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(掲載日 2006.10.10)
最近の日本では医師の不足、とりわけ産科医師の不足がメディアで取り上げられている。産科をやめていく、または選ばない医師が多い理由として、日本における昨今の医療訴訟の増加や産科勤務状況が悪化していることなどが上げられている。米国の産科における医療訴訟の件数を日本と比べると米国は日本よりもはるかに医療訴訟数が多い国である。では米国での産科医の動向はどのようになっているのであろうか?
■米国医学部学生の診療科の選択とトレーニング
米国で医師になるためには米国の医師国家試験に合格しなければならないわけであるが、米国の医師国家試験は3段階に分かれており、まずはその2段階目まで合格することで病院で研修医として働くことができる。この2段階目までを受験するためには米国大学医学部を卒業するか、他国の医学部を卒業していなければならない。研修医として最低1年間の研修を行った後3段階目の試験に合格することで、米国内で医療を行う資格を得ることができるようになっている。たとえば医学部学生が麻酔科医になりたいと思った場合、医師国家試験第2段階目合格後すぐに研修が行えるよう、医学部在籍中に研修機関とのマッチングに応募し、試験合格後にマッチした研修機関において研修を行う。医師としての資格を得るための次の試験を受けるには先に述べたように1年間の臨床研修でよいが、麻酔科の専門医となるためには3年間の研修を終了した後に麻酔科の専門医試験に合格する必要がある。
3年間の研修を終了し麻酔科医専門医となった医師は麻酔科医師グループに就職して臨床を行うか、フェローシップに応募し、研究と臨床を行うことで心臓麻酔、産科麻酔といった専門に進んでいくことになる。よって米国の医学部学生も日本と同様、学生の時点で自分の将来進むべき診療科目を決めることになり、学生が診療科目を選択するときにはその診療科目のライフスタイルや収入、臨床実習時の経験などから判断することになる。
米国においても医師としてより病院からの束縛の少ない診療科を選ぶ動きは加速しており、放射線科や皮膚科といった人気のある診療科の研修プログラムにマッチすることは難しくなってきている。医学部学生の産婦人科離れは進んでおり、米国産婦人科学会によれば1997年に比べ2004年の米国医学部卒業学生が産婦人科の研修に進む割合は21%も減少している。
■それでも米国の産婦人科医師数は不足しない
上記のように米国大学医学部を出身した学生の産婦人科離れは著しい。それでも米国の産婦人科医の数は不足しないのである。なぜならば、上で述べたように外国医学部卒業生に対しても医師になる道は比較的広く開かれているため、外国から数多くの人が米国で医師になるべくやってきており、それらの人々が米国人があまり希望をしない為比較的研修のマッチングが取りやすい産婦人科の研修プログラムに入ってきているからである。米国産婦人科学会の報告によれば2004年に新規に産婦人科の研修を始める研修医の実に35%は外国の医学部を卒業している。つまり外国人医師によって産婦人科医師の不足は補われているのである。
■病院における産婦人科の事情
米国の病院では直接医師を雇用することは少なく、通常は医師グループと契約を行い手術室や病棟などの場所および看護師を提供するシステムをとっている。患者もしくは保険会社に対しては病院、医師のそれぞれから治療費用の請求が行われる。米国全体として産婦人科医の数は保たれているが、州によっては産婦人科特に産科の医療体制を保つことができていない州が存在する。
例えばペンシルベニア州では産婦人科医師が急激に減少しており、これは主に医療訴訟が原因である。日本と違い米国では州ごとに法律が違うため、医療賠償責任保険の年額保険料や訴訟があった場合、その翌年の保険料の上昇率は州によって大きく異なる。産婦人科医師一人当たりの医療賠償責任保険の年額保険料は高いところで2500万円にも上るため、さらにその上昇率が高ければ医師グループの経営は非常にリスクの大きいものとなる。よって医療訴訟が多ければ多い州であるほど産婦人科医師グループの経営は難しくなり、解散するグループが多くなる。産科医療を病院が提供したいと思っても医師グループが存在しなければ不可能であり、産科医療の提供問題はそれぞれの州の法律など外部の環境によって解決する問題となっている。
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米国では外国人医師を受け入れることにより医師不足を解消している。これはすなわち医療という公共基盤のひとつを外国からの労働者の手にゆだねていることに他ならない。このシステムを安定させるには常に米国で医師になりたいという需要が海外からあるようにすること、すなわち米国の医療現場で医師として働くことが海外から見て魅力的に見えるように保たなければならないということである。このあたりに米国の米国医療への自信が現れているようにも思われる。
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