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「民主党に明日はあるか」 関田 伸雄
(掲載日 2006.03.28)
 にせの「送金指示メール」がもたらした後遺症から、依然として立ち直れない民主党。前原誠司代表の精神的な混乱はいまだに続いており、問題の処理に関する発言は二転三転している。「黄門」を自称する渡部恒三元衆院副議長を国会対策委員長に据えたものの、与党が衆院で3分の2以上を占めているという力の差もあって、野党第1党としての存在感はまったく示せないままだ。にもかかわらず、党内では「ポスト前原」の動きが本格化している。有権者、国民世論無視を続ければ、民主党に明日はない。

 前原氏は3月13日に都内で行った講演で、「送金指示メール」を国会質問で取り上げた永田寿康衆院議員の進退について「衆院懲罰委員会の処分のときに、ご自身がどう判断するかということになる」と述べた。

 民主党はメールがにせものと判明した段階で、永田氏を「党員資格停止」にした。その時点で、前原氏は「永田氏は議員辞職をする必要はない」との認識を示していた。やっと、「永田氏の議員辞職は当然」という世論が理解できたようだが、14日の党常任幹事会では「どういうつもりか」と真意をただす発言が噴出。「(講演で)永田氏を辞めさせると言ったわけではない」と、しどろもどろに釈明する場面もあったという。

■降ってわいた4点セット 

 前原氏はメールがにせものであることを最終的に認めるまでに「真実が含まれている可能性が残されている」などと思わせぶりな発言を繰り返していた前科もある。各種世論調査における前原民主党の支持率は急降下、民主党の対応を不満とする有権者は7割から8割にのぼっている。

 前原氏が当初から真偽が判然としなかった「送金指示メール」に飛びついた背景には、自らのリーダーシップを確固たるものにしたいという焦りがあった。抵抗野党から脱却するために前原氏が打ち出した対案路線は党内から「弱腰だ」「政局がわかっていない」と冷ややかな視線を浴び、米中歴訪で示した「日米同盟を基軸に、中国には毅然と対応」という政治姿勢も旧社会党系をはじめとする親中派議員の強い反発を呼んでいた。そんなときに降ってわいたのが、ライブドア、米国産牛肉輸入再開問題、防衛施設庁の官製談合、耐震強度偽装問題の4点セットだった。

 スキャンダル追及という安直な国会戦術に飛びついた前原執行部は、イケイケドンドンで小泉政権を攻め立てた。「対案路線と徹底追及路線の2正面作戦で行く」。前原氏や松下政経塾の先輩である野田佳彦国対委員長(当事)は、「お手並み拝見」をきめ込んだ小沢一郎氏や菅直人氏らのグループを尻目に得意の絶頂だった。「功名を立てることに逸(はや)った永田氏が持ち込んだ材料に、真偽の確認を十分に行わないまま食いついてしまったのもやむを得ない状況だった」(民主党関係者)という。

 その後の前原、野田両氏や永田氏のうろたえぶりは、すでに多くのマスコミが取り上げているので割愛する。

 ただ、野田氏の後継国対委員長を74歳当選13回という超ベテランの渡部氏しか引き受けなかったことが、前原執行部の事実上の終焉を象徴している。渡部氏は目立つポストが転がり込んできたことにご満悦のようだ。テレビドラマ「水戸黄門」で「疾風のお娟」役を演じる女優の由美かおるから就任祝いの電報が来たことを披露したり、地元・会津名産の「起き上がり小法師」を党役員会で配ってみたり…マスコミを煙に巻くためのパフォーマンスを積極展開している。

■責任を明らかにせよ

 昨年の衆院選でホリエモンや小泉劇場をフレームアップした多くのマスコミは、渡部氏の言動を面白おかしく取り上げることで民主党の問題すり替えを手伝うという同じ過ちを繰り返そうとしている。

 その渡部氏が仕掛けたのが9月に予定されていた代表選挙の前倒しだ。3月5日のテレビ番組で「通常国会が終わったあと、ちょっと前倒しということもあり得る」と発言し、すぐに「違う」と軌道修正、7日の党役員会では「言葉足らずで申し訳ない」と陳謝した。

 だが、前倒し発言は、渡部氏自身も前原氏がこのまま代表に居座ることに反対だという意思表示だ。この発言を経て、党内における前原氏の求心力はほぼゼロになり、前原氏が何を発言しようと関心をもたれなくなっている。前原氏が代表就任当初から意欲を示してきた外交・安全保障に関する「前原ビジョン」とりまとめなど、まったく問題外だ。

 渡部氏が前倒し発言について陳謝した同じ日の夕方。参院議員会館に小沢一郎、菅直人両氏ら民主党のベテラン議員や党籍を離脱している横路孝弘衆院副議長ら約60人が集まった。教育政策を考える議員懇談会の初会合だった。小沢、菅両氏ともメール問題を理由とする前原批判は手控えており、この日の会合でもメール問題や前原氏の進退などは話題にのぼらなかったようだが、反前原勢力の存在をアピールする示威行為だ。

 これに先立って、前原氏を守るべき立場の鳩山由紀夫幹事長も3月5日の北海道内での講演で、「小沢氏という民主党にとり最も大きな人物の去就が極めて注目されることになる。しっかりと連携していくことが大切と思っている」と小沢氏との連携に強い意欲を表明している。

 いったん「辞めない」と明言したことにこだわって代表の座にしがみついている前原氏。彼に冷たい視線を浴びせつつ、前原辞任のタイミングと代表ポスト奪取に向けた戦略を着々と練る反前原グループ。どうやらどちらの耳にも国民世論は届いていないようだ。自らの手で、一刻も早く、永田氏がにせの送金指示メールを入手し、これに基づいて国会質問を行った経緯を詳細に明らかにするべきではないか。そのうえで前原氏が自らの責任を明らかにする。1日遅れればそれだけ国民が民主党を見放すことになる。「国会開会中だから閉幕してから」などと言っている余裕はない。
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