オピニオン

  • 『FACTA』記事 "調剤薬局「バブル」の不条理"を読んで

    2012:09:24:09:30:00
  • 2012年09月24日
  • 北村大也 (医師、診療所院長)

 

 オリンパス不祥事の大スクープで一躍名をあげた『FACTA』という月刊誌があります。その2012年10月号に、“調剤薬局「バブル」の不条理”と題した、大変興味深い記事が掲載されていました。
 
 医療関係者だけでなく、広く患者・国民の皆さんにも読んでいただきたい内容ですので、要約してここに示します。
 
 
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 「医薬分業」の名のもとに院内薬局を冷遇し、調剤薬局に過大なインセンティブをつける政策を続けた結果、「調剤バブル」とも言うべき現象が起きている。これが記事の概略です。
 
 まず、調剤市場の急拡大と調剤薬局の林立の事実が述べられています。行政主導で医薬分業を進めた結果、調剤市場は1.27兆円(97年度)→6.56兆円(11年度)まで拡大。今や、わが国の調剤薬局の数(5万3千店)は、コンビニの数(4万4千店)を大きく上回るまでになりました。
 
 次に、「調剤薬局一人勝ち」とも言える医療業界の現状が述べられます。度重なる診療報酬引き下げに伴い、病医院の経営は厳しく、法人立病院の約22%、法人立診療所の約30%は赤字(TKC全国会のデータ)という惨状です。製薬会社も相次ぐ特許切れに苦しんでおり、新薬開発に難渋しています。医薬品卸はM&A戦略で生き残りを図っていますが、製薬会社からのリベート等もあまり期待できず、利益は振るいません。他方で、調剤薬局の業績だけは絶好調。業界大手の日本調剤グループのトップの報酬は6億5千万円(!)、「保険医療でもうけて何が悪い」と居直っているそうです。
 
 
 これらの背景にあるのは、“「医薬分業」を錦の御旗に調剤業界を優遇した厚生労働省の利益誘導政策”です。「薬漬け医療」が社会問題になった90年代以降、行政は、報酬面で院内の薬局を冷遇する一方、院外の調剤薬局には様々なインセンティブを付けました。院外薬局に大きな利益が出るような調剤報酬体系にしたのです。次表の通り、その差は歴然です。
 
 
(出典:FACTA記事より)
 
 
 患者側からすれば、同じ薬を処方してもらったとしても、院内で受け取る場合と比べて、院外の調剤薬局で受け取る場合の方が高いお金を払うことになります。また、“患者の多くは調剤薬局の処方が病院より高くつくことを知らない”と記事は指摘しています。
 
 それでも行政が医薬分業に邁進してきたのは、“薬漬け医療をなくせば医療費を抑えられるという盲信”があったからですが、その目論見は見事に外れています。高齢化の影響もあるとはいえ、逆に調剤医療費(特に薬剤料)の増大がトータルの医療費増大を招いてしまっています。
 
 
 “「調剤バブル」は官製市場ゆえに生まれた官製バブルである。”と記事は指摘します。薬事行政を司る官僚(≒薬系技官)たちが、机上の政策を進め市場を歪めた結果ということです。しかし、官僚は自らの政策の誤りを認めません。それどころか、調剤薬局に地域住民の健康管理の一端をを担わせ、医師にかかる回数を減らし、医療費削減をしようという、新たな“画餅”政策を進めようとしています。
 
 調査報道の『FACTA』は、この件について厚労省に問い合わせをしています。記事の最後にその様子が描写されていますが、担当の保険局医療課の返答がケッサクです。どのような返答だったか、敢えてここには書きませんが、近年よく指摘される「行政官僚の質の低下」を象徴するような対応ぶりでした。
 
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 以上が記事の大まかな内容です。
 
 自分は、WEB版のFACTAで、この記事を読みました。逆風の中でも院内処方を続けている医療機関経営者の一人として「よくぞ言ってくれた!」と心の中で快哉を叫んでいましたが、ふと横を見ると次のような派手な広告画像が目に飛び込んできました。医療系の人材紹介会社のバナー広告です。記事本文中のキーワードを拾って自動表示されるタイプの広告のようです。
 
“薬剤師の転職 年俸380万→730万”
 
“薬剤師の転職 年収700万以上、年間休日126日以上、有休消化率100%、残業ナシ”
 
 記事が糾弾する「調剤バブル」現象を如実に示す、あまりにも皮肉な光景でした。我々のような病院・診療所では、上のような条件はとても出せません。官製バブルに沸く調剤薬局への薬剤師の転職を勧める広告に間違いありません。
 
 この歪んだ状況が少しでも早く改善されることを願ってやみません。
 
 
 
---北村大也(医師、診療所院長)