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「『政策に逆らうな』〜新政権で株価はどうなる〜」 長谷川 公敏
(掲載日 2006.10.31)
 安倍晋三新政権が発足した。今回は新政権下の株価動向について考えてみよう。

 昔から株式市場には「政策に逆らうな」という格言がある。通常、株価全体は経済動向、個別銘柄の株価は企業収益動向の見通しに左右されるが、国の政策が変更されたときには株価が大きく変動するからだ。

 2001年4月小泉純一郎前政権が発足した。80%という高い政権支持率のもと、日経平均株価は5月に14529.41円の高値を付けた。しかし前年から始まっていた「ITバブル崩壊」による不況に加え、外資系証券会社のアナリストによるレポートがきっかけになって、金融機関の不良債権問題がクローズアップされたことから、株価は下落基調に転じた。

 2001年10月、金融担当大臣は「金融再生プログラム」を打ち出した。これは金融機関の不良債権の認定基準を厳しくするとともに処理を促進させるもので、その際の会計処理も変更した。そのため金融機関は一層苦境に追い込まれ、大手金融機関にさえも悪い噂が広がっていた。景況感も引き続き悪かったことから、日経平均株価は2003年4月に7607.88円まで下落した。

 その後、株価は上昇に転じたが、そのきっかけは、政府が担当大臣の「大きな金融機関でも、倒産しないことはない(Too big to failということはない)」という方針を変更し、りそな銀行に公的資金注入を決めたことだった。株式市場は「これで、金融機関倒産の恐れはなくなった。不良債権問題は解決に向かう」と確信したわけだ。

 統計数字で見ると、日本の景気は海外景気の急速な回復を受けて、既に2002年1月から回復過程に入っていた。しかし、株式市場にとっては「金融再生プログラム」のほうが重かったので、株価は景気が回復過程に入ってから1年半も下落し続けた。

 本来、株価は景気に先行するはずだ。だが、金融機関の倒産懸念に加えて、不良債権処理の促進は、逆から見ると企業倒産促進・失業者増加促進ということであり、日本にとっては致命的な政策だった。そのため、「政策に逆らわない株価」は、景気に大きく遅行した。

 新政権の経済政策は株価にどのような影響を与えるだろうか。

 株価がボトムをつける1年半前から始まっていた今回の景気拡張局面は、この10月で「いざなぎ景気」と並ぶことになり、戦後最長になることがほぼ確実だ。

 しかし、この間の経済規模の拡大は僅か4%程度に過ぎず、「いざなぎ」のときの2.2倍とは比べるべくもない。(いずれも名目GDP:名目国内総生産)

 従って、新政権に求められるのは、より高い経済成長だ。幸い新政権は「上げ潮」政策を標榜しており、短期的にも長期的にも高い経済成長率を目指している。新政権が打ち出した「イノベーションにより潜在成長率を引き上げる」経済政策には、大いに期待したい。

 しかし、「財政再建」という課題は余りにも重く、長期的に効果がある経済政策は期待できても、政府支出を伴う短期的な景気対策にはほとんど期待できない。

 新政権の景気対策は、政府支出ではなく金融政策になる。未だデフレ脱却が定かでない中、前政権で利上げに走った日本銀行に対し、新政権からは「再利上げは当分控えるべき」という無言の圧力がかかるだろう。

 金融政策は株価に良く効く。米国では2004年6月の利上げ以降、企業業績が好調だったにもかかわらず株価が低調に推移していたが、利上げ停止観測・利下げ期待が出てきてから、NYダウは歴史的な高値を更新している。

 米国が利上げを停止したことから分かるように、今後の米国経済や世界経済は更なる減速が予想されている。

 政府支出を伴う景気対策が期待できない日本経済も先行き予断を許さないが、新政権下の金融政策は、「政策に逆らわない株価」にとってはプラスに作用するに違いない。
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