オピニオン

  • 財政再建は稲盛JALに学べ

    2012:02:06:00:10:00
  • 2012年02月06日
  • 安東大輔(医療法人勤務)、坂口一樹(シンクタンク研究員)

 

 唐突だが、読者諸兄に質問である。 
 
「現時点で、民主党政権の最大の功績は何だと思うか?」 
 
 ある人は「財政再建へのチャレンジ」と答え、またある人は「官僚依存からの脱却へのチャレンジ」、(いずれも「成果」ではないのが苦しいところだが)と答えるだろうか。昔懐かしい「事業仕分け」という人もいるかもしれない。 
 
 そして悲しいかな、「何もない」という回答がマジョリティになりそうである。それではあまりにも虚しく、この2年半が無為に過ぎたとも思いたくない。 
 
 今回、筆者らなりに「最大の功績」を発見するに至り、さらにこれが現在直面する「財政再建問題」解決の鍵になるという確信を得ることができた。以下、それについて論じたい。 
 
 

■JAL再建への稲盛和夫氏の起用 

 
 筆者らが考える「最大の功績」とは、「JAL再建への稲盛和夫氏の起用」である。これは自民党政権下ではできなかった人事ではなかろうか。 
 
 ご存知の通り、2兆円を超える負債を抱え、経営破たんに陥ったJAL。しかし、稲盛氏は社長就任からたった1年で黒字化を実現、再上場のメドも立ち、再生の筋道をつけたことで近々退任する。
 
 小沢一郎氏と懇意だからという要素もあったとは思うが、民主党のこの人事(だけ?)はスマッシュ・ヒットだった。 
 
 
 

■稲盛式JAL再生の3つのポイント 

 
 多難に思えた「JAL再生」だったが、稲盛氏の手法は単純かつ明快であった。その手法は、次の3つのポイントに集約できる。(1)「稲盛経営哲学」の注入、(2)月次決算の迅速な把握、(3)日々の部門別収支管理の3つである。 
 
 
(1)「稲盛経営哲学」の注入
 
 稲盛氏が最初に手をつけたのは、「社員の意識改革」であった。 
 
 倒産会社にもかかわらず社員には危機感がなく、世間に迷惑をかけたという自覚もない。稲盛氏は「人間とはいかにあるべきか」、「従業員全員が再建に関与しよう」といった話を根気強く社内に説いていった。最初は拒否反応もあったようだが、いつしか社内には「会社を再建しよう」という目標とその意識が浸透していったという。 
 
(2)月次決算の迅速な把握
 
 稲盛氏がJALに来て驚いたのは、収支と財務データ把握の「遅さ」と「ドンブリ勘定加減」であった。 
 
 収支の部門分けが大雑把な上、報告されるのは2~3ヶ月後。これでは「経営改善」の大前提となる「現状把握」ができるはずもない。まずは「現状を迅速に把握する」ことから始めた。
 
 月末に締めた会計を翌月初には、月次の損益計算書・貸借対照表にして確認する。経営者なら当たり前のことである。しかし、破たん会社は往々にしてその当たり前のことすらできていない。JALもできていなかったのだ。
 
(3)日々の部門別収支管理
 
 「月次決算の把握」に続き、今度は「日々・部門別」の収支管理を実践した。
 
 「日々の、航空便別」の収支が分かるまでの細分化である。「9:00の羽田→福岡便は○○万円の黒字だ」というように。さらにこれを翌日に報告させるようにする。路線別に収支の責任者を置き、日々黒字・赤字を追い続ける。すると路線の専門家が育ち、黒字を追いかける意識が全社へ根付いていった。 
 
 

■稲盛JALに学ぶ国家の財政再建 

 
 さて、ここで冒頭に述べた「財政再建問題」に話が戻る。筆者らが主張したいのは、「国家の財政再建への稲盛手法の導入」である。 
 
 とはいえ、(1)「稲盛哲学」については、一朝一夕で身につけることは難しいだろう。国家財政の再建のために、すぐにでも取り入れるべきは(2)と(3)だ。 
 
 「破綻JALで2~3ヶ月遅れのドンブリ勘定」だった月次の収支財務の報告だが、現状、日本政府はどうやっているか。すなわち、日本政府の「月次収支報告書・賃借対照表」が公表されるのはどのタイミングか、ご存知だろうか?
 
 正解は何と、「やっていない」である。これだけ日本政府の財政問題について深刻さを強調するくせに、財務省の官僚たちは「月次決算すらしていない!」のである。無論、 「部門別・日別」の収支など望むべくもない。 破たんJALと同様に、当たり前のことすらできていないのが現状の日本政府なのである。
 
 そもそも財務省による年次の決算書の公表自体、「2年遅れ」である。現在、財務省のホームページで見ることができるのは、かろうじて「平成22年度の決算概要」である。 
 
 この状況で、「財政再建」の前提となる「現状把握」など出来るはずがない。議論の前提となるデータもろくに揃っていないのに、彼らは「増税」や「財政再建」を議論しているのだ。 
 
 月毎の収支報告書・賃借対照表が公表され、さらに省庁別・日別の収支報告を行うことが財政再建の大前提・第一歩だと考える。財務省なら「前日に為替介入に投入した金額とその収支」、厚生労働省なら「前日の勤労者からの社会保険料収入、受給者へ振り込んだ年金の支出」のように、細分化した収支をすべて翌日に公表するのである。 
 
 現実味がない、人件費が膨大になるという声が上がりそうだが、実は、既にあの大阪府が同じ手法を導入している。大阪府は、橋下知事(当時)のもと、2008年に財政再建に着手、2009年に11年ぶりの黒字化を実現した。「職員給与の引き下げ」や「私学助成や市町村補助金の削減」ばかりがクローズアップされたが、それと並行した取り組みが「収支報告の迅速化」であることはあまり知られていない。「新公会計制度」は2011年度から運用を開始しており、2012年度から財務諸表が公表されるようになる。 
 
 「まずは現状把握」という意識からすべては始まる。これだけコンピュータと情報通信技術が進んだ現在、優秀である(はずの)財務官僚にそれができないわけがない。足し算と引き算しか使わないのだ。 
 
 

■測れないものは改善できない 

 
 「You cannot improve what you cannot measure.」という英語の諺がある。訳すと「測れないものは改善できない」という意味だ。「財政再建」がうわ言のように繰り返されている昨今だが、私たちは大前提を見逃していないか。 
 
 その前提とは、「国の収支報告書・賃借対照表」が毎月公表され、日々の収支が迅速に公開されるようになることだ。そうなれば、簿記2級程度の知識を持つ国民なら誰でも「財政再建」の議論に参加できるようになる。 
 
 迅速にデータが揃うことで、はじめて議論が意味を成し、有益なアイデアも出て来よう。ろくなデータもそろっていないのに、一部の政治家や経済学者・マスコミが財政再建について当てずっぽうで語り、消費税増税が政治の争点になっている、というのが現状だ。何ともマヌケな状況ではないか。 
 
 何より、日本政府に対する最大の債権者は、私たち国民なのだ。私たちは、国の財務状況・収支の状況について、「詳細を迅速に」、知る権利がある。私たち国民は、次のようなスタンスでいるべきではないか。 
 

「消費税増税・・・?」、「社会保障と税の一体改革・・・?」 

馬鹿を言っちゃいけない。

まず、公務員諸君は、日本政府の月次決算と日々の収支データについて、適時適切に報告したまえ。すべての話はそれからだ。

 
 
 
--- 安東大輔(医療法人勤務)、坂口一樹(シンクタンク研究員)