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  • 地域包括ケアシステムの構築と課題

    2013:08:09:09:00:00
  • 2013年08月09日
  • 嶋田丞(日本臨床内科医会 副会長)

はじめに

 
我が国の総人口は、2015年の1.26億人から2025年には1.2億人と600万人の減少が予測されている。高齢者人口が増加し続ける一方で、経済的にも人材供給の面からも必要とされる生産年齢者人口は、すでに1995年から全ての都道府県で減少が続いている。
 
特に地方ではこの傾向が強く見られるが、それは将来の都市部の姿でもある。
 
時代と共に家族形態にも変化が見られる。独り暮らしの高齢者や高齢者夫婦世帯が増えており、疾病や加齢によって自宅での生活が困難になっている。高齢化が進むと疾病にかかる率は高くなるが、急性期治療後の慢性期病床不足などで、その受け皿は不足している。あわせて、要介護高齢者も急増しているが、介護ニーズへの対応は充分でない。
 
 

1.在宅療養生活の推進

 
上記のように医療・介護ニーズを持つ高齢者、認知症を伴う高齢者の増加に対し、在宅での療養を推進しようというのが昨今のわが国の方針である。病院・診療所の病床規制、介護保険施設の新たな建設制限、介護療養病床の廃止などで、医療難民・介護難民が生まれた。その受け入れ先は、在宅での療養しか残されてない。
 
行政は医療計画、介護保険事業計画を立て対応しているが、その主な方向性は、比較的費用の少ない在宅の療養生活の推進である。その集大成であり、最大の目玉が「地域包括ケアシステム」の構築である。
 
 

2.地域包括ケアシステムの構築

 
平成24年4月、6年に1回の診療報酬と介護報酬の同時改定が行われた。診療報酬改定では、患者が在宅医療の充実により在宅に早期に移り、地域社会へ復活することが企図された。介護報酬改定の基本的な考え方は、地域包括ケアシステムの基盤整備であった。医療・介護ニーズの高い高齢者に対して、医療・介護を切れ目なく提供するという「地域包括ケアシステム」の構築がその目的であった。
 
 

3.地域包括ケアシステムの定義

 
では、地域包括ケアシステムとは何か。その定義は、「ニーズに応じた住宅が提供されることを基本とした上で、生活上の安全・安心・健康を担保する為に医療や介護・予防のみならず、福祉サービスを含めた様々な生活支援サービスが日常生活圏で適切に提供できるような地域での態勢である」とされている。
 
住宅、医療、介護、予防、生活支援の5つがそのキーワードである。中でも、医療(特に在宅医療)と住まい(特に居宅)が重視されている。
 
 

4.医療と介護の一体的提供

 
地域包括ケアシステムにおける医療提供は、かかりつけ医の在宅医療、在宅療養支援診療所(病院)として訪問看護と連携した24時間、365日の切れ目のない在宅医療(往診・訪問診療)である。
 
また、医療と介護を一体的なものとしていることがその特徴である。したがって、医療者が、ケアカンファレンスへの参加など、介護に対する協力と理解、そして介護サービスの評価にも関わっていく事も求められる。
 
 

5.医療機関と在宅医療

 
住み慣れた地域で最後まで暮らせない高齢者が増加している。完治の見込みのない癌、老衰の終末期などを支える受け皿が少ないのが現状である。
 
したがって、医療機関が在宅医療に関わることは今後ますます重要となる。特に、以下のような機能が期待される。
 
(1)中小病院・有床診療所
急性期医療から在宅への橋渡しなどの後方支援機能、在宅療養者の急性増悪に対する在宅支援機能、リハビリテーションなどの在宅復帰機能、介護保険での短期入所療養介護や介護療養型病床群の活用がある。
 
(2)無床診療所
患者の外来診療から入院・在宅まで一貫して関わり、本人だけでなく家族も含めて医療、生活の情報を持ち、24時間オンコールに対応し、在宅医療に取り組むというかかりつけ医機能を持つ必要がある。介護、福祉に無関心の診療所の将来は暗い。
 
(3)在宅医療専門診療所
訪問診療や往診に特化し、在宅療養支援診療所機能を持ち、病院やかかりつけ医と連携して在宅医療を支える役割がある。
 
 

6.在宅医療専門診療所

 
最近、在宅医療を専門とする診療所の開業が都市部を中心に増加している。行政が、在宅医療だけで経営が成り立つように医療費を在宅へシフトさせ、在宅医療への参加を誘導した結果である。
 
24時間対応と病診連携、診病連携で機能強化した在宅療養支援診療所、24時間対応の在宅療養支援診療所と届出していなくても普段から往診や訪問診療を行っている診療所があるが、その評価には大きな格差がある。在宅ターミナル加算では6000点(1点10円)から3000点、在宅時医学総合管理料は5300点から2200点と大きな差がつけられ、点数誘導されているが、患者にとっては選択権はない。
 
 

7.在宅医療専門診療所の課題

 
在宅医療専門診療所は在宅医療のエースとして登場し、厚生労働省やマスコミからの評価は高い。しかし、地域医療の形態が変わっていくにつれ、多くの課題も生まれた。
 
例えば、地域に突然開業し、かかりつけ医と連携のない往診や訪問診療が行われ、高齢者住宅や有料老人ホームの専属となり、居宅として丸抱えの訪問診療を行っている事例などである。また、一般病院の一部には、門前診療所を作り、親病院とタイアップして機能強化した在宅療養支援診療所となり往診、訪問診療に特化して在宅医療に参入している例がある。このように、ある種の患者囲い込みのような事例が散見される。
 
そのあるべき姿は、一般診療所と連携して在宅医療部門を担うこと、患者中心、利用者中心の理念を持って医療提供を行うことである。そうでなければ、早晩、国民の信頼を失うことになりかねない。
 
在宅医療の内容は、診察、投薬、まれに行う生化学検査で終わることが多く、胸部X線、心電図、エコーなど使うことは稀で、僻地以下の医療である。定期的に検査の出来る医療機関と連携するなど在宅医療の評価に納得できる良質な医療を提供する必要がある。
 
 

8.サービス付き高齢者住宅

 
地域包括ケアの基本となる住宅の提供は重要である。国からの補助金、優遇税制のサービス付き高齢者住宅は、土地が安い・高齢者が多いという条件が加わると、爆発的に地方では増加している。
 
サービス付き高齢者住宅は、医療病床や介護保険施設が制限されている中で、唯一増やせる地域の病床といえる。上述したように、地域では高齢の医療難民・介護難民が増えている。介護保険施設への収容は介護保険料の上昇を招くため、国は民間のサービス付き高齢者住宅、有料老人ホームの建設を推進してきた。その結果、平成24年3月現在、株式会社60.5%、有限会社10.9%と、その7割以上が民間会社による運営となっている。1施設当たり戸数も20~30戸程度が多いが、大都市になる程規模は大きくなる。
 
住宅に入居すれば家賃、食費、管理費、日常生活材料は全額自己負担、そして健康保険料、介護保険料、医療・介護サービスの自己負担も支払いに加わる。国が関わるのは医療保険・介護保険財源の一部だけで済む。
 
団塊の世代の高齢者が増えても、医療機関の病床、介護保険施設は固定し、民間の高齢者住宅などを増やすことで乗り切れると国は考えているのではないか。
 
 

9.サービス付き高齢者住宅の課題Ⅰ

 
サービス付き高齢者住宅の建設ラッシュは止まらない。要介護者で満室の高齢者住宅の増加は、その地域の介護保険料の上昇を招くため、保険者である市町村の一部に参入制限が見られるが、その流れを押しとどめるには至っていない。
 
その経営には無資格者でも参入可能であり、やり方によっては大きな利益をあげることも可能である。従業員には、内部で提供するサービスによって、ケアマネジャー、介護福祉士、ヘルパー等の資格が必要であるが、自らが経営するか、連携する外部の介護サービス事業所からのサービス提供を使えば、高齢者住宅の経営には資格は必要ない。基本的な食事と住居で利益は出なくても、提供する訪問介護、通所介護などを内部の介護支援専門員の画一的なケアプランに沿って限度額まで使用すれば毎月大きな利益となる。
 
閉ざされた環境の中で提供される医療・介護サービスは、その質の確保が最大の課題となる。患者・利用者の立場に立つ、ニーズに沿ったケアマネジメントの提供が求められる。医師、歯科医師、薬剤師、看護師などの医療提供者も患者の利益になる医療サービス提供が必要で、利益の為だけが目的の訪問であってはならない。
 
 

10.サービス付き高齢者住宅の課題Ⅱ

 
サービス付き高齢者住宅や介護付き有料老人ホームの居住者への介護は、主として専属のケアマネジャーのケアプランに沿って、利用者のニーズに関係なく限度額一杯の訪問介護、訪問看護、施設内でも可能な通所介護が行われているのが現状である。また、医師、薬剤師による居宅療養管理指導もその内容は充実しているとは言い難い。
 
医療の提供では、一般診療所(かかりつけ医)、在宅療養支援診療所(病院)、在宅医療専門診療、歯科医師から訪問診療や往診が行われる。投薬の必要な者には指定の調剤薬局の訪問と指導がケアプランに関係なく提供されるが、これらには本人・家族の同意が必要となっている。
 
介護保険サービスを受けるには、主治医意見書が必要なことから、入居によってかかりつけ医から離れて半強制的に指定の主治医が決められるが、それには往診・訪問診療専門の診療所が関わることが多く、必然的に抱え込みが生まれることになる。
 
 

11.在宅療養への対応

 
国は地域における効率的な医療提供のため、多職種連携で在宅医療に関するスキームの構築を行い、在宅医療の充実を目標に厚生労働省医政局が「在宅医療連携拠点事業」を行っている。
 
在宅介護の改善の為には、地域包括センターを活性化して、個々の利用者についてアセスメント結果によるケアプランの検討が行われる。現在の任せっきりのケアプラン、開催されないケアカンファレンスの対応策として厚生労働省老健局が「地域ケア会議」を進めているが、ケアマネジメントにやっと評価システムが入ったことが重要であり、地域ケア会議を拡大していく為には医師をはじめ多くの職種の参加が求められる。
 
 

おわりに

 
今後の在宅医療においては、患者・利用者主体の原則を確立していくことがますます重要となる。医療・介護の提供側の利益の追求だけで終わってはならない。
 
「地域包括ケアシステム」を各地域に根付かせるうえでも、周辺の職種と協力し、協議の場を行政と持つことが、その第一歩となろう。
 
 
 
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嶋田丞(日本臨床内科医会 副会長)