先見創意の会 (株)日本医療総合研究所 経営相談
MENU
 
コラム
今週のテーマ
「日本の国際化および国際人育成に必要な考え方」 小林 肇
(掲載日 2006.06.06)
■複数のものさしの必要性

 先日、世界の国々のガソリン価格比較のニュース(ロイター発)が報道されていた。この記事は4月に国際通貨基金(IMF)が発表した各国のガソリン価格の比較調査を基にしたものである。日本で報道された内容は、おおむね「ベネズエラが世界中でもっともガソリンの価格が安く、その値段はミネラルウォーター以下である」といったものであった。

 この比較によると、日本のガソリン価格はベネズエラの30倍以上である。また、同時にベネズエラの市民がガソリンの価格が安いことから燃費などを気にしていないというコメントも掲載しているものもあったが、それ以上の背景を説明しているニュースは少なかったように感じた。

 この2つの情報に基づいてガソリン価格の問題を考えると、日本が高すぎるか、ベネズエラが安すぎるかという議論に終始しやすい。また燃費を気にしないというコメントはガソリン価格の上昇に不満をもつ日本人にとってはあまり感じのよいものではないだろう。

 対して米国のいくつかのニュースではこのベネズエラの驚くほど安いガソリン価格の情報とともに、ベネズエラの所得水準が簡単に説明されていた。同じニュースでも日本より多くの情報を報道する理由は、米国がベネズエラから大量の原油を購入しているためにベネズエラの現状が米国人にとって非常に興味深いことであることからかもしれない。

 日本のニュースがあまり多くの情報を伝えず、そこで私たちが思考をとめてしまえば、ニュースが報道した事象の1断面からのみ判断することとなり、場合によってはその事象の全体像を見失う可能性がある。ほかの断面を得るためには、例えばインターネットのGoogleで検索を行えば、それほど時間をかけなくとも容易に米国で報道されているベネズエラの所得水準などを知ることができる。そして、日本の「ガソリン価格」と「所得水準」という複数のものさしを使うことで、ニュースの伝える事象の本質を考えることができるだろう。

■医療問題の理解には文化的背景の理解も必要

 医療問題はどうであろうか。医療に関する報道は多岐にわたるが、医療水準を比較するときに良く使われるのは、医療費のGDPに占める割合、心臓病の治療成績などの質に関するデータ、医療保険がカバーする人口などのものさしである。

 これらをもとに議論すると、日本の医療費は米国と比べれば半分以下であり、他の先進諸国と同じ程度とも言うことができる。医療の質では米国に比べると治療成績が低い医療分野がある、というレポートも存在する。さらに米国の医療保険制度提供体制に問題があることも盛んに言われていることである。これらの比較では一概にどちらの国がよいということはもちろん言えないし、どのようにしてその結果が出てきているかということを知ることは難しい。このような複雑な議論を行うためには、他国とわが国双方のものさしを整理することに加えて、その国特有のシステムが構築されてきたバックグラウンドを知ることが必要である。

 この場合では米国の医療保険は労働者に対するプリペイド型の保険からスタートしていることや、米国における自由主義的考え方を知ることで、米国のサブスクリプション型医療保険や医療提供体制をより理解することができるだろう。

 実際、これらの背景を知らずに日本と米国の医療システムを比較検討することは非常に危険である。なぜならば医療保険制度の歴史のみならず、患者生命に関する重要な決断をするための基本的な考え方である倫理観が大きく異なるため、日本人的な考え方にはあわないという理由で切り捨てられてしまう部分が多いからである。

 米国という単一の国と日本の比較でも相互の国のシステムの良い点、悪い点が出てくる。その中には上記のような理由から日本の常識から考えると理解できないものもあり、これらを理解するためには、客観的な比較が可能なものさしに加え、そのシステムを生み出した社会のニーズや文化的背景を考える必要がある。

■国際人の育成に必要な考え方

 異国の文化やシステムから学ぶことはたやすいことではないが、日本が20年以上前から目指す国際化や国際人の育成には欠かすことのできない能力である。現在の国際人を育てるための教育として英語教育が軸に据えられ、いまや小学校から高校までの8年間英語を学ぶ環境が用意されている。国際共通語ともいえる英語を学ぶことは重要である。

 だが、同時に異国という遠い国で起きる出来事を理解できる能力を育てるためには、遠くのものの距離を測るときに三角測量を行うように、複数の視点に基づいた比較とそれぞれの問題の背景を理解するという能力を育むことも、日本の目指す国際化と国際人の育成につながるのではないだろうか。
javascriptの使用をonにしてリロードしてください。
コラムニスト一覧
(C)2005-2006 shin-senken-soui no kai all rights reserved.