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「ベンチャー病院」第1号? 浜風
(掲載日 2005.6.14)
 神奈川県と東京のバイオ関連ベンチャー企業が、小泉首相の掲げる「病院特区病院」(株式会社病院)の第1号になるべく、美容外科医療専門の診療所開設に名乗りを上げた。内閣府は、厚生労働省の判断を待って今夏にも結論を出す構えだが、安全性や医療制度への影響など問題が少なくない。事実上の決定権を握る厚生労働省の出方が注目されている。

■目的は地域経済の活性化

 神奈川県商工労働部の説明によると、この企業は、株式会社バイオマスター(桑名隆滋代表取締役、社員13人、資本金約1億7000万円)。2002年12月に設立。帝国ホテルタワービル(東京都千代田区)の一室にオフィスを構える。主に再生医療にかかわる細胞治療技術の開発を行う典型的なベンチャー企業だ。

 某大学や大手バイオ関連企業との関係が深く、横浜市内に開設予定の診療所で実際に医療を行うのは、この某大学の医師になるという。株主には、医療の民営化と民間医療保険の領域拡大を主張するオリックスの金融投資会社が含まれており、地方自治体を巻き込んだ産学協同による医療の規制緩和を狙っている、との指摘がある。

 一方、神奈川県は、美容外科医療診療所の誘致について「県内には製薬会社やバイオ関連企業が多く進出しており、高度医療を行う医療機関を誘致により、さらに医療・バイオの先進地としての位置付けが高まり、地域経済の活性化につながる」と説明している。

 要は、京浜工業地帯の停滞で落ち込んでいる地域経済の活性化を「美容外科医療に託し、少しでもカバーしたい」というのが本音なのだ。そこには、患者のニーズや医療の安全性などは後回し、地域経済の復活という経済論理が優先されていることがよくわかる。

 そもそも「病院特区」そのものが、経済的、政治的な発想から生まれたと言ってよい。経済団体や経済産業省などは、国民皆保険制度の一角を崩し、市場原理に立つ株式会社による医療機関経営を持ち込むことが長年の願いであり、小泉首相が医療関係団体などの反対を押し切る格好で制度化したものだ。

■患者より経営と行政の思惑が先行

 その時、厚労省が受け入れた時の条件が「肺がん及び先天性免疫不全症候群の患者への遺伝子治療」など6つの高度医療に限定すること。その1つが美容外科医療であり、無論、自由診療扱いだ。本来、医療は「患者本位」に行われるべきだが、「病院特区」誕生や今回の申請の経緯をみると、患者より、経営と行政機関の思惑が先行している感は否めない。

 今回の申請が認定されるかどうか、現時点ではわからないが、これまでの経緯から、再び、官邸のごり押しがある可能性も否定できない。医療制度改革を直近に控え、厚生労働省の判断(技術と安全性の審査)が鈍らないことを祈るばかりだ。
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