65歳以上は2割負担、残る給付費の5割程度を公費で―。これが、健康保険組合連合会(健保連)がまとめた高齢者医療制度改革案(健保連案)の重要ポイント。何が何でも傘下の健康保険組合(健保組合)を守ろうという意気込みは相当なものだが、日ごろ、公言して憚らない「被保険者の代表」は、卒業したOBには実に冷たい。
■健保連案の3本柱
健保連案を整理してみる。柱は3本。(1)一般医療保険(64歳以下)と別建ての65歳以上を給付対象とする高齢者医療制度を創設する(2)高齢者自己負担2割(高額所得者3割)を除く医療費は、5割程度を公費負担とし、残りを高齢者の応分負担と現役の支援で賄う(3)保険者が制度運営に関与し、医療費増加を管理できる仕組みとする。
健保連幹部は「(1)高齢者を75歳で前期と後期に切り分ける根拠が薄く、介護保険制度や公的年金制度と同じく65歳以上とした方が国民の納得を得やすい(2)高齢者を一律に低所得者と決めつけるべきではなく、応分の負担は必要(3)保険者が運営に関与し、医療費が必要以上に増えすぎないよう管理する仕組みの導入が必要」と力説する。
■個人的な意見
浅薄な知識で恐縮だが、(1)については、75歳か、65歳か、判断できない。ただ、生活実感として、サラリーマンからみれば、就労による収入がほぼ途絶える65歳からでもよいようにも思える。詳しい方のご意見をお聞きしたい。
(2)には問題がある。高齢者の全てが低所得者ではないにしろ、多くの高齢者世帯が年収200万円〜300万円でやりくりしているという事実は無視できない。財務省などは高齢者全世帯の所得を平均化し、現役世帯と比較してみせるが、実態とはほど遠い。それでも、どうしても高齢者の負担を重くするなら、保険料と同様、できる限り、所得に応じた負担方法を考えるべきだ。
(3)は「何をいまさら」の感がする。民間の保険会社に言わせれば、レセプトの点検さえ満足にやっていない健保組合が「保険者」を名乗る方が恥ずかしいという。 就業希望者のうち実際に就業できるのは、年度によってバラツキがあるが、8〜9割といったところ。しかし、就業率を100%にするのは不可能に近い。職種によって受け入れ環境が大きく異なるからだ。
それはさておき、仮に健保連案が採用されたとして、都道府県単位に既存の保険者と自治体で組織する公法人「高齢者保険者」(仮称)が、保険料の徴収からレセプト点検、支払いまで、こんなに広範な役割を大過なくこなし、保険者機能を発揮できるものなのか疑わしい。
また、高齢者保険者のほか、厚労省や健保連などが参画する上部組織(?)の「高齢者医療制度運営調整機構」(仮称)が各高齢者保険者間の財政調整などを行うというが、ここに権限が集中する危険性が高く、地域の特殊性に配慮した医療が行えなくなることはないのか―など疑問は尽きない。
■懸念される雇用の二極分化
健保連、健保組合も、組織的な改革が急務ではないか。最近の動向をみると、厚労省寄りの姿勢は相変わらず。懸念されるのは、労働組合の力が落ちたことも影響があるのか、言動が、より経営者寄りになっていることだ。
バブル崩壊前後から医療費抑制の路線が強化され、保険財政の逼迫を理由に、被保険者や患者(特に高齢者の患者)への配慮に欠けるような対応が目立つ。被保険者3割負担や老人保健の定率1割などでは、猛反対したのはむしろ医療提供側の方で、健保連は黙認に近い対応だった。
健保組合や健保連が、老人保健と退職者医療への拠出金の増大で財政的に苦境に立っていることは理解できる。だが、解決方法として負担を高齢者や患者に付け回しする考えには賛同できない。健保連内で相互に財政支援できるシステムの導入や、自前のレセプト点検組織の設立、保険業務に詳しい人材の確保、保養所などの共同利用、財務の明確化などの自助努力を忘れては困る。(それはそれとして、いまだに日本医師会が自前の改革案をまとめられないのは、どういう事情なのか)。
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