コラム

    • 介護保険事業計画の現状・課題と改善策 :在宅医療・介護連携推進事業を一例に(その1/全2回)

    • 2020年02月04日2020:02:04:09:14:31
      • 川越雅弘
        • 埼玉県立大学大学院 保健医療福祉学研究科 教授

■はじめに

 

介護保険制度では, 3年毎に介護保険事業計画を市町村が策定することとなっている。当初,同計画の中心課題は介護保険のサービス提供体制の整備及び保険料算定にあったが,第6期計画(2015~2017年)から同計画の位置づけが「地域包括ケア計画」に変更され,計画がカバーする範囲は大幅に拡大した。そのため,市町村には,従来の介護サービス提供体制の整備に加えて,①在宅医療の整備,②在宅医療と介護の連携の推進,③生活支援体制の整備,④住まいの確保,⑤介護予防の推進,⑥認知症施策の推進などに関する事業の推進も求められることとなった。
 
こうした状況の変化に対し,国も,事業マネジメントを適切に展開するための手引きの作成,支援ツールの開発・提供などを行ってきたものの,①地域課題を市町村が把握できていない,②データがうまく活用できていない,③事業計画の策定(Plan)~実行(Do)~評価(Check)~点検・見直し(Act)といった一連のPDCAサイクルをうまく回せないなど,課題が山積しているのが現状である。
 
本稿では,市町村が抱える様々な事業のうち,在宅医療・介護連携推進事業に焦点を当てた上で,①市町村はどのような事業計画を策定しているのか,②なぜ,そうした計画策定になるのかについて分析する。また,筆者が関わっている市町村での取組を紹介しながら,計画策定プロセスの改善策について言及する。
 
 

■期待される事業マネジメントの進め方とは

 
図1に,事業マネジメントの手順を示すが,同手順は,①課題設定(下記のStep.1~3),②効果的な対策の検討・実行(Step.4~6),③効果の確認(Step.7)に大別することができる。
 
図1. 事業マネジメントの手順とは
出所)厚生労働省老健局介護保険計画課:介護保険事業(支援)計画の進捗管理の手引き(2018/7/30)を一部改変
 
1)課題設定
課題とは,現状と目指す姿のギャップのことを意味する。そのため,マネジメントとは,「目標を設定した上で,適切な手段の選択と実践を通じて目標を達成していく(現状を目指す姿に限りなく近づける)プロセスのこと」と定義できる。
 
在宅医療・介護連携推進事業における課題を設定するためには,まず,同事業で「何を目指すのか」を定める必要がある。その上で,現状との比較を通じて課題を認識・設定するのである。
 
図2.課題・対策・要因分析・指標の関係
出所)筆者作成
 
2)効果的な対策の検討・実行
施策とは,現状を目指す姿に近づけるために行うものである。ただし,様々な施策が取り得ることから,原因をより解決できる施策を選択する必要がある。そのために行うのが要因分析である。また,施策によって,現状が目指す姿にどの程度近づいたかを確認するために設定するのが指標である。
 
在宅医療・介護連携推進事業を適切に展開するためには,①国の施策動向から事業に期待されている役割や機能を理解した上で,②事業が目指す姿を設定し,③様々な手段(既存データや独自アンケートの分析,個別事例検討など)を通じて現状を把握し,④目指す姿と現状の比較から課題を設定し,⑤課題解決に関わる関係者を交えた会議体で課題の共有と対策の検討,役割分担を決定し,⑥対策を実行し,⑦経過確認と評価(点検・見直し)を行うといった一連の手順を適切に遂行する必要がある。
 
 

■現行計画における目標~施策~事業の構造とは(A市の例)

 
では,実際の計画はどうなっているのであろうか。そこで,A市の第7期介護保険事業計画に記載されていた目標と施策と事業の内容を確認してみることにする。
 
同市の記載例を図3に示す。基本目標を「住み慣れた地域で暮らし続けられるまち」と設定した上で,複数の施策領域に対し,具体的な施策を示す形になっている。図3には2つの施策領域(施策3:地域包括ケアシステムの深化・推進,施策4:高齢者にやさしいまちづくり)を抜粋したが,このうち,施策3に関しては,さらに8つの具体的な施策(①地域包括ケアシステムの推進体制の充実~➇高齢者の住居安定に係る施策との連携)が,さらに,具体的施策「⑥在宅医療・介護連携の推進」に対し,国が指定している8つの事業(在宅医療・介護サービス資源の把握,在宅医療・介護連携上の課題抽出と対応の協議など)が設定されている。
 
基本目標(目指す姿)を設定した上で,国から求められている施策と事業を並べるといった計画になっているが,こうした記載は多くの市町村で見られるものである。ただし,基本目標の具体化(目指す姿の具体化),現状との比較を通じた課題の具体化,課題が生じた要因分析などの記載は計画には見受けられない。
 
図3. 介護保険事業計画に記載されていた目標・施策・事業の内容(A市の場合)
出所)A市の第7期介護保険事業計画を一部加筆
 
 

■在宅医療・介護連携推進事業に関する計画の現状と課題

 
図4に,B市の在宅医療・介護連携推進事業の計画例を示す。B市では「在宅医療・介護連携の推進」を目的とした上で,連携の推進,情報共有,提供体制の構築を目標とし,その対策として研修会の開催をあげている。また,事業評価指標として,「研修会を年に何回行ったか」などを設定し,それを確認するといった形をとっている。
 
図4. 在宅医療・介護連携推進事業に対する計画策定の現状と課題
出所)筆者作成
 
ただし,この指標だと,医療・介護連携が実際に深まったかどうかの確認はできない。また,連携の場面も設定されていない。連携といった漠然としたものに対して検討を行っているため,課題も対策も抽象的になってしまっている。また,対策の内容も,市町村で行えるもの(=研修の開催)に限定して考えている。そもそも,目的としている「在宅医療・介護連携の推進」は,目的(○○のために)ではなく,目的や目標を達成するための手段である。なお,こうした計画も多くの市町村で見られるものである。
 
>>その2に続く
 
 
 
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川越雅弘(埼玉県立大学大学院 教授)

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