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「避けられない『改革調整』」 関田 伸雄
(掲載日 2006.08.01)
 自民党総裁選は各種世論調査で2位につけていた福田康夫元官房長官の不出馬宣言で安倍晋三官房長官の独走態勢となった。安倍新政権の閣僚・党役員人事も注目されるが、自民党内の関心は来年の参院選をどう戦うかに移っている。小泉改革が生み出したほころびをどうやって繕うか。安倍氏は難しいかじ取りを迫られることになる。

■壊れた社会

 読売新聞が6月に実施した世論調査で、ポスト小泉の政権が小泉改革路線をそのまま引き継ぐことに賛意を示す割合は2月時点での調査に比べて10ポイント減の16%にとどまった。軌道修正して引き継ぐべきだという回答が過半数の56%、引き継ぐ必要はないが23%にのぼった。

 5年半にわたって吹き荒れた小泉改革の嵐は大きな社会構造の変化を生んだ。公共事業は2002年度に前年度比1割減となり、その後も毎年3%削減された。この結果、小渕−森内閣の4年間で総額50兆円(年平均12.5兆円)まで膨れ上がった公共事業は、小泉内閣の5年間で42兆円(年平均8.4兆円)に絞り込まれた。建設業界への影響は絶大で、ピーク時の1997年に685万人だった建設業就業者数は、2005年には568万人に激減した。117万人が失業、転職を余儀なくされたことになる。

 一方、規制緩和の波はライブドアや村上ファンドの事件を生んだ。「勝ち組」と「負け組」が明確になり、今年4月に行われた衆院千葉7区補選で、小沢民主党は有権者の「格差」への不満、不安を煽り立てることで議席を勝ち取った。

 自民党にとっては昨年9月の郵政解散−総選挙で民営化反対議員を切り捨てたことによる支持基盤の崩壊も深刻だ。民営化反対議員を抱えた県連組織はどこも大きな痛手を負っている。長年の支持団体であった特定郵便局長会との関係も冷え切ったまま。2002、04、06年度と3次にわたる診療報酬の引き下げで日本医師会との関係再構築も求められている。

■参院自民党の悲鳴と「再チャレンジ」

 「今のままの状況では参院選が戦えない」。来年7月に改選を迎える自民党参院議員から悲鳴が上がっている。青木幹雄参院議員会長、片山虎之助参院幹事長らはこうした叫びを背景に、次期総裁・幹事長に対して改革路線の軌道修正を迫る構えだ。

 とくに、郵政反対−離党組の取り込みと、それをてこにした特定郵便局長会との関係改善が最優先事項だ。すでに小泉純一郎首相からも無所属議員の復党について理解を取り付けており、「首切り役人」だった武部勤幹事長が安倍新政権発足に伴って役職を去ったあと具体的調整に着手して、順次、復党をはかる。山崎拓元副総裁が自らの外遊に無所属議員を同行させたのもこうした情勢を見極めてのことだ。

 公共事業削減で瀕死の状態にある建設業界の救済も課題だ。安倍氏は小泉改革の柱の1つだった国債発行30兆円枠の継承を表明しているが、参院自民党側は治水を含めた防災対策、環境改善のための河川改修などを柱に、地方向け公共投資の増額を求めることにしている。

 安倍氏の事実上の総裁選公約である「再チャレンジ」支援も改革路線の修正を意味する。小沢民主党による「格差社会」批判に対抗するための政策テーマであり、小泉政権最後の「骨太の方針」にも盛り込まれた。今のところ、これはという具体策は見出せていないが、総裁選期間を含め、安倍氏の全国行脚の名目とすることで、参院選を視野に入れた無党派層への支持拡大をはかる方針だ。

ただ、「改革」の旗を堅持したまま、軌道修正、改革の見直しを進めるのは、安倍氏だけでは困難だ。党内における青木氏らとの調整を含めて、柔軟な対応を求められる幹事長に誰を起用するかが焦点といえる。
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