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「中央銀行受難の時代」 長谷川 公敏
(掲載日 2006.07.04)
 最近、日米の金融政策当局者が、金融政策の変更などで何かと批判の的になっている。そこで、今回は金融政策と経済・株価の関係などについて、最近の日米の動向を見ながら考えてみよう。

■賛否両論の量的緩和解除

 米国では、グリーンスパン氏が議長だった2004年6月、米国の日本銀行に相当するFRB(米連邦準備理事会)は、米国景気の過熱抑制のために金融引締めに転じた。当時米国経済は実質経済成長率が年率4%程度、名目経済成長率は年率7〜8%と、潜在成長率(実質で3%程度)を大きく上回っていた。当時の政策金利は1%だったので、当局の金利引き上げという判断は妥当なものだったといえるだろう。

 金融政策変更の影響が実態経済に出てくるのには半年ほど時間がかかるが、株価は政策変更にすばやく反応する。現に、米国経済は次第に減速しながらも堅調に推移しているが、米国株価は引締め転換以降上がりにくくなり、将来の期待度を表すPER(株価÷1株当り利益)は下がる一方になっている。

 さて、米国経済が減速し金融引締め休止が議論になる中、市場のバーナンキ新議長への評価は「市場との対話が円滑でない」など、就任前の期待に反して余り高くない。しかし、議長の「金融政策は経済指標次第」という公式発言には、特に問題があるとは思われない。

 原因は、どうやら5月に議長が、CNBCの美人キャスターに私的な席で、金融政策に対する市場の反応についてコメントしてしまった事件にあるようだ。

 日本では、日本銀行が2001年3月以降続けていた「量的緩和」を解除し、今年3月に5年ぶりに金融政策を引締め方向に転換した。ただ、日本経済が確実に回復軌道に乗ったとの判断が出来ない中での、いわば見切り発車であったため、政策転換については未だ賛否両論がある。

 日本銀行が金融政策転換の目安にしている消費者物価は、前年比でゼロラインを超えてきているものの、総合的な物価指標であるGDPデフレータは、前年比で1%以上もマイナスになっていて、政府見解では「緩やかなデフレが続いている」状況だからだ。

■福井総裁と金融政策転換

 日本の金融引締め転換は、大方のエコノミストや市場関係者の予想よりも早かったうえに、それまでは日本の金融緩和が世界の資金供給を心理的に支えていたことから、世界の資金の流動性に懸念が生じ、その後の世界株価下落の大きな要因になったとされている。

 日本の株価は、金融政策転換後に上昇する場面はあったものの、その後大幅に下落し、一時、今年の高値から20%近く下落率するなど、先進国では飛びぬけて高い下落率を記録している。

 ところで、福井日本銀行総裁は、こうした株価下落についてどのように考えているのだろうか。

 福井総裁は、今年5月16日の参院財政金融委員会で、民主党の富岡由紀夫氏が、「量的緩和解除後に株安になっている」ことを質したのに対し、「(政策変更による)当然の結果だ」と答弁している。つまり、「政策転換すれば株価は下がる」ことを承知の上で、福井総裁は3月9日に金融政策を転換したことになる。

 大方の市場関係者が政策転換を予想していない状況では、政策転換の市場への影響は通常の場合よりも大きなものになるのだが、福井総裁はあえて信念を持って行動したわけだ。

 福井総裁は最近更なる問題を抱えており、連日報道されている。金融政策転換期にある日米中央銀行トップには、受難の時期が続きそうだ。         
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