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コラム
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「これからの自治体病院―市立小樽病院の新築移転を例に―」 片桐 由喜
(掲載日 2006.09.05)
 北海道の代表的な観光地、小樽が厳しい財政難に苦しんでいる。ここ数年来、市民サービスが縮小・廃止され、市全体が緊縮財政の中にある。このような状況の中、市は市立小樽病院(以下、樽病)・市立小樽第二病院(以下、第二病院)の統合新築を立案し、実現に向けて動き出した。

 樽病の最も古い建物は昭和28年建設、第二病院は昭和49年であり、両病院はいずれも老朽化が激しい。加えて市立病院が2つに分かれていることによる患者の不便、経営上の非効率性などから、両病院の統合新築は十数年前からの懸案事項であった。

 現市長は8年前の市長選においてこの統合新築を公約として掲げ、平成11年に市立病院新築検討懇話会を構成し、同13年に同会から「市立病院新築統合に向けての提言」を受けた。また同15年には「新市立病院基本構想(以下、基本構想)」を策定し、新病院の青写真を示している。

■共通する赤字経営問題

 興味深いのは上記提言が新病院建設を諸手を挙げて賛成しているのではなく、いくつかの条件をクリアした場合にのみ病院建設は市民の同意が得られると結論付けていることである。ポイントは3点である。1つは市民の税負担に値する病院であること、第2に開かれた経営責任システムが病院に導入されること、最後は病院建築に当たっては決定過程を含め情報公開につとめ、市民の合意形成に努力すること、というものである。

 この提言の背景には、全国どの自治体・公立病院にも共通する赤字経営問題がある。ちなみに現在、2つの病院に対し小樽市は一般会計から毎年4〜6億円の赤字補填をしている。市民の血税を使って赤字を埋める以上、市立病院の存立はそれに値するものでなければならず、それを担保するには責任ある経営体制が必要であるという、一般の取引社会では至極当然のことを明言したところに、この提言の意義がある。

 他方、市が「基本構想」や最近の広報誌で示す新病院はオール診療科目をそろえた総合病院、病床数約500、総工費約200億円、市民負担は34年間に渡り毎年2億円、というものである。この市の示す病院像やそれに至る決定過程が、先の提言の意図を反映しておらず、市民の間に多くの不信不満を呼び起こした。そして、ついに今月18日、上記懇話会のメンバーや医師会が中心となって、「新樽病を考える市民フォーラム」が開催されたのである。

 当日は450人入る市民ホールに立ち見が出るほどの盛況であった。それだけ多くの市民が関心を持っていることの表れに他ならない。パネリストの1人として壇上にいた私の目には、市民がはじめて知る事実に驚く表情が良く見て取れた。樽病および第二病院の2人の院長も参加され、それぞれ率直に忌憚のない意見を述べられたことが市にとっての救いといえる。

■税負担を市民が納得する病院像

 今後、とりわけ地方都市の自治体は少子高齢化や過疎の進行、不景気による税収減など苦しい財政のかじ取りを強いられる。一方、医師養成制度の改革により、地方病院からの医師引き揚げが顕著となり、郡部はこれまで以上の医師不足に悩まされている。このダブルパンチをまともに受けるのが自治体病院である。このことを強く意識して病院構想を練ることが首長に求められている。

 どのような自治体病院を作るかは、その地域性、自治体の規模、財力、管轄地域内の民間医療機関の状況等を考慮して初めてその青写真を描くことができる。そして、何より納税者が納得しうる、換言すれば税金投入が許される公立病院だけが今後はその存在が許されるであろう。

 税負担を市民が納得する病院像を明らかにすることは、すなわち公立病院が担う役割の明確化に他ならない。そしてそれは他の民間医療機関が果たし得ない部分は何かを知ることである。この分析・精査なくして新しい自治体病院構想は生まれようがない。

 これを異なる視点からみれば、官民の医療供給協同体制といえる。いわゆる官民コラボレーションあるいは地域連携である。新しい自治体病院は既存の民間医療資源を100%活用し、また、更なる役割として、民間医療機関同士が地域連携をしやすい体制作りとその活性化を行政の力をもって推し進めるべきことが期待される。

■自治体病院に透明で責任ある経営体制を

 最後に、これからの自治体病院に必要な要素として、透明で責任ある経営体制を指摘したい。例えば市立病院には2人の長、市長と院長がいる。行政組織上の頂点にいる市長は病院の現場にはおらず、医療の素人である。他方、院長は一見、病院の運営の全責任を負っているように見えるが、決定権限はない。

 このような体制は、結局どちらにも責任逃れの道を開き、経営無責任体制の温床となりやすい。どのような形態であれ、病院内に決定権限と責任のある経営組織を設けることが肝要であろう。

 私は自治体・公立病院はその存在意義を失っていないと考えている。市民の税金で赤字を補填してでも果たさなければならない役割は残されているといっていい。重要なことは、それが何であるのかを鋭く見極め、納税者に対する説明責任をしっかりと果たすことであろう。
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