オピニオン

  • 介護保険15年目の到達点

    2015:02:18:08:05:00
  • 2015年02月18日
  • 嶋田 丞(医療法人博寿会 理事長)

はじめに

 
平成27年4月の介護報酬改定での改定率はマイナス2.27%となった。消費税率10%への引き上げが先延ばしされたことが影響し、介護保険財政が苦しくなったことによるものである。
 
その内容は、中・重度の要介護者や認知症高齢者への対応を強化する一方で、平成26年4月の診療報酬で同一家屋の在宅医療が大幅に報酬削減されたように、介護報酬改定でも集合住宅に居住する利用者のサービス提供が見直されたというものである。加えて、特養やデイサービス等の基本報酬の適正化も実施された。
 
今後、要介護高齢者や認知症高齢者の増加に伴い、介護費用が増えることは避けられない。介護の支援が無いと生活できない要介護高齢者は多い。ただ、医療とは違い、介護の市場には営利法人も参入可能である。一部に不適切な行為が存在することも事実であり、マイナスのイメージで介護保険が見られることもある。他方で、介護保険は国民の生活にとって必要度は高く、もはや日本社会に不可欠な制度となっており、利用者からは概ね高い評価を受けている。
 
本稿では、介護保険を推進する見地からその歴史を検討し、今後について展望してみたい。
 
 

1.介護保険創設の背景

 
介護保険制度は、平成12年(2000年)にが創設された。社会的背景には疾病構造の変化がある。すなわち、CureからCareへ、医療中心から生活支援へ、保健・福祉・医療の包括的システムが必要となったということである。
 
産業構造・社会構造の変化もその背景にある。女性の社会進出、大都市への人口・産業集中、家族構成は核家族化によって独居高齢者や高齢者のみ世帯、要介護高齢者の急増があった。それらを社会的に支援する制度として介護保険が創設された。
 
 

2.要介護と介護費用

 
介護保険が創設されてから15年が経とうとしている。この間、要介護(含、要支援)認定者は218万人(2000年)から564万人(2013年)と約2.6倍。介護サービス利用者は149万人(2000年)から471万人(2013年)と約3.2倍。そして介護費用は3.6兆円(2000年)から10兆円(2014年)と、14年間で約2.7倍と急増している。高齢者人口は2042年にピークに達し、その後、減少すると予測されている。介護費用も、相関して増加することは避けられない。
 
今後伸び続ける介護保険に関わる費用を考えると、介護関連産業は成長産業とも言える。事業者は介護保険の理念に沿い、適正な介護サービスが提供されるように努力し、医療と介護が連携し、多角的に取り組んで介護費用の有効的活用に努める必要がある。
 
 

3.介護保険創設の前後

 
介護保険の創設以前には、医療機関では慢性期病床・介護力強化病床には、長期間入院の患者が多かった。いわゆる「寝たきり老人」がイメージされ、そこには非効率な社会的入院があると見なされていた。特別養護老人ホームも、数は少なく待機者が多かった。入所者も終末期まで過ごす人々が多く、そこにあるのは、最低限度の医療・介護サービスの提供であった。
 
介護保険が創設されると、要介護度に応じた支給限度額が決まり、その範囲であればケアプランに基づき利用者・家族の意に沿った介護サービスが提供されることとなった。介護保険施設だけでなく、自宅・居宅(有料老人ホーム、サービス付き高齢者住宅)で、看取りまで手厚い介護を受けることが制度的に可能となった。介護保険は、従来の慢性期医療・福祉を大きく変貌させ、国民の生活の質の向上に大きく貢献している。
 
 

4.介護保険の光と影

 
医療と介護を必要とする高齢者にとって、介護保険は老後や終末期に対して安心を与える制度となっている。これは家族にとっても看護・介護の負担を社会的資源で軽減でき、介護の為の離職も減少させる。要介護高齢者を抱えた家庭にとって、介護保険の存在価値は高い。
 
しかし、介護保険に甘えて頼りがちとなって、インフォーマルのサービスの減少、安易な介護サービスの利用、そして、要介護度認定でも重く出ることを歓迎する風潮もある。モラルが欠落した制度の悪用は制度の社会的便益を損なうことにつながりかねない。不適切な利用は介護財源不足をも招き、訪問介護サービス時間の短縮など、介護サービスが薄弱化している現状もある。是正すべき課題も多い。
 
 

5.認知症への理解

 
認知症患者に関わる諸問題は、介護保険創設まであまり表面化しなかった。重症化すれば精神科病院へ入院するか、狭い部屋等に押し込められて、世間の目に触れることは少なかったからである。認知症の診断技術も現在ほど確立されておらず、精神疾患と同一視されがちであった。しかし、介護保険が出来ると、要介護認定の為のアセスメントが作られた事もあり、認知症への対応が見直され、診断・治療も進歩した。
 
そして現在、認知症患者には精神科の専門医だけでなく、地域のかかりつけ医も研修を受けて認知症に対応できるようになった。かつて社会的に隠されていた認知症高齢者は、介護保険をツールとして社会的地位を得たと言える。
 
 

6.産業としての介護保険

 
現在、介護費用は約10兆円の市場となっており、今後も伸び続けると予測されており、介護関連産業は成長産業と言える。新しい職種として、ケアマネジャー、介護福祉士、そして大量のヘルパーが養成された。また、介護保険施設は急増し、民間では有料老人ホームやサービス付き高齢者住宅などの建築ラッシュが見られ、関連企業を潤している。
 
介護保険は、本人や家族の助けとなっているばかりでなく、一産業としても我が国の経済成長に大きく寄与している。今や、世界に冠たる我が国の介護保険制度を成長、充実させるべきで、介護報酬のマイナス改定で同産業を鈍化させるのは賢明でないと考える。
 
 

終わりに

 
介護保険の創設前後を比較してみると、医療にも福祉にも大きな変革があり、介護保険の創設は医療保険のあり方にも大きな影響を与えてきた。
 
かつて高齢者にとっての将来は、不透明で不安の多いものであった。しかし、介護保険の創設は、療養生活に伴う不安を多少なりとも解消し、安心できる老後の生活保障に寄与してきた側面が大きいと考える。医療提供者には、受益者の側になって、療養が必要な高齢者を総合的に診るにはどうしたらよいか。高齢社会における医療・介護提供者のあり方について、意識改革を方向付けるキッカケが生まれた。
 
次は、「医療」との連携を重視し、超高齢社会に相応しい成熟した介護保険制度を目指すことが必要である。
 
 
 
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嶋田 丞(医療法人博寿会 理事長)