コラム

    • 【緊急寄稿(2)】 新型コロナ 続報

    • 2020年04月14日2020:04:14:01:06:32
      • 外岡立人
        • 医学博士、前小樽市保健所長

 
当方の日記から抜粋し、前回報告した新型コロナウイルスについて、その後の状況をお知らせする。
 
ウイルスは当初予想した以上に病原性は高く、世界の平均致死率が6%と、かつてのスペイン風邪並みである。しかし、把握されている感染者数に無症状者や軽症者は含まれていないため、実際の致死率は、最終的にはもっと下がるはずである。
 
当初言われていた20歳以下での発症者はやはり非常に少なく、まして10歳以下の発症者は症例報告となる。ここでいう発症者とは、症状を呈して検査で診断された症例を指す。たまたま家族が発病したためPCR検査を受けて、ウイルス感染が分かる例は、意外といるようだが、小児から大人への感染や、小児内での集団感染の報告はない。
 
高齢者での重症化率や死亡率が高いことは指摘されているが、致死率は60歳台で1.3%、70歳台で5.9%、80歳台で11.1%となっている。細気管支が炎症で閉塞するために呼吸困難が著しく、人工呼吸器が必要な例も多い。さらには人工肺(ECMO)が用いられる例もある。
 
以下、4月10日の日記を元に最新の状況に絞ってまとめた。
 
 

◆最近の気になる状況

 
日本での累積死者数は100人を超え、また感染者数も5,000人を越えた。
 
他方、欧米の主要国では、この数値は10倍以上である。特に死者数は、死者が少ないとされるドイツでも30倍近い。
 
国内のテレビでは連日、日本にやってきたコロナ集団がいかに強いか、そしていかに国や行政の対応が遅かったかを論じる。要するに日本はコロナ流行で危機に瀕していると多くの専門家や、民放のアナウンサー達は語る。
 
昨夜は、あるテレビで、日本人のWHO幹部にテレビ電話で意見を聞いていた。彼は日本は対策も遅れ、非常に心配な状態だと語っていた。しかし当方には、妙にその意見がとんちんかんなものに聞こえた。彼はロンドンに在住していて、そこからテレビ取材に応じていたのだ。
 
ロンドンは今流行の最先端を行く。感染者数や死者数は東京の10倍以上のはずだ。以前、別のWHO所属の日本人医師が、WHOは韓国や日本の対策を賞賛していると語っていた。また、安倍晋三首相も似たようなことをテレビで語っていた。日本政府にWHOは忖度しているような気がしたが。
 
しかし、民放テレビに出てくるコメンテーターは、いかに日本は危険な状態にあるかを説く。PCR検査をもっともっとして、感染者を早期に見つける必要があると熱っぽく語る。検査を多くの人々で行って、早期に病院へ収容すべしと言う。
 
ドイツではそうしているのだろうか。スウェーデンではどうなのか。
 
医療スタッフは疲弊している。それは世界中で同じ状況である。
 
日本は確かに大変である。しかし、その十倍以上も患者を抱え、数十倍も死者を出している国は、どんな状況なのであろうか。
 
日本の感染者数、そして死者数を欧米の国々のそれと比較しながら、当方は大きな疑問を抱く。人口1万人あたりの死者数も、著しく日本は少なく、0.007人に過ぎない。世界全体では0.16人、米国は0.46人、イタリアは2.9人、中国は0.6人、スペインは3.17人、そして欧州主要国でもっとも死者数が少ないドイツでは0.28人、そして首相が感染した英国は1.1人だ。
 
日本で新型コロナは大流行期を迎え、多くの医療機関は大変な状態であることは間違いは無いだろう。しかし、メディアが告げるように、本当に日本は対策が遅れたため、世界でも大変な状態にあると言うのは正しいことなのだろうか。
 
民放テレビでデンマークが紹介されていた。対策が成功している国の例としてである。人口1万人あたりの死者数は0.4人。そして感染者数は9.7人、日本は0.37人でデンマークの50分の1だ。日本に比べてデンマークの対策が成功しているとは思えない。
 
 

◆日本の対策は遅れているのか

 
本当に日本のコロナ流行対策は遅れているのか。
 
世界の事実を日本社会は知っているのだろうか。
 
欧州各国は軒並み全て、日本以上に感染者数と死者数が多い。そう言っても過言ではない。
 
メディアはなぜ、海外の状況を伝えて、もっと客観的に日本の状況を伝えないのであろうか。
 
ドイツでは、オーストリアでは、スイスでは、そしてオランダでは、社会生活、医療機関、そして子ども達の休校問題はどのようになっているのだろうか。
 
彼らは普通に生活できていないのだろうか。
 
少なくとも当方のまとめているデータでは、日本よりも、海外各国の方が感染者数も死者数も遙かに多いのだ。
 
メディアは事実を一般社会に伝える役割があるはずだ。
 
事実を誇大に煽って、視聴率を上げ続けるのは、株屋と同じ発想である。
 
一般社会に真実を伝えるべきだろう。
 
 

◆今後に向けて

 
これまでの日本の新型コロナ対策が失敗していたとは、筆者は考えていない。
 
コロナウイルスの方が強い可能性がある。
 
今後、コロナウイルスの性状が変わって行き、SARSコロナウイルスのように単なる感冒ウイルスになってしまう可能性もある。
 
または一旦流行の波が収まっても、秋口から再び流行してくるかも知れない。
 
新規ウイルスを知り尽くすまでには、相応の時間を要する。
 
焦って事を急ぐのではなく、今しばらくは、われわれの社会に戦いを挑んでいるウイルスに負けないような社会生活を一致団結して送るのが賢い考え方と思う。
 
今は塹壕の中に身を隠して、コロナ軍団の動きを注視し、去って行くのを待つ時期である。
 
新型コロナ(COVID-19)が、自然にウイルス変異により病原性を失って行くことを祈り、再び筆を置く。
 
 
 
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外岡立人(医学博士、前小樽市保健所長)

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