オピニオン

  • 企業経営者の見識と行動 TPP・増税よりも教育再生を

    2011:11:11:11:30:00
  • 2011年11月11日
  • 坂口一樹 (シンクタンク研究員)

 

 わが国でも、この国難の今こそ「教育」について、もっと政策議論の争点になってよいと思います。

 
 米国では、職がなくて奨学金を返済できない若者が社会問題化しており、「教育再生」はオバマ政権の重要な政策目標のひとつです。お隣の韓国でも、国民の最大関心事であり、毎回、大統領選の重要な争点のひとつです。(大統領が変わるたびに制度が大幅変更されて受験生は大変のようですが)
 
 
 歴史を振り返ると、例えば、次のようなエピソードがあります。
 
 第二次大戦敗戦後、石橋正二郎氏(ブリジストン創業者)は、私財を投じて陸軍施設の払下げを受け、それを九州医学専門学校に寄付する形で、現在の久留米大学および久留米大学附設高校の基礎を創りました。それだけではなく、石橋財団を創り、美術館・文化会館等の文化振興のためのインフラ整備に努めました。
 
 戦前、久留米市は陸軍の軍都でした。そして、石橋氏の事業の発展も、そのことと無関係ではありませんでした。敗戦を機に、彼の胸に去来した想いは、大変に複雑なものであったことでしょう。
 
 その軍都・久留米を「今度は教育と文化の街として再生しよう」というのが、戦後の石橋氏のマスタープランでした。その志に感応し、久留米大学附設高校(1950~)の初代校長に就任したのは、板垣政参氏(医師、A級戦犯として処刑された板垣征四郎陸軍大将の兄)でした。敗戦後のガランとした陸軍兵舎跡から、同校の歴史は始まりました。
 
 時を経て2011年。3.11大震災の後、「孫正義氏の100億円寄付」が世間の耳目を引きました。
 
 彼の場合、寄付といっても再生エネルギー事業への参入を狙った我田引水である、との批判もあります。しかし、私は、敗戦を眼前にした石橋正二郎氏の志が、時代を超えこの国家の危機に際して、形を変えて結実したような気がしてなりません。孫正義氏も、石橋氏の志が創ったその学び舎で、少なくとも机を並べた一人であるからです。
 
 
 比較して、現代の企業経営者たちの姿はどうでしょうか。
 (※ここでは不可解なM&A報酬を払った人やカジノで豪遊した人は論外とします)
 
 「このままでは国内産業が空洞化する!」を脅し文句に、TPP参加や法人税・自動車重量税等の引下げを求めています。言いたいことは理解できますが、石橋氏のそれに比べ、余りにも近視眼的な見識と言えないでしょうか。
 
 良く分からないのは、彼らは同時に「消費税増税」を求めていることです。が、それについては、輸出大企業を中心に「消費税の輸出戻し税」還付による利益確保が狙い、との見方もあるようです。
 
 まさか、現代日本を代表する企業経営者たちの考え方が「輸出戻し税で利益を確保しよう!」なんて“セコい”ものだとは、俄かには信じがたい。いくらなんでも、そこまで落ちぶれてはいないと思いたい・・・。
 
 もし“万が一”、そんな考え方の経営者がいるなら、タダの老害ですから、さっさと次世代に席を明け渡すべきです。そんな話を石橋正二郎や本田宗一郎、松下幸之助ら先人が聞いたらなんと言うでしょうか。
 
 
 そんな疑惑を払拭し、同時に日本復興の礎ともなる“妙案”があります。すなわち、「輸出企業は消費税の輸出戻し税還付を敢えて受けず、日本復興(特に、教育再生)の財源とする!」というものです。
 
 「輸出戻し税の還付」は、消費税制の重大な欠陥です。「大企業と下請け企業」・「大企業と労働者」の立場が対等であれば、還付されて無理からぬ話ですが、対等でないことくらい、子供でも知っています。
 (※経済学者は知らない人が多いみたいですが・・・。)
 
 輸出割合を増やし、下請けから買い叩き、業務委託や派遣労働の割合を増やせば増やすほど、消費税が還付され輸出企業がだけが潤う、という仕組みはあまりに歪です。
 
 この歪な状況を放置しながら「消費税増税」を声高に提言する企業団体・経営者団体は、本当に国内産業の空洞化を心配しているのでしょうか?
 
 本当にそれを心配しているなら、教育を通じて“未来の若者”に投資することこそ一番の解決策、と言えないでしょうか。増税やTPPが本当にこの国を救うかは“不確実”ですが、未来の若者がこの国を担うことになるのは“確実”だからです。
 
 現代の企業経営者にも、この国難に際して、その地位に相応しい見識と行動を求めたいものです。
 
 
 
--- 坂口一樹 (シンクタンク研究員)