コラム

    • プラットフォームと国家デジタルインフラ

    • 2020年04月28日2020:04:28:14:21:11
      • 岡野寿彦
        • NTTデータ経営研究所 シニアスペシャリスト

新型コロナを契機に、中国で、遠隔医療やオンライン教育、テレワーク向けITサービスの実用化が進んでいる。ビッグデータによる感染者の追跡も、その威力を発揮している。
 
ことの是非はともかくとして、中国でこのような緊急対応が出来たのは、大部分の国民をカバーする「モバイルインフラ」の存在を抜きには語れない。アリババ、テンセントといったプラットフォーマーが提供するモバイル決済が、消費者と、企業や行政機関が提供するサービスとの「接点」の役割を果たしている。個人の行動が、ネットからリアルに跨って把握され、課金もスムーズに行える。危機下の社会インフラとして機能しているのだ。
 
筆者はIT企業で、中国、インド、東南アジアでのビジネスに取り組んできた。本コラムでは、経済社会へのインパクトを強めるプラットフォームを対象に、そのモデルの優位性と限界、戦略の変遷と展望を、中国を例に、企業人視点で紹介したい。
 
このテーマを突き詰めると、「全体主義的監視か、市民の権利か」という根源的な「問い」に対する論考が避けられないだろう。しかし、その前段で、中国デジタル・エコノミーで「起きていること」について、日本として知見を蓄積する意義はあると考え、企業人に見えている風景をお伝えしたい。
 
 

◆「社会の困りごと」を解決しながら成長:ビジネスインフラを補完

 
プラットフォームとは、人と人、人と企業、企業と企業を「つなぐ」「マッチングする」ことで、経済的な価値を生み出すモデルである。中国の代表的なプラットフォーマーとして、「BAT」と称される百度、アリババ、テンセントが設立されたのは2000年前後のインターネット起業ブームの最中。
 
筆者は北京現地法人の社長を務めていたが、多くの優秀社員が起業しては、失敗して戻ってきた。米国のモデルを輸入する「Copy to China」が中心だった。
 
その中で生き残った企業は、中国社会の「困りごと」にフォーカスを当て、消費者の支持を得ながら成長したという特徴がある。アリババを例にすると、「買いたいものが生活圏では見つからない、偽物が不安、サービスが悪い」といった、既存小売業の課題を、Eコマース(電子商務)で解決しながら、消費者の顧客基盤を作った。
 
次に、アリババが取り組んだのは、代金の回収や、資金繰り、販路や物流などの課題を抱える中小企業に、ビジネスインフラを提供して、その事業を支援することだった。米国GAFAと比較すると、GAFAは金融システムなど既に整ったインフラのうえでプラットフォームビジネスを展開したのに対して、BATは「アリペイ」に代表されるように、自らインフラを補完しながら成長したことが特徴だと言える。
 
更に、2010年代のスマホのや4G通信の普及によって、個人の情報処理能力が飛躍的に高まった機会をとらえて、アリババとテンセントの2大プラットフォーマーは経済圏(エコシステム)を構築した。2020年3月末時価総額でアリババは世界6位、テンセントは8位となっている。
 
 

◆プラットフォーム・モデルの「限界」も見えてきた

 
急速に成長してきたプラットフォーマーだが、その限界も見てきたと筆者は考えている。
 
一つは、インターネット人口の伸びが2015年頃より鈍化したことに起因する。BATの収益は、消費者を「集客」して、企業に広告枠を販売する「広告モデル」に依存している。顧客が増えないと、広告費も得られない。
 
中国の新興企業は、体質的に、成長し続けなければ組織を維持できない。そこで、プラットフォーマーは、新たな収益源を「企業向けのサービス」に求めている。しかし、「大きく投資して一気にビジネスを拡大する」ネットビジネスのスタイルに慣れた社員が、企業向けサービスの地道な積み上げに適応できるかが課題となっている。
 
もう一つは、プラットフォーマーが成長して、経済的な影響力を高めるほどに、政府による管理が強化されるという、「成長のジレンマ」に直面している。
 
中国政府は、モバイル決済を例にすると、次のようなステップで、民間企業の「成長へのエネルギー」を活用しながら、国家のインフラに組み込んだと、筆者は理解している。
 
(1)既存の何かが時代に合わなくなっているときに、民間企業に自由に活動させて、イノベーションを起こさせる。利便性の向上で、国民や社会の受容性を上げる。必要に応じて外国企業を排除する。
アリペイは、電子商務(Eコマース)の課題であった「安心な決済」という「困りごと」を解決する目的で、2004年に、アリババがサービスをスタート。その後、他のEC事業者にもオープン化した。
 
(2)市場が形成されると、行き過ぎた部分を調整して「規範化」する。
2011年:決済ライセンスを制度化。「業界秩序」、「消費者保護」などを目的に事業者を絞り込んだ。
 
(3)強い事業者2〜3社に絞り込んで、実質的に、国家のインフラとして機能させる。
2017年頃〜:アリペイ、WeChat Pay、銀聯を実質的に選定して切磋琢磨させている。
 
以上みてきたように、プラットフォーマーは、経済成長の初期段階で、デジタル技術を活用して、社会の困りごとを解決しながら急成長した。しかし、経済成長が鈍化し社会が成熟すると、ビジネスモデルの転換が必要になっており、政府による管理強化にも直面している。
 
一方で、新型コロナの危機下で、プラットフォーマーが作ってきたモバイルネットワークが、実質的な社会インフラとして直ちに機能した。
 
次回以降、中国デジタル化やその牽引役であるプラットフォームについて、多角的に分析していきたい。
 
次回は、デジタル化による中国経済社会の変化を取り上げる。
 
 
 
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岡野寿彦(NTTデータ経営研究所 シニアスペシャリスト)

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