オピニオン

  • 在宅医療の中心は無床診療所である

    2011:04:08:00:09:00
  • 2011年04月08日
  • 嶋田丞 (大分県医師会 副会長)

 

■はじめに 無床診療所の診療報酬

 
 診療所には、ベッドを19床まで持つことが出来る入院可能な有床診療所と、ベッドを持たず外来診療だけの無床診療所の2種類がある。平成21年の厚労省の「医療施設動態調査」によると、診療所は全国に99,635施設あり、うち有床診療所が11,072施設、無床診療所は88,563施設となっている。(なお、全国の有床診療所の総ベッド数は141,817床。しかし、これは毎年およそ▲1,000床の減少傾向が続いている。先の診療報酬改定において若干の改善はあったものの、経営の持ち直しにまでは至らず、現在もベッドの閉鎖が続いている。)
 
 ここ最近の診療報酬改定の状況を振り返ると次の通りである。前々回、平成18年の改定率(医科)は▲1.5%であった。前回、平成20年の改定率は+0.42%であったが、これは病院の看護職の評価に係わるもの。今回、平成22年は、初めての民主党政権下での改定であった。マニフェストのおかげ(?)か改定率はやっと+1.74%と1%を超えたが、入院3.03%、外来0.31%と手術、入院に評価が偏り、無床診療所にとっては事実上のマイナス改定であった。
 
 この配分に対し、医療現場からは多くの異論が出たが、結局その声はどこにも届いていないようだ。無床診療所はいつものように黙って耐えている。今回は、そのような声なき無床診療所と在宅医療との関係について、現場からの視点で検討してみたい。
 
 

■無床診療所のタイプとその機能

 
 無床診療所には大別して2つのタイプがある。(1)伝統的な開業医タイプと(2)ビル開業の診療所タイプの2つである。
 
 前者は、おおよそ次のようなイメージである。地域密着型で、院長は代々かかりつけ医の役割を果たしてきた継承の医師。診療所の土地は自己所有で、自宅は隣接が多い。朝から夕刻まで診療し、午後には往診や訪問診療にも対応、夜間にも連絡がつき易く診療も可能。
 
 一方、後者は次のようなイメージである。比較的新しい開業が多く、かかりつけ医機能も持つが、眼科・皮膚科等の専門に特化した開業も多い。都市部に多く見られ、医師の居宅は別で通勤が多い。朝から夕刻までの診療であるが、都市部では通勤前の朝や帰宅後の夜間など特定の時間の診療もある。夜間の診療や連絡は難しいことが多いが、診療時間内であれば往診や訪問診療は可能。
 
 上記2つが典型的な無床診療所のタイプである。しかし、それらの医療機関としての機能は様々で、ひとくくりに語ることはできない。特に、都市部と地方(田舎)では、その運営方針や取り組みにかなりの相違がある。
 
 これは、別の見方をすれば、無床診療所という業態が、地域毎の多様な医療需要に柔軟に対応しているということでもある。数が多く小回りが利くゆえに、行政や大病院が決して満たすことの出来ない患者のニーズに、幅広く対応することが可能なのである。
 
 

■「在宅療養支援診療所」の指定制度

 
 次に、「在宅療養支援診療所」について述べたい。
 
 現在、在宅医療の推進を背景に、診療所に対し「在宅療養支援診療所」の指定制度がある。届出をして指定を受けると診療報酬点数上の優遇がなされる。例えば、往診(夜間・深夜)で650点~1000点の加算がある。また、在宅時医学総合管理料は約2倍となり、在宅の看取りは、一般の2,000点に対し、5倍の10,000点となる。ただし、この指定のためには、患者の要請に対し、24時間連絡がつき対応する義務がある。当直のいる有床診療所であれば対応も可能であろうが、独りで無床診療所を開業している医師にとって、24時間365日の対応は精神的、身体的にも大きな負担となる。
 
 この「在宅療養支援診療所」の指定制度であるが、現場の医師からは甚だ評判が悪い。地方の経済状況は依然として大変厳しい。患者負担増を気にして加算を取らず、これまで通りの点数で在宅医療、看取りまで行っている無床診療所が多いことに、行政は気付くべきである。
 
 

■在宅療養支援診療所の2つのタイプ

 
 「在宅療養支援診療所」には2つのタイプがある。(1)固定した医療施設を持つタイプと(2)固定した医療施設を持たず往診・訪問診療を専門とするタイプの2つである。
 
 (1)のタイプは主に自院の患者の在宅医療を行っており、看取りも多様で、終末期は病床であることが多い。内科医が多く、介護保険施設や介護保険サービスを併設していたり、地域で他の業者と連携しているケースも多い。
 
 (2)のタイプは都市部では増加しているが、地方では少ない。一日を通して往診や訪問診療を行うので、訪問看護ステーションの医師版とも言える。在宅医療専門で終末期・看取りも在宅が主である。内科医が多く、総合医化している。
 
 気にかかるのは、昨今、(2)のタイプが過度に世間の耳目を引いていることだ。厚労省が後押ししているからか、マスコミ報道の取り上げ方は「これこそ在宅医療だ!」といわんばかりである。長年地域に根ざした診療所を運営し、地道に在宅医療に取り組んできた多くの無床診療所としては、誠に心外である。
 
 

■おわりに 高齢者医療における無床診療所の位置づけ

 
 高齢者数の増加と共に、独り暮らし・夫婦高齢者世帯が増えている。その割合は、現在の19%から10年後には25%となることが予想されている。高齢者が増えると、要介護者数が増え、介護保険施設が必要になるのは当然のことだ。しかし、政府は介護保険施設を増やさなかった。
 
 欧米で住宅系への入所が多いこと等を理由に、診療所、訪看ステーション、ヘルパーステーション、デイサービスセンター等が付設された高齢者向け住宅が整備されることとなった。それらは、お金は僅かしかつかないのに、登録制で、義務が課せられ、行政の指導監督を伴うことになっている。
 
 現状の「高齢者に対する地域の医療提供体制」とは、典型的には次のようなものである。急病等で急性期病院に入った高齢者は約2週間ほどで退院、回復期リハビリ病院で3ヶ月のリハビリを経て、介護型療養病床、老人保健施設などに戻ってくる。介護度の低い者は入院・入所が打ち切られ、地域が自宅や高齢者向け住宅で彼らを診ることになる。訪問看護・訪問介護で看護と生活支援をし、そして在宅療養支援診療所が訪問診療や往診をして医療を提供する。
 
 次回の診療報酬・介護報酬同時改定の目玉は、24時間・365日巡回随時対応サービスの創設である。制度創設後は、地域の患者や高齢者住宅・宅老所などの入所者から通報があれば、訪問看護職と介護福祉士がペアで訪問することになる。医療が必要な場合は、先ずかかりつけ医の主治医がコールされるだろう。連絡がつかなければ、コールセンターや高齢者住宅と連携している往診専門の診療所が対応することになろう。しかし、こうなると今まで積み上げてきた地域の医療提供を混乱させ、壊してしまいかねない。そうしないために、大きな負担ではあるが、無床診療所でも何とか工夫をして、在宅療養支援診療所の届出をすることが望まれる。
 
 高齢者が地域で自立して生活できるように、医療・介護・予防・住まい・生活支援サービスが切れ目なく提供される「地域包括ケアシステム」が強く進められようとしている。その中でも24時間・365日巡回随時対応サービスはその根幹となるもので、一般の無床診療所も、訪問専門診療所もその特性を生かしてこのシステムに参画することが必要である。そして、在宅重視といいながらも、入院の選択も必要に応じて用意しておくことが、国民にとって安心感の大きいシステムとなろう。
 
 無床診療所は、往診専門診療所とは比べものにならないほど、地域医療の情報を持っている。現に、在宅医療の99%は従来型の診療所が行っている。地域包括ケアシステムの中で医療、介護、住まいの支援などその機能を自信を持って発揮し、様々な問題に声を出して主張できる機会を作るべきである。
 
 
--- 嶋田丞 (大分県医師会 副会長)