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「それで小泉政治に勝てるか?――医療提供者へのメッセージ」 浜風
(掲載日 2005.10.11)
 小泉政権の医療施策の骨格が見えてきた。柱は「総枠管理」と「診療報酬マイナス改定」の2つ。官邸筋は「2つが実現すれば、当面、抜本改革を急ぐ必要はない」とほくそ笑む。迎合するマスコミ論調も出てきたが、本当に、これで良いのか。

 厚生労働省は、10月中旬にも、医療制度改革案(厚労省案)を公表する。大筋は(1)75歳以上の独立保険を創設(2)都道府県単位とする保険者再編(3)包括払いの推進―など。ただ、(1)の高齢者医療保険については、保険者が出し合う「支援金」(仮称)の負担方法が、どこまで踏み込んだ内容となるのか、保険者間の思惑も絡み、まだ読めない。

 ところで、ここにきて官邸や政府内(財務省や経済産業省など)では、医療給付費の伸び率を経済成長率の伸びの枠内に抑える総枠管理制度の2006年度導入を求める声が強まる一方、厚労省案への関心が薄らいでいる。財務官僚からすれば、「総枠管理があれば、厚労省案など、どうでもいい」というのが実感なのだ。何しろ、年金に続き、医療給付の裁量権を厚労省から奪取できる。総枠を抑え込めれば、後は、医療提供者と保険者とで、与えたパイをめぐる「配分争い」をさせておけば良いからだ。
 
■今度も利を得るのは企業と保険者

 先の「骨太の方針2005」では、財務省や経済財政諮問会議は、もう一歩のところで涙を飲んだ。医療費の伸びを管理するため、実質的な成果を目指す、何らかの「政策目標」を設定することまで盛り込めたものの、具体的な数値目標の設定が先送りされたからだ。

 諮問会議では、民間議員が先に提言しているように、GDPの伸び率に高齢化という人口要件を加味した数値を上限とし、それを超えた給付費については医療機関にツケ回しするか、保険者や患者に転嫁させる考えだ。つまり、社会保障給付費の企業や国家財政への負担を軽くするため、患者(国民)と医療機関に泣いてもらう制度を導入しようというのだ。

 2002年度の制度改正では、被用者保険本人の3割負担が問題化した。その時、小泉首相は、理にかなわぬ「三方一両損論」を持ち出し、3割負担と診療報酬マイナス改定を強行した。この時、1番に利を得たのは企業と保険者だったが、思惑通りならば、今回も、勝利者は同じ顔ぶれになるはずだ。

 一方、厚労省や日本医師会(日医)などが主張している「医療費抑制は国民皆保険制度を崩壊させる」という、定食屋の看板のような反論は、小泉政権には通じないだろう。国民の間には、厚生官僚や社会保険庁職員による厚生行政、そして日医に対する根深い不信感があり、そうした国民感情の利用方法を小泉首相は熟知しているからだ。

■データも示さぬ日医

 日医執行部の中には「厚労族(社労族)議員への働き掛けと医療関係団体の共闘で総額管理を阻止する」と息巻く役員がいるが、事はそう甘くない。族議員の解体(事業関係団体の自然消滅)こそが小泉政治の狙いであり、道路、郵政に続くターゲットが農林と厚労の族議員なのだ。衆院選圧勝で族議員の無力ぶりを実感した小泉首相の心境を日医執行部はまったく理解していない。

 総枠管理の問題点は、専門家の的確な指摘に任せるとして、いま、医療を提供する者としての役割は(1)国民皆保険制度を続ける意義(2)医療費の伸びを抑えることの意味の2つを、患者の視点に立って、国民に向けて語り、率直に意見を聞くことだ。

 現在の日医は元気がない。制度改革や診療報酬改定をめぐる社会保障審議会の論議では、自前のデータさえ示さず、厚労省や支払い側に注文をつけている程度。しっかりした資料と論理で立ち向かい、不器用でもいいから、そのプロセスを国民にしっかり伝える努力をすべきだ。日本看護協会や日本薬剤師会など関係団体との関係強化も大事だろうが、利益共有団体の集まりには、自ずから限界があることを知るべきだ。いくらマスコミに迎合したり、対決しても、最終的に国民に支持されない限り、日医にも明日はないことを肝に銘じるべきだ。
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