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「三位一体改革と介護保険」土居丈朗
(掲載日 2005.4.5)
 昨年末、国と地方の税財政改革である三位一体改革について、具体的な政策が決まった。そもそも、三位一体改革は、「国庫補助負担金(いわゆるヒモつき補助金)の削減」、「地方への税源移譲(国税を地方税に移し替えること)」、「地方交付税(使途を定めない補助金)の改革」を一体的に改革するものである。この改革を通じて、自治体の権限強化と財政健全化を促そうとするものである。

 三位一体改革の全体的な方向づけは次のようになっている。そもそも、ヒモつき補助金である国庫補助負担金は、自治体側にとっては使途が自由にならないおカネである。その上に中央省庁からの行政的関与の源泉となっていることから、これをできるだけ減らして一般財源化(つまり、使途が自由に決められる財源に変えること)することが求められた。このため、三位一体改革は、いくら国庫補助負担金を減らし、いくら税源移譲を行うか(自治体が自由に使途を決められる地方税を増やすことが目的)が政治的に最大の焦点となった。

 小泉内閣が2003年6月、改革期間を通じて4兆円の国庫補助負担金の削減を決め、税源移譲については補助金削減の内容を見てその額を決める、との方針を打ち出したところ、自治体側から、税源移譲の額が決まらないと補助金だけ削減され、はしごを外されるだけに終わる、との懸念が表明された。このため、2004年6月に出された方針には、概ね3兆円規模の税源移譲を目指すことが明記されることとなった。残りの1兆円は、地方自治体の歳出削減などに委ねることが見込まれている。

■三位一体改革の影響

 そして、次の焦点は、どの補助金を削減するかということに移った。2004年11月に合意した内容によると、義務教育費国庫負担金、国民健康保険を始めとする社会保障関係、公営住宅家賃収入補助などを削減することが決められた。

 当然ながら、市町村を保険者とする現在の介護保険制度は、その影響から無関係でありえるはずはない。介護関係で、三位一体改革の影響は、次の四点である。

 まず、老人福祉法に基づき、市町村が行う養護老人ホームへの入所措置等にかかる経費について税源移譲が行われることとなった。これまでは国から養護老人ホーム等保護費負担金が分配されていたが、2005年度から廃止される。地方六団体からの廃止・税源移譲要望があったからである。なお、養護老人ホームの入所については、2006年度から介護保険サービスが利用可能となるよう制度改正を行うこととしている。

 二つ目は、市町村の行う生活支援ハウスにかかる事務・事業について税源移譲が行なわれることとなった。これまでは国から補助金が分配されていたが、これは2005年度から廃止される。

 三つ目は、負担金・補助金の交付金化の一環として、介護関係で地域介護・福祉空間整備等交付金が新設されることとなった。それは、市町村整備交付金と施設環境改善交付金からなっている。市町村整備交付金は、市町村が定める市町村整備計画が、国が定める基本方針に照らして適当なときに交付される。その内容は、市町村内の生活圏域を単位として、地域密着型サービス拠点、介護予防拠点等の整備である。施設環境改善交付金は、都道府県が定める施設環境改善計画が、国が定める基本方針に照らして適当なときに交付される。その内容は、特別養護老人ホーム等の整備や既存施設の個室・ユニット化等である。

 四つ目は、2006年度からは、介護保険地域支援事業交付金が新設されることとなった。その概要は、総合的な介護予防システムの確立のため、「地域支援事業(仮称)」を新たに介護保険制度内に創設し、その円滑な実施のために市町村に対して交付金を交付するものである。

■「一般財源化」のトリック

 このように、介護関係の財源は、使途を特定する財源から、一般財源化されることとなった。しかし、この影響は注意深く見守る必要がある。その理由は以下の通りである。

 税源移譲を行うと、経済力のある地域の税収は大きく増えるが、過疎部の地方自治体の税収はそれほど増えず、地域間財政力格差が拡大する。税源移譲は前者にとってはメリットが大きいが、後者にとってはむしろデメリットである。特に、社会保障関係の支出はそうである。税源移譲による税収増が少なく、国庫補助負担金削減による補助金収入の減少が多い自治体は、かなりの数に及ぶと思われる。

 そうなれば、必ずしも国から財源が手当てされない社会保障関係の支出を手抜きする恐れがある。ヒモつき補助金であれば、許されないことであるから、一般財源だとそれが可能になる。つまり、三位一体改革の中に埋め込まれた「一般財源化」というトリックは、一見自治体の自由を増やすかに見えて、実はそうではなく、場合によっては自治体に社会保障の手を抜く自由を増やすことになりかねないのである。

 ただし、こうした事態を地方交付税によって解決すべきではない。確かに、三位一体改革の結果、自治体から財政力格差是正や、財源保障への要求が高まる。既存の制度で対応するなら、この要求には地方交付税を増額することになる。地方交付税を増額すれば、国の財政は悪化し、地方の国への依存体質も今と全く同じになってしまう。それでは、何のために地方分権改革に着手したかわからない結果になる。

■介護保険は財政的自律を

 税源移譲と国庫補助負担金削減のパッケージで起こると予想される自治体の収入減という問題を、地方交付税で解決しないとすれば、どのような解決策があるだろうか。三位一体改革とは無関係に、介護保険が導入されてまだ5年度しか経っていないにもかかわらず、要介護者が多い市町村では給付がかさんで、保険財政が立ち行かなくなりつつある。こうした市町村では、都道府県の財政安定化基金への依存を恒常化しそうな傾向が見られる。しかし、その財政安定化基金も早くも財政的に立ち行かなくなりつつある。

 こうした状況の中で、一般財源である地方交付税で市町村に財源を配分しても問題は解決しない。介護保険以外の使途に用いることは自由なわけだから、介護保険の財政悪化防止のために用いないで、例えば公共事業に充ててしまうかもしれない。そうなれば、介護保険財政にとって、三位一体改革における一般財源化は、改善されることはなく逆に悪化することさえあるといえる。

 介護保険財政のためには、使途が自由な財源をもらっても意味がない。より多くの人とリスクを分かち合うという保険の性質をよりよく発揮するために、むしろ介護保険のために与えられる財源で財政基盤を確固たるものにしてゆかねばならない。つまり、介護保険は、財政的に自立した形で運営されるように導かなければならない。

 財政的自律のためには、まず第1号被保険者(65歳以上の被保険者)の保険料を適正に引き上げることである。現行の介護保険は、保険給付は自ずと第1号被保険者に偏ることになっている。保険の機能をよりよく発揮するには、より保険の恩恵を受ける人から適切に保険料を徴収することから始める必要がある。

 ただ、それだけでは不十分であろう。税を財源とした一般会計からの財政支援も必要である。そうなれば、介護保険のために同じ金額を国から自治体に支出するならば、使途を特定せずに(地方交付税として)出すのではなく、むしろ使途を特定して出したほうが良い。社会保障のように義務的な事業については、特にそうである。自治体の自由度は、使途の決定にではなく、企画の面に与えればよいと思うのだが、いかがであろうか。

 今後も重要性を増す介護保険が、財政的な理由で骨抜きにならないようにするためには、三位一体改革の行方を今後もなおつぶさに見守らなければならない。
 
著書 「三位一体改革ここが問題だ」 (東洋経済新報社刊)
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