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「医療の良書選び」 浜田 秀夫
(掲載日 2006.01.10)
 公明党の赤松正雄厚生労働副大臣が、就任直後、周辺の何人かに「この役所に関するガイダンスになる本を教えて欲しい」と頼んだと、自分のホームページで書いている。すると3冊の本を薦められたとか。これを見て、なるほどそういう手があったかと思った。社会保障、とりわけ医療(制度)についての本はたくさん出ている。問題は、いい本をどう選ぶかだ。ならば関心を持つ者同士が互いに推薦し合う。書評を分担し合うのもいいのではないか。今回は、そんな提案である。

 赤松氏の件は、同氏のサイト内にある「続・新幹線車中読書録」というコーナーでの2005年11月21日付記事(少々古い話の引用で申し訳ない)である。この記事のタイトルは「厚労省対医師会―根強い対立の狭間に立って」である。大胆な表題に見えるけれど、記事がそのまま掲載されているのだから特段の波風も立っていないのだろう。赤松氏の率直さとともに、小泉改革における医師会の政治力の現状がうかがえるようである。

  医師会の政治力はともかく、本題は読書である。それは赤松氏という人物に関わる。赤松氏といえば、公明党の外交・安全保障専門家である。05年5月、額賀防衛庁長官、前原民主党代表(いずれも肩書は現在)とともに訪米し、米国政府関係者と意見交換してきた。安保を通じこういう人とのパイプがある。その議員が厚生労働副大臣に起用され、詳しくない分野に戸惑ったようで、「勉強」するため上記引用のように「本」を探したのである。

■どんな本を選ぶか

  このアプローチがいかにも赤松氏らしいのである。記事のコーナーの題でわかるように、赤松氏は東京と地元を往復する車中で読書をし、その書評をホームページで掲載している。書評をまとめて本も出していて、政界では読書家でも知られる。筆者は経緯があって、この事情を少々知っている。ただ、誤解なきよう願う。筆者は創価学会・公明党グループに属す者ではさらさらない。念のため。

 党派のことはさておいて、言えるのは赤松氏の読書は、今日の安保専門家の評価を得るのに大いに役立っていることだ。継続して本を読み、書評を書くことで内容把握を確かにし、記憶に刻み込む。それが血肉化している。大層ほめたけれど、継続ぶりを見るとそう認めるべきである。

  一般論で言っても政治家が読書するのは必ずしも悪くない。実務、現場に生きているのだから生の政治をわかるのは当たり前である。しかし、それに加え、読書によって様々な問題の理念や思想を吸収することで政策に膨らみや深さが増すのではないか。これは医療で言えば医師にも当てはまるだろう(さらにはこのテーマに関連する官僚やジャーナリストにも)。

  問題は、どんな本を選ぶか、だ。例に挙げた赤松氏は、水野肇氏の『誰も書かなかった厚生省』『誰も書かなかった日本医師会』(いずれも草思社)、それと、あの坪井栄孝『我が医療革命論』(東洋経済新報社)の3冊を薦められ、読んだそうである。読書で理念を、と上述した。それに合うかどうか。うーん。考え込む。これらの本の評価は、ここでは言うまい。

  ただ、おもしろいのは、赤松氏の記事によると、この3冊は厚生労働省の人間が推薦したということだ。それで赤松氏は、同省のことを指すのだろう、ホームページで「なかなかその懐は深いといえよう」と書いている。関連して思いだしたのは、赤松氏が読書家であることが知られるにつれ、各界の人々が同氏に「これこれの本はいいよ」と薦めるようになったことだ(たとえば加藤駐米大使との本の意見交換の話がホームページに載っている)。

  官僚による情報操作だと反発する人がいるだろうか。会員にそんなナイーブな人はいないだろう。もし官僚に本を薦められたら、逆にその意図を探るぐらいでないと。筆者がこれで改めて思うのは、自分が知らなければ他人に尋ねると、その人にとって新発見があるということだ(筆者こそナイーブか。苦笑)。本で言えば、書店には一人の人間では一生かかっても読み切れないほどの本が積まれている。その中からいい本を読むために書評があるわけだ。

■「書評コーナー」開設の提案

  たとえば先日、東京・新宿の大きな書店を見たら、医療関係だけでもずいぶん多くの本があった(最近、勉強不足であるのを白状している)。医学、看護関係は試験もあるので膨大であるのはわかる。しかし、医療制度関連でもなかなかの数である。では、どれがいいのか。数の多さに立ちつくしてしまう。

 そこで、会員、事務局への提案である。何らかの形で、医療、社会保障制度関係の本について、このサイトで推薦し合う仕組みを作ることはできないものか。オピニオンやコラムで本の紹介をした例もある。筆者も雑誌の論文を引用したことがある。それもいいけれど、会員による書評コーナーをつくる、オピニオンにもっと書評を入れるなどの手もあるのではないか。

 ただし、その場合、構えてガチガチに書くようなものや、あれこれバランスを取るような書評でなく、その本の焦点は何かに絞っていいように思う。たくさん書いてあっても突き詰めると結論は一言で言えるはずだからである。インターネットの特性を生かし、掲示板の感覚で「この本のここがいい」と簡単に紹介するだけでもいい。忙しい人が多いことを考えると手軽で、しかし、重要な情報になると思う。

 なんだかずぼらな提案であり、しかし、同時にコラム担当者として実は仕事を増やすような気もする(自分に回ってくる可能性がある)。だから、そこまで言うならまず自分で推薦しろと言われそうなので、最後に簡単に。筆者なら、たとえば医療制度の歴史と本質を考える場合、次の2冊である。

 『実録・日本医師会』(1983年、武見太郎、聞き手・有岡二郎。朝日出版社=朝日新聞とは無関係)、『戦後医療の五十年 医療保険制度の舞台裏』(1997年、有岡二郎、日本医事新報社=正確には「医」は旧字の方)

  前者も事実上、有岡二郎(故人。元朝日新聞編集委員兼論説委員)の著書といっていいくらいである。有岡は筆者のいわば師匠であった。しかし、そうした関係を割り引いても、両方とも医療(制度)とは政治であるということがよくわかる本である。

 しかし、いかんせん、もはや両方とも「古典」の世界に入った。今を映す本も必要である。どなたか、これがお薦めというのはないだろうか。
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