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「『増配』『株式分割』は株主優遇策か」 長谷川 公敏
(掲載日 2006.03.14)
 ライブドア事件で、株価の変動要因は経済全体の動向や業績などのファンダメンタルズだけではなく、株式需給や株主優遇策も大きな要因になっていることが話題になった。今回は、こうした株価変動要因のうち、一般投資家が誤解しやすい株主優遇策について考えてみたい。

 株主優遇策には、会社が株主に対して自社商品やサービスを無償提供する、それらの割引券を提供するというのもあるが、一般的には「増配」、「株式分割(無償増資)」などを株主優遇策といっている。このような会社の株主への対応は、本当に株主優遇策なのだろうか。

■変わらぬ株式の価値

 この議論をする前に、上場している会社の経済的な価値についての認識が必要だが、それは時価総額で表されるということに異論はないだろう。ライブドア事件以来こうした見方については、やや批判的な風潮があるが、この定義が誤りだというわけではない。

 なお会社の価値が時価総額(=株価×発行株式数)だということは、株主は株式を保有している会社の持ち株比率に応じて会社の価値を所有しているということでもある。

 まず「増配」が株主優遇策になるかどうかについて考えてみよう。

 配当は当該会社の利益や準備金などから株主に対して支払われるものだ。また、これらの配当原資は配当として支払われるまでは会社の財産であり、配当として株主に支払われた途端に株主のものになる。

 ところで、会社の価値(=時価総額)は配当が支払われる前までは、配当原資を含んだものであり、配当が支払われた後は、配当原資分だけ会社の価値(=時価総額)は下がることになる。しかし、会社から株主へ支払われた配当は株主の手元にあるわけで、配当込みで考えると、結局、配当実施前後で株主が所有する株式の価値は変わらない。

 「増配」の場合も配当の金額が増えるだけであり、株主が所有する株式の価値は変わらない。現に配当権利落ち後の株価は、他の要因がなければ配当分だけ下落する。従って「増配」は、株主優遇策にはならないということになる。

 「株式分割」はどうだろうか。「増配」の話と同様、「株式分割」の場合も、分割の前後で会社の価値には変化がないので、株主が所有している会社の価値は変わらない。仮に「株式分割」で株数が2倍に増えても、一株あたりの価値が2分の1になるからだ。

 こうしてみると、「増配」や「株式分割」は株主優遇策にはならないことがわかるだろう。ライブドア事件では「株式分割」による株価変動の問題が表面化したが、昨年堀江氏が外国人記者クラブで話したように「勉強しないと、ずる賢い人に騙される」。投資家はしっかり勉強する必要があるだろう。

 蛇足だが、株主への商品やサービスの無償提供・割引券提供も、本来であれば当該会社の売上や利益に計上されるはずのものだ。その分だけ会社の価値が減殺されることを考えると、こうした株主優遇策も実は株主優遇策ではないことがわかる。実際にはあり得ないことだが、自動車会社の株主になると、その会社の好きな自動車をただでもらえる場合を想定すれば、納得できるはずだ。

■「増配」は買いか?

 ところで、株主優遇策という視点ではないが、昔から「増配は買い」という現実がある。これはいわゆる情報の非対称性によるもので、株主が常に会社の状況を100%知り得るわけではないことが背景にある。

 会社側から見た配当という行為は、利益や内部留保の一部を社外に流出させることに他ならない。従って、経営者が米国流に「会社は株主のもの」だと思っていても、会社の財産が減る配当行為にはためらいが生じるのが自然だ。

 また一方で、配当・増配をしてもしなくても株主が所有する株式の価値が変わらないとすると、会社としては配当・増配をしなくても良いのではないかと考えたくなるはずだ。

 それにもかかわらず会社が増配を決めるとすれば、株主が思っている以上に、会社は今後の業績に自信があるということだ。従って、「増配は買い」ということになる。

 なお、以前は無償増資といっていた株式分割の場合も、株式分割が実質的な増配になるのであれば、「株式分割は買い」ということになる。

 ただし、気をつけなければいけないのは、会社が配当性向(配当÷利益)を公約している場合だ。この場合は過去の業績に応じて自動的に配当が決められるので、必ずしも「増配は買い」にはならない。
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