コラム

    • アフターコロナを考える

    • 2020年05月12日2020:05:12:05:20:53
      • 佐藤敏信
        • 元厚生労働省勤務・久留米大学教授

終息にはまだずいぶん時間がかかりそうだが、アフターコロナを考えてみた。書きたいことがたくさんあるので、シンプルに箇条書きにしてみた。
 
 

1.呼吸器感染症に対する患者・国民の意識が変わる

 
(1)風邪様の症状で気楽に受診し、抗生物質その他の処方を受けて安心するというスタイルが変わる。
 
(2)予防のためのマスクや手洗いの習慣が定着する。
 
 

2.呼吸器感染症の診断と治療のスタイルが変わる

 
(1)インフルエンザの場合、検査キットとノイラミニダーゼ阻害剤の登場でインフルエンザの診療が変わった。溶連菌感染症の診療も同様である。今後は、鑑別診断としてCOVID-19も加わるが、現行のPCR検査、あるいは今後登場するであろう抗原検査キットの使用とその結果に基づく、総合的な診療となる。
 
(2)その際、後述のように、検査と診療の関係を十分に理解した論理的な診療が主流になる。
 
 

3.検査の意義についての理解が進む

 
(1)臨床家の間で検査キットの感度、特異度に関する理解が進む。
 
(2)「検査(法)があるのなら、やっておこうか」ではなく、その検査をして結果が出たときに、その結果を受けて次にどういう診療や指導をするつもりかを念頭に置いた上で検査を選択するという思考となる。
 
(3)論理的な診療のための検査と、感染ルートの探索や地域的な蔓延度を知るための疫学的・公衆衛生学的な検査との違いについての理解が進む。
 
 

4.医学・医療、それに医療従事者の重要性が再認識される

 
(1)過去30年以上にわたり、日本は医療の効率化だけを目指してきた。しかし、今後は一定の余力の保持が再評価される。このことは、後述のビジネスや企業においても同様だが、冗長性確保の重要性として再認識される。
 
(2)たとえば、地域医療構想や医師の働き方改革についても、平時の状態を前提とした単なる算術計算でなく、一定の見直しが必要になる。
 
 

5.ビジネス・働き方のスタイルが変わる

 
(1)紙文化、はんこ文化が急速に見直される。
 
(2)直接会って交渉するタイプのビジネスからネットを介したビジネスに変化する。肉体という分子の移動でなく、電子の移動でそのほとんどが達成されることになる。
 
(3)満員の公共交通機関に乗って一斉に出勤し、オフィスのような場所に集まって仕事をすることの意義が見直される。集まらないとできないような業務とそうでないことが区別されるようになる。
 
 

6.企業のありようが変わる

 
(1)これまで、日本企業は事業で得た利益を投資に回さず、株主還元に積極的でなく、内部留保として貯め込む傾向が強いとされてきた。しかし、今回のような事態には、かかる企業姿勢が、危機に耐え抜く力として再評価される。
 
(2)同様に、批判の大きかった終身雇用をはじめとする日本の労働慣行も、こうした危機においては好感をもって再評価される。
 
(3)水平的な国際分業から、一定程度は国内回帰が進む。とりわけ重要な物資については、多少割高になったとしても戦略物資として国内生産が求められる。
 
 

7.専門家の意味が問われる

 
(1)複雑化した現代においては、学問領域が細分化しているにもかかわらず、何でも屋としてふるまう専門家が見極められることになる。
 
(2)逆に、これまでは狭い領域の専門家がよしとされてきたが、多少浅くとも幅広い知識を持った専門家も求められるようになる。
 
(3)科学に立脚せず、たとえば反権力、反政府のような特定の思想が最初にあって、その目的に合致するように立論して発言するような専門家が見極められるようになる。
 
 

8.マスコミの報道の在り方が問われる

 
(1)(自称)専門家の力量を見抜けず、持ち上げて起用するようなマスコミは、視聴者や国民から見放される。
 
(2)同様に、科学的な問題に対して、情緒的な主張を繰り返し、行政や政治の責任のみを問うようなマスコミは、視聴者や国民から見放される。
 
(3)社会に与える影響を考慮しないまま、悲観的、衝撃的なシナリオを提示して、視聴率に走るマスコミは、視聴者や国民の信頼を失う。
 
 

9.これから取り組むべきこと

 
(1)コロナについてはインフルエンザとの比較を徹底的に行う。様々な角度からインフルエンザとの比較をし、コロナが実際にどれほどのインパクトを持つのか。科学的に分析・比較する。
 
(2)科学の独立性と政治との関係を再整理する。従来、米国は、科学的な問題については政治権力から独立した評価、決定がなされる仕組みになっているとされてきたが、今回は相当に揺らいだように見える。科学的な問題について、閣僚、首長を含む政治家の意思決定やリーダーシップがどうあるべきかを再検討する。
 
(3)日本型CDCの設置を検討する。AMED創設の際のように、単なる外形的な模倣ではなく、日本の国情に合った組織とすること。その際、前述の政治との関係について整理しておくこと。
 
(4)コロナ対策の費用対効果を検証する。倫理的問題に配慮しつつ、コロナのインパクトを十分に評価したうえで、ロックダウンその他の施策の遺失利得まで考慮した費用対効果を検証するべきである。
 
(5)ネット環境を充実させる。既に、高速通信網は整備されたものとされていたが、実際にネットミーティングを進めてみると、回線の品質になお問題がある。リモートワークを一層進めるためには、音質、スムーズさ、臨場感その他、多くの改善の余地がある。
 
(6)電子的な稟議、決済システムの改善。前述のはんこ文化の一掃はもちろんのこと、全分野においてRPA(ロボットによる業務自動化)を強力に推進する。
 
 
 
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佐藤敏信(久留米大学 教授、元厚生労働省勤務)

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