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「族政治の先に目指すもの」 浜田 秀夫
(掲載日 2005.8.30)
 今度の総選挙は、橋本龍太郎氏の引退、綿貫民輔氏の離党・新党結成という展開となった。これで旧田中派の系譜はリーダーを失った。小泉首相にすれば角福戦争からの宿願をだいたい果たしたということなのだろう。この田中派潰しのプロセスは、医療、道路、郵政という構造改革路線の中で仕上げられた。いずれも同派の牙城だった分野である。別の角度から見れば族議員政治の終わりにも思える。では代わりの政策決定プロセスはどうあるべきであろうか。

 小泉首相による構造改革の第一弾は、医療だった。「三方一両損」の診療報酬引き下げである。このときマスコミはこぞって賛成した。筆者も賛成だった。このままなら向こう数年しか財政がもたないという仮定のもとで、体力のあるいまのうちに手術しようという考えに立った。

 旧来の政府・自民党による政策決定ならば、厚生労働省が案を示し、それを医師会が政治の土俵に持ち込み、族議員と話をつける政治決着である。医師会の大々的なロビー活動で言えば、国会議員に説明する会場に議員の黒塗りの車が続々乗り付けられたと新聞に書かれ、医師会幹部がぼやいていたのを思い出す。

■道路族支配に終止符

 しかし、診療報酬引き下げの場合、族議員が決定的な役割を果たしたようには思えない。失礼ながら族議員が小粒で、各派閥に分かれて存在し、だれが「へそ」なのか不明だった。これまで橋本氏が「ドン」であり、その意向は重みがあった。しかし、橋本氏が積極的に動いて裁定したわけではない。話は通したとしても追認のようなものだったように記憶する。

 結局、首相や党三役ら正式機関が主導して決着した。いまから思えば、もはや「小さな政府」の路線で押し切るということで、族議員は抵抗できなかったわけだ。「金なら、ない」ということだ。日本医師会も受け入れざるをえなかった。いろいろあるけれど、結局、小泉首相に対する国民の支持が高かったということだ。すでに小泉首相の「時代」に入っていたのだろう。

 道路は、道路公団総裁の解任が第一のハイライトだったと思う。小泉首相の意を受けた石原国土交通相が政治家として断固たる姿勢を見せたと筆者は思っている。官僚支配を崩すことにつながる。このとき、いわゆる道路族議員は何もできなかった。というより近寄りもしなかったというのが正しいと思う。

 道路は、竹下元首相が「政治イズ道路、道路イズ政治」と述べたとされ、金丸信氏らが押さえていたまさに牙城だった。本来なら、小泉首相らよそ者には手を触れさせなかったものである。しかし、首相が登場したときは、すでに自民党自体の不透明な古い体質が批判を浴び、族議員の動く余地が狭かったように思う。

 首相のしたことは、族議員が動けない状況で、道路公団総裁解任のように、とどめを刺して見せることなのだろうと思う。そして、今回、副総裁らが地検に逮捕・起訴された。直接首相がやったことではないものの、大きな目で見れば、道路族支配に終止符を打つという仕上げであろう。

■「密室」から「公開」へ

 そして郵政である。これだけは族議員が直接抵抗した。結果はご存じの通りである。これも考えると、すでに野中広務氏という郵政族の実力者がすでに引退しており、郵政族の力が弱っていた。その野中氏は青木参院議員会長との主導権争いをしていた。それは橋本派内が揺らいでいたことも意味する。

 こうして族政治の主要なものは弱体化あるいは排除されたように見える。ではこの先はどうあるべきか。まず小泉首相が選挙で勝利する場合である。残った首相の出身母体の森派が族政治を牛耳るのでは世論が厳しいだろう。何より、小さな政府である以上、族の余地が少ないのは前述の通りである。

 経済財政諮問会議がより強力になるかもしれない。しかし、それでは民意を反映しない。やはり政党が関与する必要がある。簡単に言えば、族政治の対極に向かうべきなのだろう。キーワードは事前調整から事後調整、密室から公開への流れは変えられない。

 与党の部会による事前調整でなく国会での表に見える審議が重視されるべきだろう。たとえば郵政民営化審議で反対派が郵政関係者の公務員身分を守るというホンネを言えばかなり審議が盛り上がったはずだ。今回、自民、民主とも支持団体を抱え、表面上の議論にとどまった。本当の与野党対決法案ならやりようがあるのではないか。

 このことは民主党政権でも同じである。こうしたとき、業界団体も政治との関わり合いは見直しが求められる。郵政民営化反対での与野党それぞれの支持団体は、要求や運動で先のようなホンネを隠し、不透明だった。広く国民の理解と支持を得るには至らない。ほかの業種も、今回の小泉政局から学ぶものが多いはずだ。
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