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コラム
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「患者のための広告」 浜風
(掲載日 2006.08.29)
 暫く「患者の視点」で医療制度を考えたい。患者といっても千差万別。偏狭な考えや医療に無理解だったりする患者も結構多い。ここでは平均的な「ごく普通の人」を想定し、課題や解決策をシンプルに考える。第1回は「広告規制」。

 私事で恐縮だが、母の眼検で大変な思いをした。母は横浜市内の老人保健施設に入所。糖尿病からくる白内障の検査を受けさせるため、眼科を家族で探した(老健に提携眼科がない)。

 とりあえず電話帳や市役所の配布資料で探したが、老健施設から近い眼科のほとんどが利用できないことが分かった。車椅子の母には階段が登れないためだった。広告の段階で「車椅子・不可」「エレベータなし」とあれば…。医療機関の広告は患者に役立っているのだろうか。

■患者が知りたがっていること

 2002年4月、医療機関の広告規制が大幅に緩和された。これまで禁止されていた「専門医」や「セカンドオピニオン協力体制」「手術件数」「平均入院日数」などの掲載が可能となった。厚生労働省は「患者に医療機関を選ぶ目安を増やした」と大見得を切ったものだが、実態はどうか?

 当初、医療機関の間で賛否両論が巻き起こったが、患者から言わせれば、「それがどうした」という程度のものだ。「専門医」の基準さえ知らされないし、平均在院日数や手術件数の数字的な意味も知らされないからだ。

 患者が知りたがっていることは、まず「近くのどんな医療機関があり、どんな診療科があり、どうすれば、そこに行けるか」という広義のアクセス。駐車場もエレベータもない医療機関の利用には、移送サービスの併用などが必要だと患者に事前に知らせておくくらいの度量がほしい(極めて個人的な言い分)。

 次に「どんな検査や治療が受けられるか」。前提として、患者は専門医(認定医含む)や治療方法などに関する基本的な知識を知っておく必要がある。医療機関が患者に過剰な期待や失望感を与えるようでは、かえって患者の不信は深まる。広告には、専門医の掲載だけでなく、具体的な説明(どんな専門医で、いつ更新した、得意とする治療方法など)が載っていなければ患者は理解しようがない。

 日本医療機能評価機構の評価は、改善されつつあるが、評価対象が医療機関からの申し出によるもの(任意制)では、患者への説得力に欠ける。評価結果が広告に掲載されてたとしても、現状で、患者が医療機関を選ぶうえで、大きな動機になるとは思えない。

■正確な医療情報を維持するために

 少し古いが、「日経ヘルスケア」が2001年7月に実施した調査によると、医療機関広告の上位は、電話帳、市中の看板広告、電柱広告、駅の看板広告の順だった。限られたスペースの中で(患者が知りたがっている)情報をすべて載せることは難しい。

 1つの考え方として、国、地方自治体、保険者、医療機関が連携し、救急手当の方法から医療機関へのアクセス、医療機関の特徴、医療保険の手続きなどを網羅した実用本位の「医療の手引」のような冊子を国民に無料配布したらどうか。健康保険組合や共済組合にも相応の出資をお願いする。昨今、根拠が薄いと思われる「名医」や「医療機関」「治療方法」「健康」の情報を垂れ流すメディアや番組が増えた。正確な医療情報を維持するには、医療機関における広告の在り方から見直すべきだろう。
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