2006年4月、診療報酬が3.16%引き下げられた。厚生労働省は、医療保険に使われる医療費は例年3〜4%と増えると言っている。だから診療報酬が改定されたところで、医療費は少なくとも横ばいであったはずである。しかし、日本医師会総合政策研究機構(日医総研)
のレセプト調査では、今年4月の診療所における前年同月比総点数(収入にあたる)は▲5.9%も下がった。これは、平均的な診療所では医業収入が月70万円以上下がることを意味している。多少医薬品代が下がるとしても、職員1人をリストラするか、投資をあきらめろと言われているようなものである
■電力業界の「公正報酬」
同じライフライン産業でも、電力業界とは大違いだ。2005年平均で1バレル51ドルだったOPEC主要油種の原油価格(バスケット価格という)は、2006年4月までに67ドルを超えた。電力の燃料になる原油が高騰すれば、当然のごとく電気料金も上がる。電気料金には、原油価格の変動に合わせて単価を調整することができる「燃料費調整単価」が含まれているためだ。事実、標準家庭の電気料金はこの間、6,200円から6,532円に上昇した。
電力業界は先々の原料価格の変動や投資に備えての体制が万全である。電気料金は「総括原価方式」で決まる。つまり、電気料金の原価として営業費(人件費、燃料費、減価償却費、その他経費)に加え、事業報酬を上乗せして算定する。事業報酬とは、固定資産や運転資本に一定の比率を掛けたものである。
最近の比率は、3.2%だから、小さく見積もっても30年に1度は資産を総入れ替えできる費用を電気料金で賄っていることになる。しかも、この事業報酬は「公正報酬」と呼ばれている。そう、これこそが「公正」な姿なのだ。ちなみに、ガス料金も同じような仕組みで決まっている。
■「公正」な診療報酬は国民のため
この事業報酬のシステムを医療機関に導入すれば、30年に1度は、医療機関の建物の建て替えが可能になる。夢のような話である。現実の医療、介護の世界では、厳寒の折、灯油代が嵩もうが、高齢者を送迎するための車のガソリン代が高騰しようが、すべて提供者である医療機関持ちである。
医療業界は国民の命を守るライフライン産業としての自負を持ち、矛盾点をみつけたら、それをウヤムヤのままにしておくべきではない。矛盾点があれば解明し、改めて「公正」な診療報酬を勝ち取っていくことが、真に国民のためになることではなかろうか。
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