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(掲載日 2005.6.7) |
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2006年度予算編成に向け、公務員改革が新たな焦点として浮上している。財政逼迫を背景に、国、地方公務員の総人件費抑制を図るのが大きな狙い。小泉首相の発言を受け、経済財政諮問会議(議長・小泉首相)の民間議員が主導する形で議論が進められており、自民党内でも検討に着手した。民主党の支持基盤を切り崩したいという政治的思惑も絡む点はさておき、給与体系見直しの一環として出ている成果主義導入の動きに絞って私見を述べてみたい。
■典型的な成果主義の仕組み
1990年代に富士通などが先鞭を切って導入した成果主義は、年功序列型の人事・賃金体系に伴う人件費の“自然増”に悩む少なからぬ企業が飛びついた。その後、成果主義の弊害が語られながらも大企業を中心に普及した。しかし、制度が本当の意味で定着しているとは言えない。最近では成果主義をいったん清算し、年功序列型の長所を取り入れた「日本型成果主義」への組み替えを薦める本がビジネス書のベストセラーになり、同種の反成果主義本は新刊コーナーをにぎわせている。一方、成果主義はいま中小企業にも普及し始め、第3次ブームを迎えたとされ、揺り戻しとは逆な現象も現れている。
典型的な成果主義の仕組みは、上司が部下を決められた項目ごとに評価する人事考課制度とセットとなっており、それを賞与や定期昇給などに反映させるものだ。成果をA、B、C、D、Eの5段階で評価する場合、賞与の原資が決まっていれば、Cを基準額とてA、Bをプラス査定し、D、Eをマイナス査定する。AとE、BとDはそれぞれ人数比および査定幅を同じに設定するのが、単純な成果反映型の賞与分配の構図となる。年功序列型であれば手にすることができたDとEの賞与の一部を削ってAとBに回すといった方がわかりやすいかもしれない。
これだけでは人件費の抑制にはつながらない。人事考課制度は通常、昇進や昇格といった人事本体の仕組みとも連動しており、これが人件費抑制のカギになる。一例を挙げれば、考課で2回連続A評価をとらないと、役職とは違うがやはり社内のヒエラルキーである資格が上がらない、といった仕組みだ。ある資格に到達しないと、一定の役職に就けないといったものもある。
■出世はキャリア組だけ
こうなると、ひと握りの幹部候補生は昇格、昇進を繰り返して順調に出世していくが、その他大勢はある段階で社内ステータスも給与も頭打ちになる。昇格とは反対の降格制度を組み込めば、さらにドラスチックな人件費抑制が可能になる。年功序列型ではポストによる賃金の差はあっても、同期であれば一定の収入は保証されていた。成績や成果、業績を賃金に反映させる考え方に大方の人は賛同するが、これほどシビアで経営者にとって使い勝手のよいものはない。
成果主義に基づく賃金を潔く受け入れたとしても、問題はどのような基準、方法で部下を考課(評価)するかに帰着する。この部分が現在、成果主義批判の根源になっている。人間の成果や能力を評価して、それを点数化する合理的かつ客観的な指標や方法が果たしてあるのかどうか。「人間は結局、全人的な評価しかあり得ない」という人にとって、成果主義はそもそも受け入れがたいし、評価項目を細分化しても各項目のトータルがその人の仕事ぶりを本当に反映したものになっているかどうかは定かでない。さらに、人が人を評価する際に避けられない、「好き嫌い」による評価のゆがみを修正する方法は、残念ながら見当たらない。
これ以上、考課制度の詳述は差し控えるが、これが公務員になじむとはとても思えない。むしろ、役所の組織運営や公務員の体質から見て、もっとも縁遠い仕組みなのではないだろうか。中央官庁を見れば、出世するのはキャリア組だけ。しかも年功序列が徹底している。ノンキャリア組は一定程度、昇進の道は開かれているが、大方は定年まで下積み生活を強いられる。ここも年功序列、しかもキャリア組に虐げられた者同士という意味で結束力は固い。かつて自民党田中派を象徴する言葉として使われた「一致結束箱弁当」の世界といってもいい。そこにいまの公務員組織を徹底的に破壊する意図があるならともかく、競争原理をどう持ち込もうというのだろうか。
■何のための改革か
人事院は5月25日、8月の人事院勧告に盛り込む給与構造改革案を公表した。基本給の引き下げや地域手当の新設による官民格差の是正、年功序列型給与体系から勤務実績重視型体系への変更をうたってはいるものの、基本給を引き下げても地域手当の新設によって給与総額に大きな変化はないという。これでは、何のための改革か。勤務実績型体系がどのようなものになるのかははっきりしないが、推して知るべしだろう。
経済財政諮問会議のこれからの反撃が見ものだが、民間議員諸氏が具体的な手法を示せるとは思えない。結局、人事院ペースでわけのわからない形で決着する公算が大きい。改革のための改革に時間を費やすような茶番劇は、もう見たくない。
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