうか。既に述べたように,マイナンバーの利用範囲は法律で厳格に規定されている。そして,法律上,マイナンバーをキーに情報を検索するためには,国が法律の規定に従って開発運営している情報提供ネットワークシステムを利用するしか方法がない。したがって,券面に記載されたマイナンバーを民間人が取得したとして,それを濫用する術がないのが現状である。
 
また,マイナンバーカードを健康保険証として利用する際には,医療機関の窓口にカードリーダが設置され,利用者が顔写真を示した上で,カードリーダにタッチしてICチップ内の電子証明書を読み込ませることが想定されている。したがって,医療機関がマイナンバーカードの券面に記載されているマイナンバーを記憶したり複写したりすることは,現実的には困難であろう。
 
 

8 むすび

 
マイナンバーによるあらゆる情報の紐付け・突合の危険性については十分な議論が必要である。しかし,マイナンバーカード内の電子証明書を有効活用することは,それとは基本的に関係のないテクノロジーの活用という側面が強い。冷静な議論が求められるところである。
 
 
 
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平岡敦(弁護士)

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