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「人口減は外国人労働者で解消すべきか」 杉林 痒
(掲載日 2007.02.06)
 人口が減って、労働力の確保に苦労をすることになるから、日本も外国人を積極的に受け入れていくべきだ――。というと、もっともらしく聞こえる。

 米国が成長を続けているのは移民を受け入れて人口を維持し続けて活力を維持しているためだ――。すぐにそんな意見が出てきそうだ。

 企業はそれでいいだろう。ハングリーで既存の日本人がいやがる汚い仕事も安い賃金でこなしてくれる。アジアの製造業とも同じ製品で価格競争ができる。日本の社会にとって、こんな都合のいい存在はない。

 本当にそうだろうか。そういう人たちの労働力だけを単純に使うことができるだろうか。外国人も人間だ。日本に正式に受け入れるとなると、子供も生まれれば、病気にもなる、年もとる。教育をはじめとして、諸々の社会保障の費用は誰が負担するのか。

 それは、本人を含めた社会で負担することになる。しかし、本人の給料が低い前提だと、所得税はほとんど負担せず、所得比例である社会保険料も低い。ということは、賃金が低い労働者であることがメリットと考えられる外国人を増やすと、日本社会は持ち出しが多いことになる。日本社会が低賃金労働者を使いたい企業に補助金を出しているようなものである。

 これは日本社会と外国人労働者にとって意義のあることか。まず、日本社会にとってはメリットどころか、日本人労働者の賃金を下げる要素になりかねない。それは、いまの戦後最長と言われる景気拡大下でも賃金が増えないことによって、すでに実証されている。輸出メーカー中心で発想されている日本の経済社会において、労働者は、製造コストとして外国の労働者と競争させられている。

 さらに、外国にいた安い労働者が国内に入ってくることで、輸出メーカー以外で働く人の賃金相場にも引き下げの圧力がかかる。輸出産業が売り上げを伸ばし、安い労働力をこき使うホワイトカラーたちの給料は上がるかもしれないが、現場に安い外国人労働者が混ざることで日本人労働者の給料も下がり、非正規の日本人労働者はさらに低い賃金に甘んじることになる。それが他産業の正規・非正規の労働者の賃金の相場にも悪影響を及ぼす。知らないうちに日本の労働者はアジアの労働者との賃金引き下げ競争に巻き込まれているのだ。

 日本は「ものづくりの国」で、貿易でもうけていると誤解している人が多いが、低賃金で働いて、輸出を続けることが日本人をしあわせにしているだろうか。働いても働いても所得が伸びず、所得が増えなければ節約せざるを得ず、国内の景気はよくならない。社会保障のための十分な保険料も税も集まらないので保険料率・税率は上がるので、可処分所得は減るばかり。

 さらに、輸出代金はほとんどがドルなので、日本では使えない。輸出産業は銀行で円に替えるが、銀行は景気が悪い日本では運用先がないので、ドルのまま運用したほうが効率がよい。これがひとたび円高になると、ドルで持っている資産は目減りする。日本製品を輸入する側からすれば、ドルを払っても、それは国内で流通し(景気がよくなる)、円高になれば借金は棒引きされる結果になる。

 日本人は米国に安くて良い商品を提供する「奴隷」のようなものだ。これを遮断する方法は2つある。ひとつは輸出産業が、使いたい安い労働者がいる国に出ていって製品を作ることだ。そうすれば、「奴隷労働ウイルス」が輸出産業以外にまき散らされる可能性は減る。日本にいる賃金が低い外国人労働者は送金が前提なので、国内では最低限の消費しかしない。日本にいても海外にいても、国内景気に与える影響は小さい。

 もうひとつは、最低賃金を引き上げて、日本に来る外国人にも厳格に適用することだ。そうすれば、彼らが外国人であることは意味がなくなる。

 いまや、輸出産業の工場は、鳥インフルエンザにおびえる養鶏場のような存在だと理解すべきだ。渡り鳥にインフルエンザをうつされたら鶏舎全体の鳥を処分せざるをえないだけでなく、その地域の鳥にも風評被害が広がる。渡り鳥である外国人労働者が運ぶ「奴隷労働ウイルス」はすでに、輸出産業の工場に蔓延しているのに、渡り鳥が自分の鶏舎の鳥だと勘違いしている。鶏舎ならすべての鳥を焼却処分するとともに、周辺の鶏舎も徹底的に消毒しているところだ。「奴隷労働ウイルス」は、すでに手遅れなぐらい広がった。一日も早い対策が必要だ。
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