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「日本の株価水準 〜実質的なPERではかなり割安だが…〜」 長谷川 公敏
(掲載日 2005.11.01)
 海外株価が軟調ななかで、日本の株価が堅調に推移している。しかし今後の行方については楽観できないという見方が大勢だ。楽観できない理由は大きく分けて2つある。ひとつは所謂ファンダメンタルズ(経済などの基礎的条件)で、もうひとつは株価水準だ。

 ファンダメンタルズのうち世界全体の経済については、減速しており、今後も予断を許さないことで見方は一致している。世界景気は昨年春以降循環的な下降局面にあることに加え、原油価格上昇、米国の金融引締め継続により、今後も回復が見込みにくいからだ。

 一方、日本経済は減速する世界経済の影響を重視するか否かで先行きの見方が分かれている。つまり、外需に支えられている日本経済が今後も外需動向に左右されるのか、それとも今後は内需主導の経済に移行できるのかということが、まだ見極められないのだ。

■日本市場のPERは割高?

 株価水準を見てみよう。最近株式市場で問題にされているのはPER(Price Earnings Ratio:ピー・イー・アール)という投資尺度だ。株価を一株当り利益で割ったものが個々の銘柄のPERで、上場各銘柄のPERを集計したものが市場全体のPER。一般的にはその数値が大きければ株価が割高、小さければ割安だとされている。

 各国の株式市場のPERは、グローバル化が進んでいることから収斂する傾向にあるのだが、米国株式市場の予想PERが概ね16〜18倍で推移しているのに対し、日本では20倍を超えており割高だ。またPERは企業や国に対する将来への期待度を表すものなので、米国に比べて期待名目成長率がかなり低い日本のPERの方が米国よりも高いのは不自然だ。

 では、本当に日本市場のPERは米国よりも高く株価は割高なのだろうか。

 企業の会計上の利益は、減価償却基準や費用の計上方法などの企業会計基準が国により異なるので、単純に日米比較が出来ない。従って、それを基にして計算されたPERも単純に日米比較ができない。だが、全ての企業の決算報告書をどちらかの基準に合わせて修正するのは不可能だ。そこで便宜的に、会計基準の違いに左右されない企業のキャッシュフローをベースに日米の株価水準を比較することにする。

 MSCI(モルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナル)によると、株価を一株当りキャッシュフローで割ったPCFR(Price Cash Flow Ratio:ピー・シー・エフ・アール)は、米国市場が12倍台で日本市場は8倍台だ。先に見たように、会計上の利益を基準にしたPERでは日本市場が割高だが、キャッシュフローを基準にすると米国市場の方が5割近く割高だということになる。

 企業収益の実態はキャッシュフローに表れるので、PCFRを基にして実質的なPERを計算してみると、米国基準では日本の実質的な予想PERは12倍程度になる。更に、日本の場合は「株式持合い」がまだ25%程度あると見られ、この分は実質的に株式が発行されていない(発行株数が少ない)ことになるので、実質的な日本の一株当り利益は見掛けの1.3倍程度になる。

■未だ需給ギャップを抱える日本経済

 これらのことから、米国を基準にして株式持合いを加味した日本の実質的な予想PERを計算すると10倍程度になり、見かけの20倍台のほぼ2分の1になる。

 こうした計算はいずれも推計であり、数字は必ずしも正確ではないが、少なくても「PERで見る限り、日本の株価水準は米国に比べて割高ではなく、むしろまだかなり割安だ」といえるだろう。

 なぜこんなに割安なのか。繰り返しになるがPERが低いのは「日本経済の将来に対する期待度がかなり低い」からで、総合的に見たファンダメンタルズが良くないからだ。バブル崩壊後15年間ほぼゼロ成長の国に対して期待度が低いのは当然だろう。

 ここ数年の旺盛な外需に引っ張られて、日本経済は既に最悪期を脱している。しかし未だ需給ギャップを抱えている日本経済が、ここ数年のうちに内需主導で名目成長率5%台、実質成長率3%台という普通の国に戻れる可能性は極めて低い。従って、実質的なPERだけから見た株価水準は低いものの、今後の株価動向を楽観できないという市場の見方は妥当だといえるだろう。

  とはいうものの、何らかの理由で株価が上昇すれば、1980年代後半のように資産効果が働いて普通の国に戻れる可能性が無くは無いのだが…。
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