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「『量的緩和解除』は国民にプラス?」 長谷川 公敏
(掲載日 2006.05.16)
 日本銀行が2001年3月以来5年ぶりに金融政策を変更し、「量的緩和政策」を解除した。この「量的緩和政策」は特殊・専門的なことなので詳細な説明は割愛するが、要は日銀が金融政策を緩和から引締め方向に転換したということだ。

 ただし、「金融引締め」というと、通常は日銀が政策金利(注1)を上げることを指すが、今回の措置では政策金利を上げていない。これは、日本経済が長期にわたり不況・デフレが続いていたため、金融引締め転換をいきなり本格的には出来ないからだ。

■市場金利上昇の影響

  今回の金融政策転換について日銀は、「量的緩和政策」は解除したが「ゼロ金利政策」で政策金利をほぼゼロ%(0.001%)にしているので、超金融緩和状態は続いている旨コメントしている。しかし、実際に経済に影響を与える市場金利(注2)は待ってくれない。政策金利を上げなくても、日銀が金融政策を引締め方向に転換したのは確かなので、市場金利は急激に上昇しており、それに伴い銀行など金融機関は、定期預金金利や貸出金利などの顧客向けの金利を上げ始めている。

 こうした市場金利の上昇が経済に与える影響を考えてみよう。銀行などの預金金利が上がることは、預金金利ゼロで長い間我慢していた国民にとっては朗報だ。だが、本当に朗報だと喜んで良いのだろうか。

 預金金利が上がると預金者の金利収入は増えるが、その分は必ず誰かが負担している。大まかに言えば、預金者の金利を負担するのは借金をしている人達だ。日本で借金を沢山しているのは、政府と企業、そして住宅ローンなどを借りている人達で、借金の額は、政府は800兆円、企業は550兆円、家計は300兆円ほどある。

 これらの人達は支払う金利が増えるので、それに対して対策をとらなければならない。政府は、(1)さらに借金を増やす(国債を増発)、(2)増税をする、(3)コストを削減する(公共投資や社会保障費、公務員の人件費などを減らす)、などで対応することになる。企業は、(1)従業員の給料など人件費を減らす、(2)原材料などの仕入れコストを下げる、(3)売上を伸ばして利益を増やす、などで対応することになる。

 家計は、お父さんの小遣いを減らすなどで家計を切り詰めるしかない。ただし、家計の場合は預貯金などの金融資産が住宅ローンなどの金融負債よりもかなり多いので、日本の家計全体では収入が増えることになる。

■格差拡大

 結局、金利分だけ見るとプラス・マイナスゼロだが、経済全体にとってはマイナスに作用するものが多く、廻りまわって家計にとってもマイナスだ。

 もうひとつ問題なのは、金利が上がることによって格差が拡大することだ。借金が多い企業や住宅ローンを抱えている家計と、ほとんど無借金の企業や金融資産が多い家計との格差はますます拡大することになる。

 このように考えると、今回の金融政策転換は、国民にとってあまり良いことではなさそうだ。一般に、金融政策を引き締め方向に転換しなければならない経済状態とは、景気が過熱して物価上昇が経済に悪い影響を与えると懸念される場合だ。だが日本経済の現状は、景気が過熱し、激しい物価上昇が懸念される状態には程遠いのではないか。

(注1)政策金利
 市中の金融機関同士で資金の貸借を行うコール市場の、無担保翌日物のコールレート。日本銀行が市中の金融機関に供給する資金量を調節して、このコールレートを操作する。
(注2)市場金利
 債券市場などの金融市場で投資家によって決められる金利。関係者に特に注目されるのは、10年物日本国債の金利。
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