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コラム
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「他人事ではない金融政策〜金融政策と社会保障制度の関係〜」 長谷川 公敏
(掲載日 2007.01.30)
 普段、金融政策決定会合など全く気にしない人達でも、今回「日本銀行(以下、日銀)が金利を上げる・上げない」という一連の騒動には、関心をもたれたのではないだろうか。

 騒動を簡単に述べよう。日本経済はデフレが続いているので、客観的に見て金利を上げる状況ではなかった。しかしマスコミ報道で、福井日銀総裁の「利上げへの意欲」が極めて強いことが分かったために、政府・与党は利上げに猛反対した。

 日銀が引き上げようとした金利の幅は僅か0.25%ポイント(0.25%→0.50%)に過ぎず、経済にはほとんど影響がないようなものだった。だが、安倍政権は経済成長率を高める「上げ潮政策」を標榜しており、利上げはその政策に反するものなので、政府・与党は到底容認できなかった。

 結局利上げは実施されず、一連の騒動は、福井日銀総裁が政治の圧力に屈したような印象を与えた。

 ところで、今回の件については、政府や日銀は大騒ぎしているものの、金融政策や0.25%ポイントの金利の行方など、「国民には余り関係がない」と思われているのではないだろうか。

 だが日本が置かれている経済状況からすると、日銀の「金融政策・金利動向」は非常に大きな意味を持っている。なぜなら、やや大げさに言えば、年金・医療などの社会保障制度の命運がかかっているからだ。

 日本の社会保障制度は海外の先進国と比べて非常に優れた制度だ。しかし、この優れた制度の維持・拡充が大変難しくなってきている。それは、ひとつは今後人口減少と高齢化が進み、コストが増えるにもかかわらず保険料や税金の出し手が減るためであり、もうひとつは、日本経済の規模と社会保障制度のバランスが悪いためだ。

 前者については、人口減少が経済に本格的な影響を与え始めるのは、まだ10年も先の話だが、後者については既に喫緊の課題になっている。そのため政府は、社会保障制度を手直しすることで、コストの大幅な削減を図ってきた。

 ただバランスの悪さは、社会保障制度に問題があったというよりは、長期間日本経済がほとんど成長しなかったことにあるので、安倍政権では、コスト削減よりも経済規模を拡大することに重点を置いて、バランスを是正する意向を示している。これが「上げ潮政策」だ。

 日本経済は1997年度に消費税率の引き上げという特殊要因による物価上昇はあったものの、1994年度以降は名目成長率が実質成長率を下回るデフレ状態が続いている。日本は長期に渡るデフレという、近年の世界の歴史の中では極めて特異な経済状況にあるわけだ。

 この歴史的なデフレを脱却し経済の基盤を固めるためには、様々な景気対策と共に、景気下支え効果がある「低金利の継続」は欠かせない。従って、今回の政府の日銀への要望は、正当なものだったといえるだろう。

 前述の通り、日本はデフレ、人口の減少・高齢化という特異な状況にあるので、社会保障制度と経済政策・金融政策の関連が強くなっている。

 こうした視点に立てば、金融政策を担う日銀の役割は経済が正常な国よりも重く、しかも異質なものにならざるを得ないはずだ。日銀は他の国の中央銀行や平時のように、物価の番人として足下の物価や将来のインフレ見通しで金融政策を行うのではなく、日本経済が本当に正常化したと確認できるまでは、利上げをしないという政策をとるべきではないか。

 日銀が相手にしている物価は、インフレではなくデフレなのだから。
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