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「株価の『構造改革』への評価は?」 長谷川 公敏
(掲載日 2005.8.23)
 前回まで、資産価格の回復、とりわけ株価の上昇が日本の経済、財政、金融などの問題を解決すると述べてきた。そこで今回は、日本の株価水準を考えてみよう。

 日本の代表的な株価指標としては、日経平均株価と東証株価指数(TOPIX)がある。日経平均株価は東京証券取引所第一部(以下、東証第一部)上場1655銘柄のうち、225銘柄の単純平均株価なので、必ずしも株式市場全体の動向を表しているわけではない。しかし以前は「ダウ平均」と呼ばれ一般に馴染みがあり、戦後証券取引所再開時から公表されているので、歴史があり連続性もある。

■日経平均株価の「不連続」

 一方、TOPIXは1968年を基準にして、東証第一部上場全銘柄の時価総額を指数化したもので、株式市場全体を表しているものの、東証第一部への上場企業が増えれば時価総額も増えてしまい、連続性にやや難がある。指数の連続性維持のための調整はされているが、昨今のように新規上場企業数が急増すると歪みが大きくなる。

  従って株価指標と言えば、馴染み、連続性から日経平均株価が一般的だ。これは、米国株価が、僅か30銘柄で構成される「ダウ工業株30種平均株価(通称ニューヨークダウ)」で代表されるのと同じだ。

 日経平均株価はこのところ11,000〜12,000円程度で推移している。これはバブル崩壊後の安値である2003年4月の7,600円からは4,000円程度高い水準だが、1989年12月の38,900円に比べると3分の1にも満たない。ただし、この数字は検証が必要だ。

 実は、歴史、連続性が売り物の日経平均株価が2000年4月を境に不連続になっているのだ。当時、時代に合わないという理由で、日経平均株価は225銘柄のうち13%強に相当する30銘柄の入れ替えを行った。だが時価ベースでは40%にも相当したため、結果としては大幅な銘柄入れ替えになってしまった。

 では仮に銘柄入れ替えが行われなかったとしたら、その場合の日経平均株価(以下、旧日経平均株価)はいくらなのだろうか。残念だが著作権の問題から旧日経平均株価は算出されていない。

 あまり知られていないが、大証250種修正平均株価(以下、大証250種)という株価指数がある。大証250種は旧日経平均株価と算出方法、採用銘柄がほほ同じで、上場廃止を除いては銘柄入れ替えを行わないまま今日に至っている。しかも大証250種は日経平均株価が銘柄入れ替えをするまでは、日経平均株価とほぼ同じ動きになっていた。

 大証250種の歴史的な高値は39,400円で、日経平均株価よりも500円ほど高いだけだったが、最近は22,000〜23,000円程度で、日経平均株価より10,000円以上高い。従って、最近の旧日経平均株価は20,000円程度、つまり歴史的な高値の2分の1程度と考えてよいだろう。

 株価の裏づけである経済実態、企業業績は既に過去最高を更新している。日本経済はこの15年間、名目成長率がほぼゼロだったが、それでも株価が高値をつけた1989年当時よりも名目GDPの規模は15%ほど拡大している。また企業業績は前期、今期と2期連続で史上最高益を更新する見込みだ。なぜ旧日経平均株価でもピークの2分の1未満なのだろうか。

■政権発足時を下回る株価

 ひとつは株価が高値をつけた時期と現在では将来に対する期待に差があることだ。1980年代末頃は日本経済に対する期待が大きかったが、依然デフレが継続している現在は日本経済の期待成長率は逆バブルと言えるほど低い。株価は過去や現在の動向ではなく将来見通しに左右されるので、最近は投資家が株を買い進めにくい状況にある。

 もうひとつは企業間の株式持合いがかなり解消したことだ。株式持合いの解消とは企業の発行株式数が実質的に増えることなので、見かけの1株当り利益が同じでも実質的な1株当り利益は持合い解消分だけ薄まってしまう。

 日本企業の株式持合いは概ね50%から25%程度に低下したと推定されるので、企業の発行株式数は実質的に50%程度増えたことになる。従って株価がピークをつけた1989年末を基準にすると、最近の1株当り利益は見掛けの数字の3分の2程度に割り引いて考えなければならない。

 こう考えると、現在の旧日経平均株価20,000円、日経平均株価11,000〜12,000円はやむをえない水準だと言えるだろう。だが、世界に例を見ない長期にわたるデフレ・ゼロ成長経済の原因は資産価格の下落にある。

 現在の株価水準を是とせず日本経済を正常な姿に戻すためには、企業が持合い解消で得た資金で自社株を買うことで実質的な1株当り利益を元に戻し、政府部門が株式を買い、株価上昇を通じて実体経済を押し上げることが必要だ。

 蛇足だが、解散した小泉内閣は「構造改革」を掲げ日本経済再生に成功しつつあると見られているが、世界中の投資家の総意を表す株価は、残念ながら2001年4月の小泉政権発足時の13,900円(銘柄入れ替え後なので、現在の日経平均株価と比較可)を下回ったままだ。

 政権発足当時よりも企業利益は50%以上も増えているので、株価から見る限り、政権発足後の小泉内閣への評価・期待は、本当はかなり低かったということになる。株価とマスコミ評価のどちらが正しいのだろうか。
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