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「国民負担率は分母の議論を 〜ゼロ成長の弊害とデフレ解消策〜」 長谷川 公敏
(掲載日 2005.7.5)
 日本経済は短期的には「踊り場」にあるといわれている。ちなみに最近のGDP (国内総生産)成長率を見ると、経済実体(注※)を表わしている名目成長率は、2004年度がプラス0.8%で、2003年度もプラス0.8%だった。また、実体から嵩上げされた数字である実質成長率は2004年度がプラス1.9%で、2003年度はプラス2.0%だった。このように昨年春以降も比較的堅調な経済成長が続いていることが、「踊り場」といわれている所以だ。しかし「2004年度(2004年4月〜2005年3月)の年度内成長率はマイナス」だった。

■「年度内成長率」はマイナス0.4%

 年度内成長率とは何を指すのであろうか。GDPの数値は年換算したものが四半期毎に公表される。それらをすべて合計して4で割ったものが1年間の平均GDPだ。この平均値とその1年間の最後の四半期のGDP値の差を「GDPのゲタ」と呼ぶ。このゲタが当該年度の平均値を上回る(あるいは、下回る)場合、翌年度のGDPがゼロ成長であっても経済成長率は、前年度を上回る(下回る)ことになる。第四半期の成長率を発射台にすることで、ゲタによるプラス(マイナス)の影響を除いた翌年度の成長率を「年度内成長率」という。

 昨年度の名目GDP成長率はプラス0.8%だったが、前年度からの「ゲタ」がプラス1.2%あったので、「年度内成長率」はマイナス0.4(0.8−1.2)%だ。マイナス0.4%の経済成長を「踊り場」といえるだろうか。実体から嵩上げされた数字である実質成長率で見ても「ゲタ」がプラス2.0%だったので、「年度内成長率」はマイナス0.1%だ。このようなマイナス成長の経済は「停滞・低迷・悪化」という表現が適切だろう。

 世界経済は昨年春から減速傾向にあり、加えてそれまで世界経済を引っ張ってきた米国、中国が利上げなどの景気抑制策をとっているので、このところ減速傾向がより明確になってきている。基本はゼロ成長で輸出に大きく依存する日本経済は、海外景気が景気抑制策をとらなければならないほどに過熱すればプラス成長だが、海外が減速すればマイナス成長になってしまう。

 大多数の人々はこのような日本経済の状況に懸念を抱いていない。それは日本経済が正常な軌道から外れて既に10数年経過し、ゼロ成長が常態化しているためだ。また、エコノミストなど経済の専門家の多くが、経済はゼロ成長、株価は右肩下がりという経験しかしていないからだ。

 だが、ゼロ成長は社会に様々な問題を引き起こす。具体的には以前述べた外資による日本の資産買収もあるが、若年層の失業問題、そして何よりも社会保障不安の問題だ。現行の社会保障制度は経済が成長することを前提にしており、ゼロ成長下では持続不可能である。

■資産価格の回復が停滞脱出のカギ

 社会保障制度を維持し将来不安を解消するためには、国民負担率(税・社会保険料/国民所得)の上昇に歯止めをかけなければならない。ただし、将来の国民負担率上昇を抑制するには、分子(国民負担=給付)を抑制する方法と、分母(国民所得=経済規模)を拡大する方法がある。前者の方法は将来不安や痛み、そして経済のスパイラル的な縮小を招くが、後者ではこれらの問題が全く生じないばかりか、政府が目標としている小さな政府や財政再建さえも実現できる。

 日本経済が世界から取り残され、長期にわたり停滞している最大の原因は、資産価格の大幅な下落だ。何らかの方法で資産価格を元の水準に近づける事が出来れば、この停滞から脱出できるのではないか。

 土地、株式などの資産のなかで、日々価格が表示され意識され易いのが株価だ。実は、僅か14兆円の外国人投資家の買いで、2003年4月から1年間で株式時価総額は120兆円以上も増えた。また日本銀行による2兆円の株式買い上げも大成功だった。そして現在、日本の株式市場は唯一の買いの主体である外国人投資家に左右され、株価上昇は外国人投資家だけが頼りだ。これらの事は、例えば政府などの大きな買いの主体が現れれば、株価が極めて効率良く上昇する事を示唆しているのではないだろうか。
 (注※) 昨年度(2004年4月〜2005年3月)のGDP(国内総生産)は、名目505兆、実質534兆円だった。名目と実質の違いは、例えば、1年前は50万円だった大型の液晶テレビが40万円に値下がりしたので買うとすると、実際に支払う40万円を名目価格、1年前の50万円を実質価格という。逆に1年前には100円/リットルだったレギュラーガソリンが120円/リットルに値上がりしている場合、給油の時に実際に支払う120円を名目価格、1年前の100円を実質価格という。

 このように、言葉の響きとは反対に、普段売り買いする実際の価格を名目価格、値上がり・値下がり分を調整した計算上の価格を実質価格という。実質価格という考え方は、もともとはインフレで水脹れした経済の水抜きをして適正に判断するための手段で、昨今の日本のようにデフレ下の経済規模を嵩上げするためのものではない。
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