コラム

    • 「雪あかりの路」に思う

    • 2020年02月25日2020:02:25:05:46:11
      • 片桐由喜
        • 小樽商科大学商学部 教授

私の勤務校が輩出した全国区レベルの有名人が2人いる。ともに作家、1人は小林多喜二、もう1人が伊藤整である。『蟹工船』と『チャタレイ夫人の恋人(訳)』、作品の志向は大きく異なるが、いずれも官憲と縁のあるあたりが同窓の絆か。
 
伊藤整と言えば、上記の『チャタレイ夫人の恋人』があまりにも有名で、彼が詩人であることは忘れられがちである。旧小樽高商(現本校)卒業の翌年である大正15年12月、初の詩集、『雪明りの路』を自費出版する。21歳の時である。
 
これにちなんで、小樽では市民有志の発意で「雪あかりの路」なる冬のイベントが始まった。今年で22回を数えるこのイベントには期間中、50万人の客が訪れる。
 
 
このイベントを一貫して支えてきたのが市内外のボランティアである。なかでも主戦力として活躍するボランティアは韓国や中国・台湾からの若者。今年も韓国から23人、台湾から25人が来樽した。ちなみに日本人若者ボランティアは14人である。
 
例年、韓国からは50人近い若者が来るが、今年は日韓関係の悪化により半減。困ったイベント実行委員会は本学学生がボランティアとして参加することを求めてきた。ここで、「はい、僕も」「はい、私も」と学生たちが手を挙げることは、まず考えられない。極寒の2月、外で雪と氷を相手の無償の奉仕に、積極的に参加することを本学の学生のみならず、普通の人に期待することが間違っている。
 
では、なぜ、外国からわざわざ飛行機に乗ってくるか? それは自国では経験できない異国の非日常であり、視野と交友を広げることのできるレジャーであり、アドベンチャーだからである。
 
ともあれ、本学は学生を集めるための秘策を考えた。すなわち、「雪あかりの路」にボランティアとして参加した者には単位を出すことにしたのである。試験を受けず、レポートも書かず、ましてや授業にも出ないで単位が出る、究極の「あんぱい」科目である。これで44名の学生がボランティア登録をした。
 
損得勘定で動くのかと目くじらを立てる必要はない。そもそも、たいていの大人は損得で動いている。むしろ、これを機にボランティアをして、誰かから「ありがとう」を言われる経験が彼ら学生を育てると期待したい。
 
そして、韓国、台湾、今回は参加者がいなかったが中国、これら3か国からの若者のボランティア参加をみて、頼りになる存在としての「近くの他人」を思う。「遠くの他人」を助けることも、彼らから助けてもらうことも容易ではない。しかし、距離的に近ければ、窮状を理解できて、効果的な支援が可能である。
 
日本と中国、そして、韓国は、国同士、いつも、どこか、ギクシャクしている。このギクシャク感をこれらの国々の若者たちが意識することなく、共に食べて飲んで、話して、笑って、友人となってほしい。その機会を提供する「雪あかりの路」が続いてほしいと思う。
 
 
 
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片桐由喜(小樽商科大学商学部 教授)

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