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「次の犠牲者は?」 浜風
(掲載日 2006.06.27)
 「高齢者の負担を増やすだけ増やしてくれた。厚生労働省には次は何をやらせようか」。財務省内で、こんな会話が交わされているのではないか? マスコミ界では「財界御用達新聞」と揶揄されているメジャー紙は、医療制度改革関連法成立後、早くも一度は死んだはずの保険免責制度や総額管理制度の導入、混合診療の拡大を促すような記事を載せ始めた。まさに国民皆保険制度危うし、の感がある。

 今回の医療制度改革関連法には、「生活習慣病対策」「都道府県の医療機関情報の集約と公表」「医療安全支援センターの制度化」など、患者サイドからみれば、頭から「反対」と言いにくい事業がてんこ盛りされたことだ。ところが、それらの事業の中身を点検すると、おかしなことが次々と浮かび上がってくる。

■目立つ患者負担の引き上げ

 例えば、生活習慣病対策では、保険者に40歳以上の従業員への検診を義務付けるのはまだしも、脳こうそくなどにもつながるとされるメタボリック・シンドロームの判定基準は、どうみても実態に合わない。そのうえ、平均在院日数の短縮などと合わせて2025年度までに約2兆円の医療給付費削減効果があると言い張る。

 厚生労働省は何を根拠にそう言い張るのか。よしんば医療費の伸びが抑えられたとして、介護サービスの需要が増え、介護費が増えたら、どうなる? 数値目標の設定と工程表の策定が飯より大好きという経済財政諮問会議の民間議員もびっくりではないか。万事が、この調子。本気で改革を目指そうという気迫さえ感じられない。

 もう1つ目立つのは、患者負担の引き上げ、特に高齢者の負担だ。窓口負担率の引き上げはもとより、療養病床での食費・居住費負担引き上げ、高額療養費の患者負担限度額引き上げ―などは、高齢者世帯を直撃する。

 国会答弁で川崎厚労相や厚労省幹部は「現役世代の負担は限界に近く、高齢者にも応分の負担をお願いしたい」「世帯一人当たりの所得は高齢者と現役はほとんど変わらない」などと強弁していた。

 この答弁は正しくない。確かに現役の窓口負担3割は限界を超えるほど、今でも過酷だと言っても良い。だが、保険料の負担は今の負担水準のままでよいのか、という視点が欠落(回避)している。

■団塊の世代の老後の命と健康は守れるか

 個人的には、健康保険保険料の上限を大幅に引き上げ、会社の重役クラスやITバブル経営者などの保険料をもっと引き上げるべきだと考える。企業の負担増を避けるため、労働組合と一体となって社会保険料の引き上げに反対し続けている日本の経営者には、地域に根差す企業としての「社会的責任」という認識が圧倒的に足りない。

 厚労省の「国民生活基礎調査」(2003年度)をみても、厚労省の言い分はおかしい。年収300万円以下の世帯が6割を占め、公的年金(恩給含む)が所得のすべて(100%)という世帯が全高齢者世帯の実に6割強を占める。

 このデータからは「2カ月ごとに振り込まれる公的年金と、なけなしの退職金(預貯金)を取り崩して暮らす、つつましい高齢者世帯の姿」が浮かぶ。

 まして、問答無用、一網打尽に医療給付費を減らす免責制度や医療費管理制度が強行されれば、低所得者や高齢者の受診抑制は確実となり、文字通り、弱者切り捨てとなるだろう。

 マスコミや金融機関の間では、団塊の世代が受け取る退職金を当て込んだ話題づくりや新商品の開発が盛んだ。だが、老後の命と健康を守る医療制度がこんな調子では、たぶん見込み違いに終わるのだろう。             
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